サクラサク。ep10
吾輩は猫である。名前は朔(さく)。ご主人様を見失った矢先、ニンゲン・サクラと再会した。
そして、サクラの部屋にいる。
「ほら、クロ。まずは足を綺麗にしようね」
さっき「朔」って呼ばれた気がした。
だけど、サクラは相変わらず「クロ」と呼んでいる。
あれは空耳だったのだろうか。
吾輩がそう呼んでほしくて、聴こえてしまったのだろうか。
サクラの部屋は、花の良い匂いがした。
ご主人様と部屋のサイズは同じくらい。
一人と一匹にはちょうど良い大きさ。
だけどサクラの部屋の方が、本が整列していて広く感じる。
ご主人様の部屋にも古い本はたくさんあったが、時々雪崩が起きた。
というより、吾輩が飛び乗って起こした。
桃色と、雪の色と、薄い葉っぱの色。
サクラの部屋は、優しい色に溢れている。
サクラが温かく湿ったタオルを持ってきた。肉球をそっと拭っていく。
爪は怖くて、あまり触れないみたいだ。
ご主人様は大雑把で、いきなりシャワーをかけてくることが多かったから、サクラの行動には戸惑いを覚える。
「クロ、大人しくてお利口さんだね」
ご主人様とサクラ。
同じニンゲンなのに、違う生き物みたい。
良いのかなぁ。
サクラといても、ご主人様のことばかり考えている。
申し訳ない、サクラ。
やはり吾輩はサクラの家の子にはなれないみたいだ。だけど、どうかココにいさせて欲しい。
吾輩がこの世界にいても良いことを、認めてくれるニンゲンが必要なのだ。
まだ、神様に飼われたくないから。
サクラとサクの、新しい生活が始まった。