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読書感想『謎解き広報課 わたしだけの愛をこめて』天祢涼
負けるもんか
一部の町民からの『よそ者』に対する拒絶感を肌で感じたことで、自分がこのまま広報紙を作っていいのかを葛藤していた新藤結子。
そんな悩みの最中、高宝町を含む広域を大地震が襲う。
日常が崩れ、他の部署の仕事にも駆り出されながらもなんとか自分の仕事を続けようとする結子だったが筆は進まない。
上司の伊達に手伝いを打診するも、何故か伊達は全くのってこない。
広報誌の大切さを信じている結子だったが、避難所での被災者からは「こんな時も取材なのか?」と非難される事態も発生し…
地元広報誌の大切さや底力を信じる新人広報マン・結子の物語、最終章。
うおおおおお、三部作!三部作無事完結…お、おめでたい…。
2巻の時はこっちから興味持っても問題ないなって感じでしたが、3巻に関しては是非2巻(出来れば1巻から)順に読んで欲しい。
今まで紆余曲折があってこその、最後、じっくり地元広報誌によそ者が対峙することが効いてくる一冊になっている。
一部の町民に受け入れてもらえない現実に叩きのめされながらも、地元を盛り上げる、地元の人に情報を伝える広報誌作りに真摯に向き合ってきた結子。
今までそういう辛さはあったものの内容としてはどこかコミカルで前向きなお仕事小説だったシリーズですが、今巻はそこから、一気に心苦しい現実が待っている。
震災である。
あとがきでも触れられていたが、天祢先生はもともとこのシリーズで描きたかったのは震災とその時に奮闘された広報マンたちの話だったそうで…。
なるほど…こりゃ、一冊で描くようなテーマじゃない…いきなり震災で広報マンを描いてもそれはそれで意味のある本にはなるだろうけどもきっと内容とか伝わってくるものがまるで違ってしまっただろう。
ここまでたっぷり広報誌と地元のつながりの密さが描かれてきたからこそ、非常時にその取り組みがどんな風に芽吹いたかが伝わってくる内容に、今まで結子を見ていたからこそグッとくるものがあるのだ。
そしてそんな中、今まで鬼のように赤ペンチェックを入れてきた上司の伊達さんが今巻では全く結子に協力的ではないのが謎であり、そして解き明かされるのは伊達の抱える現在と後悔の話である。
だ、伊達さーーーんんんん、え、思ってたより抱えてるもの大きいし辛いじゃねぇか、ちくしょう!…と、これも今までで散々伊達さんを知ってるから余計に思う気がする。
いや、これ本当に…無事ここまでたどり着いてよかった…三巻が描かれて本当に良かったとしみじみ思える最終巻である。
自分のことを受け入れてくれない人もいる町と結子はどう折り合いをつけて行くのかを見守りながら、地域密着だからこそできる広報のありかたや届けられる情報の密度に感心してしまうし、日々積み重ねられてきたものが、その日常が壊れた時にどんな意味を持つのかを考えさせられる。
何気ない日常を今まで追いかけてきたからこそ、その日々がどれだけかけがえのないものだったかが読んでいるこちらにも切実に響いてくる。
こういう思い入れや読後感は、シリーズとして追いかけてきたからこそ生まれるものだと思うので三部作が無事に刊行されて読者としてとても嬉しい。
結子を含め、物語に出てきた広報担当者たちの矜持と地元への愛を感じられるシリーズで、読んでいると信念を持って取り組めることがある人が羨ましくなってくる。
いやぁ、納得の三巻。いいシリーズの締めだった。
満足です!
こんな本もオススメ
・三浦しをん『星間商事株式会社社史編纂室』
・額賀澪『弊社は買収されました! 』
・彩瀬まる『やがて海へと届く』
お仕事小説と震災小説を…1冊で読ませる小説とシリーズで描けるものってあれですね、内容の長さとかだけじゃなくて、描けることのテーマへの深度がまず違うなって思ったり。