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価値と価値の相乗効果 #183 オープン・イノベーション
企業とは、何らかの独自の価値を持っているからこそ需要や顧客を生み出し、社会に存在するとも言えます。
過去、1960年代、1970年代の日本の経済成長を支えてきたのは、紛れもなく各企業が既存価値の概念を覆す様なイノベーションを起こして来た成果とも言えます。
イノベーションとは、「独自性の高い新しい価値によって、新たな需要、顧客を生み出すこと」であると言えます。
しかしながら、現代は、当時からは想像していなかった世界です。
社会やビジネスにおいて先行きが不透明で、将来の予測が困難な環境にあります。
社会において現在は、存在意義のある価値でも、いつ消滅するとも限りません。
各企業は、この厳しい環境下で、持ち得た経営資源を駆使してイノベーションを起こすべく独自の価値の創造に取り組んでいます。
我が国は、グローバル化の進展や市場等の成熟に伴い、多様化している顧客ニーズやIT化による製品のコモディティ化など、激しい環境変化への対応が求められる中で、日本の企業は自社製品や経営資源のみだけでは、新たな価値(イノベーション)を生み出せなくなってきているなど、厳しい競争環境下に置かれております。
これは、経済産業省が、2016年7月7月に公表した「オープンイノベーション白書」の概要説明の冒頭文です。
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オープン・イノベーションとは、2000年初頭にアメリカで提唱され始めた考え方です。
オープンイノベーションとは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである。
(Henry W. Chesbrough, 著書『Open Innovation』(2003年)
つまり、自社以外の外部機関と共同研究することで新しい価値を創り出すアライアンスの一環といえる取り組みだと捉えて良いかと思います。
日本企業は、研究開発(R&D)への投資費用を十分に収益に結び付けられていないと言われています。
日本経済新聞の2018年の記事ですので、あくまでも参考として紹介します。
一定規模の研究開発投資を実施している上場企業を対象に集計したところ、5年間の研究開発投資が次の5年間の営業利益にどう結びついているかの「投資効率」は、平均が150%で、200%以上の企業が2割でした。
逆に利益が投資を下回っている100%未満の企業は3割を超えたとされています。
これを海外の有力企業に目を向けると、IT系のトップ企業で3780%であり、200%以上の企業はあたりまえのように連なります。
そもそも日本における企業数は、2021年6月現在で368万社と言われています。
そして、その99.7%が中小企業です。(製造業における中小企業の定義は、資本金3億円以下または、社員数300人以下。中小企業基本法に準ずる)
経営資源と言えば、ヒト、モノ、カネ、知識、情報などと言われています。
先述の上場企業ですら、それらの経営資源を投資として十分に収益に結び付けられていない状況です。
それを考えると経営資源の乏しい中小企業は、なおのこと独自に価値を生み出し続けることは容易ではないことが分かります。
それ故に、オープンイノベーションとなる訳です。
特に経営資源の乏しい中小企業なら、単独ではイノベーションを起こすのが難しい独自の価値でも、自社以外の外部機関と共同で取り組むことの相乗効果で新しい価値を創り出せる可能性が広がります。
また、苦手な分野を補い合うことも可能かもしれません。
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製造業の立場では、現在、推進するオープンイノベーションは、製品開発の技術革新や工場の工程革新による生産性向上が中心となっております。
製造業である以上、ここが根幹となる取り組みであると捉えております。
また、製造業に限ったことではありませんが、人材不足は深刻です。
人数不足を補う採用活動は並行して実施するとして、人材個々の能力開発は重要な課題となっています。
そこで、同じような悩みを抱える企業と、オープン研修を実施しています。
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異なる企業の社員が同じワークショップに参加することで、それぞれの企業基準の違いを体感することが可能となります。
それによって潜在化していた人材能力の開発につながることを目的としています。
数多の企業がある中で、現在および将来に渡って経営資源が潤沢で、全てにおいて順風満帆な企業は稀だと考えます。
それが、中小企業ともなれば尚のことです。
オープン・イノベーションとは、鎖国していた日本が開国したようなものです。
社内から思わぬような黒船が現れるかもしれません。
しかし、今後、企業や日本経済が成長して行く上で、各企業が自社の経営資源を埋もれさせることなく共有して、新たな価値を生み出す取り組みが有益になってくるのかと思います。