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読書感想『夜空に泳ぐチョコレートグラミー 』町田 そのこ

こんな狭いところに閉じ込められて、息苦しくないのかな?

みたらし団子にかぶりついたら差し歯がとれた…
その差し歯が、サキコの記憶が溢れるのを防ぐストッパーだったらしい。
差し歯がとれたことがきっかけで、サキコの記憶が溢れだす。
それは、前歯を折った張本人であり、サキコの一番愛する人・りゅうちゃんとの思い出だった。
すり鉢状の小さな町で、そこに閉じ込められたような閉塞感にさいなまれながら必死に足掻く短編5本からなるデビュー作。


同じ町を舞台に、年齢も立場も違う5人のそれぞれの物語が繋がる連作短編集。
差し歯がとれたサキコの話から始まり、片親の中学生・啓太と同級生・晴子の話、自分への遺書を残さずに自殺した恋人を忘れられない沙世、疾走した父と同じにはなりたくない唯子、4度の流産で夫からDVを受けるようになった桜子の5編が展開する。
それぞれの話が緩やかに繋がっている連作短編集である。
全体的に、少し一般的とは言い難い家庭環境や家族を抱え、どうしようもできない葛藤をいだきながらもこの場所で生きるしかない人たちが描かれている。
個人的には最初の一編でもありデビュー作だというサキコの話が一番面白かったが、それ以外もとてもよかった。
それぞれにこの場所を愛してはいるのに、同時にここを捨ててしまいたい衝動や焦燥感…焦りや諦めが丁寧に描かれており、それでいてこの場所でしか生きてはいけないのだというのがひりひりと伝わってくる。
いや~…なんだろうね、町田作品は誰もが持ってるけど具体的に言葉にできないような感覚が丁寧に描かれていると感じる。
それぞれが抱える生きづらさに打ちのめされそうになりながらも、必死に足掻いて何とか進んでいこうとする力強さが終始漂う一冊だった。
繋がってはいるものの、一話一話が独立していてそれぞれが余韻のある話なので、一気に読んでしまうのがもったいない。
うん、素敵な一冊でした。

こんな本もオススメ


■阿部 暁子『カフネ』

■津村記久子『水車小屋のネネ』

■寺地 はるな『ガラスの海を渡る舟』

何があってもその場所で生きていかなくちゃいけなんだよな…と思わされる本たちですね。…頑張る…うん…。

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