夢野久作『ドグラ・マグラ』読了
狂人の真似とて大路を走らば云々とは言うけれど
実の所狂人の真似って難しいしそれだけで才能要るよね
ありがたい事に青空文庫で読めます。
この土日でやる事ないなー、なんて方々にも是非。
総評
1935年に書かれた作品としては非常に頑張ってるんですが、
2022年に読んじゃうと当時の最新科学からちょっと先(今で言うとレトロ・フューチャーとして書いてるかも)の描写がちょっと大分キツいかな…
というのが正直な感想でした。
作者が狂っている訳ではないと思います。取材とかあるいは何らかのツテがいるとかで狂人に関する報告っぽく仕上がるように努力はしたんだろうなぁとも思えますが。
折り返しで推理小説っぽくなる所(作者の本業なのを今知りました)から、やはり専門という事で一気に読みやすくなるんですがそれまでが…なので、読みにくいなーとか話進まんなーとか何言ってんのか分かんねーとか色々な理由で読むのがしんどくなってしまったら心理遺伝論附録の所まで飛ばしていいかも。その前の箇所も後で一応ピースにはなるんですが読んでなくても話が機能するので。
メタ推理小説なんだそうで
慣れない事書いてて空回っている前半から事件証言に入る(急に読みやすくなる)所でなんか推理小説っぽくなったぞと思ったのですが、実際そこから一旦推理小説の体に入ります。が、本当に急に腰が折れます。そこで?!という感覚は読んで味わってほしいです。
というのもこの作品はアンチ・ミステリーとして扱われているのだそうで。推理小説であるからには読者に何らかの真相が提示されると思いきやそこは何も分かりませんし、そうする事で推理小説の根幹、つまり真相開示が一切存在しないメタ推理小説になっている模様。…何も分からないまま終われはしますがどうも作者が終局の途中で耐えられなくなった感がありますが。
追記 作者が耐えられなくなった事?
当時の心理学や精神病院はデタラメだという予感が作者にはあったけれど、それだと何がこの物語や私の正気を保証するのだろうと考えてしまった所で耐えられずに降りちゃったんじゃないかなーと。もう一歩踏み出せていればなぁ、それこそ狂人の真似を真似をして走るように。もったいない。
ただ、一方で90年も経ってしまうと
主人公が狂っていて信頼できない語り手になってる、という組み立ての作品でもっと上手いのもたくさん出てきましたし(ゲームで良ければDead Spaceとか)、狂人?の描写だとそれこそニンジャスレイヤーとかの方が大分キレがいいです。
いわゆる早すぎる作品でしかも当時はあまり読まれなかった。「三大奇書」にカウントされたはいいけれどそのせいで読者の足も止まってしまい(まぁ折り返しまで正直だいぶん読みにくいこの本自身のせいでもありますが)、一世紀も経つ頃には賞味期限切れになりつつある悲しい作品です。いやまぁ一世紀保ったのは凄い事でもあるんですが。
しかしパンチカードのような化石として切り捨てるには
惜しいかな、とも思います。
人間の本体は知恵記憶の在る大脳とは言う。
だが胎児、特に受精卵に大脳は無いのだから記憶は細胞に在るはずだ。
そして細胞は単細胞生物から畜生に至り先祖を伝って連綿と引き継がれているのだからその記憶を引き継いでいても不思議ではない。
現にこうして唐代の妄念が現代に蘇ってお前は人を殺したではないか。
と罵ってくるアイデア自体は非常に面白いです。
当時は最先端科学を元にしたSFの趣もあったと思われます。
…そこが90年経ってレトロファンタジーになっちゃったのは作者の意図から外れたんでしょうけれど。
2023年のドグラ・マグラ -サイコロジカル・パンク-
どっちみちこれから読もうとすると、当時の事情を斟酌したりであるとかである程度は読む側が「そういうものだ」と思っていく必要がある作品です。ならばいっそスチームパンクならぬサイコロジカル、つまり旧心理学パンクとして読んでいくとより面白いかも。多分にフロイトとユングの影響があるっぽいので。
具体的には変態性欲からの犯罪がフロイト、胎児の夢がユング(の、特に「元型」)でしょう。原型のせいで先祖の変態性欲を引き継いでお前で爆発した、と幻影?教授?が言ってくるのはいい感じにフロイトユングをダブルファック出来てて素晴らしいです。本当にそうなのかも分からない、真実は闇の中というオチでもう一回心理学の概念ごとファックしてますし。
結論
精神異常は性欲に起因する妄念のせいで起きるとするフロイト。
精神の底には生まれる前からの集合的無意識、ここでは「胎児の夢」があるとするユング。
当時はそんな思想が最先端科学扱いされてましたという事を踏まえておくと大分読みやすくなる筈です。
まぁどっちも今では心理学としては使えなくなってるんだけどな!
ファンタジー読んでるんだからファンタジーだと思えばいいんだよ!
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