曲がり角追う人消えて沈丁花 ─ 三月中旬篇 @2012
@2012 の春の日記から
曲がり角追う人消えて沈丁花 ─ 三月中旬篇
3月17日 (土)
▼一度だけ背中流してあげたこと
▼口喧嘩した事もないまま色褪せる
▼夜更かしの時間に電話かけたこと
真冬に公衆電話から友達に電話をするのは辛かったなあ。
今の時代のように部屋や机に電話がある時代ではなかったのだ。
炬燵を買うのももったいないなあという季節、まさに早春に上京した36年前が懐かしい。
いろいろあったなあと、春になると思い出す。
3月18日 (日)
▼空白と詠んだ貴方のまなざし
空白に季節はないのだが
今頃には今頃の空白がある。
別れであり、出会いである。
ぽっかり。なのだ。
▼二ヶ月を待てずに逝った父の誕生日
▼サクラサクただその言葉だけ待ったとき
私の父は1月22日、母だけが21日に67歳の誕生日を迎えて
あと二ヶ月後の3月20日の67歳の誕生日を迎えることなく逝った。
悔しいと思っているわけではなかろうが、
私は、二ヶ月を悔しいと思うことがある。
▼ホーホケキョ鳴かぬスズメが澄ましおり
▼一夜にて別れ惜しまずカモは発ち
鳥たちは何を考えているのか。
オマエら幸せかいと聞いてみたい。
▼冬布団片付けたいの いや待てよ
▼春の土深呼吸して鋤を打つ
春が来るのが嬉しいのだ。
夏になるのはキライなくせに
短い春も悔しいくせに
春が来るのがウレシイのだ。
3月19日 (月)
▼曲がり角追う人消えて沈丁花
別に誰かを追うてきたわけではありませんが
曲がり角で出会うと嬉しい。
▼油断する貴方のくちびる盗みたい
▼おはようとショートカットの君が現れてビックリ
いつも近くに座る女子高校生たち。
もれなく可愛らしい子たちばかりなんだが、その中に宇多田に似ている子がいた。髪も長くすらりとしている。
この日は終業式の日だったのかもしれない。
もう1日あったのかもしれない。
残り少ない3学期の終わりに、長い髪をバッサリと切ってきた。
それがまた、ことさら可愛らしい。
耳たぶ赤いの終業式の日
3月20日 (月)
▼あれこれと理由をつけてカンパイで
▼お肉など食べたくないの、あれは嘘
いいの。みんな異動でどっかに消えていくんだから、飲むの。
3月21日 (火)
▼せっかちにおはぎを丸める母の癖
▼筆を置く哀しみ隠す父の癖
ぼたもちは、母の味が一番だ。
まずくなってきたなあ、と思うのだが
近頃は店に並ぶものもまずくなってきたから。
▼癖偲ぶあれもこれもと悪い癖
癖。
そうだなあ、父の癖って、なんやったやろ、と
ふと考えてしまうのも、私の癖だろうな。
▼じっとじっと水槽見つめる長い時
▼耳の遠い母に電話で春を告げ
めっぽう冬に強い母なのだが、暖かくなるのは少しうれしいようだ。
風呂に入る時刻を心配しなくてもよくなるなあ。
◆
もう一度、山霧の晴れゆく谷間に差し込む朝日を二人で見ることができるだろうか、
と考え続けた時期があった。
幻を追いかけて、旅を続け、
大きな夢をみていたとき、
それを馬鹿馬鹿しいとも非現実的とも思うことなく、
向かっていこうとしていたときが、
とても懐かしくなることがある。