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若井のフィクション日記 No.6「冬の散歩」

皆さんは散歩が好きだろうか。
私はかなり好きな方だ。
特に目的地を持たずに歩くのだ。
知らない街ですれ違う知らない人たちの生活を想像しながら歩くのだ。
この時が一番楽しい。

今日は久々に散歩をした。
渋谷駅から降りて遠くに見える東京タワーの方へ歩いた。
東京はあまり自然がなくなってしまったとは言え、季節の虫の鳴き声は多少は聞こえる。
この前まではスズムシが鳴いていたが、いつのまにか聞こえなくなってしまった。
もう冬が近いのだろう。
薄手の長袖一枚だと風邪をひきそうだ。

山手とはよく言ったもので、山手線の内側は外側と比べて標高が高い。
渋谷を出るとすぐにのぼり坂だ。
実際には東京タワーはほとんど見えないが太陽から方角を考えて東京タワーがありそうな方向へ歩いていく。
そう言うちょっとした自然との関わりも好きだ。

なるべく狭い道を通って「人の暮らし」を感じるようにしている。
広尾あたりを通った時に大きな犬を連れたおじいさんとすれ違った。
犬は詳しくないがゴールデンレトリバーか近種だろう。
区内で大きな犬がいる地域は平均所得が高いと私は思っている。
あのおじいさんもきっとそれなりの収入なのだろう。
何をして稼いで広尾に住んでいるんだろう。
もう隠居だろうか。
そうやって暮らしを想像するのが楽しい。

六本木、麻布あたりになると高い建物が増えてくる。
広尾の高級感とは少し異なり、ビジネスの印象が増した。
ここで働く人々はどこに住んでいるんだろうか。
逆にここに住んでいる人はどこへ働きにいくのだろうか。

そうこうしているうちにもう東京タワーに着いてしまった。
やはりいろいろ考えながら散歩をするのは楽しい。
少し寒いくらいだったが、帰りを急ぐほどの寒さではなかったので、かえって散歩に集中できた。
また近いうちに散歩しようと決め、帰路についた。

若井俊頼

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