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サクラサク。ep8
「人間とネコではね。生きるスピードが違うんだ」
また始まった。ご主人様の独り言タイム。
可哀想なので、吾輩が話し相手になってあげることにした。
「猫は、人間なんかよりずっと賢くて良いヤツだ」
そんなの、当たり前だろう。
吾輩は胡乱な目で、酒の匂いがする缶を持つご主人様を見つめる。
「だから、神様は人間よりも先に猫を連れて行ってしまう。神様は良い子が好きだからね」
カミサマの話、好きだな。また言っているよ。
「でもね、だからこそね。お前はたくさん悪あがきするんだよ」
--そうじゃないと、俺が一人ぼっちになってしまうからね。天国に、俺は持っていけないんだよ。
寂しがり屋なご主人様のあの言葉は、ずっとココにいても良い合図なんだと思っていた。
それなのに。
家に帰って来ても、ご主人様とは会えなかった。
コツコツ。
吾輩はハッとした。
この音!ご主人様が歩いて帰ってくる音だ!
なんだ、やっぱり居るんじゃないか。さては、吾輩を驚かそうとしていたな。
その手には乗らない。
吾輩はそっと庭の茂みに隠れた。
今度は、こちらが驚かしてやる。
ほら。ご主人様、吾輩はこんなに悪あがきしているよ。ご主人様を欺こうとしているんだから。
カミサマは良い子が好きなのだろう?
天国に、ご主人様は持っていけないのだろう?
だから、吾輩はご主人様のそばにずっといるしかないんだ。
人間と猫は生きるスピードが違うのだとしても、同じ時間を生きよう。
また一緒に。
いそいそと隠れて様子を伺ったが、今度はまたこちらが驚かされることになる。
…誰だ、このオジサン。
ご主人様だと思っていた面影は、よく似た別人だった。それなのに鍵を開けて、我が物顔でご主人様の部屋に入って行く。
やめろ!そこはご主人様と吾輩の家だぞ!
ご主人様だけが…。
そこから吾輩の言葉は続かなかった。
言葉にしたところで、ニンゲンに猫の声は届かないのだ。
ニンゲン同士なら、通じるのだろうか。
どうしてご主人様と吾輩は 、違う生き物に生まれてきてしまったのだろう。