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読書感想文 その2

まだまだ新型コロナのオミクロン株が猛威をふるっていますが、マスク・手洗い・うがいなど最低限の予防をしながらお家時間を有意義に過ごすために読書にいそしんでいる、NPO法人わがことの山地武です。

別の投稿で「ローマ人の物語」という本を紹介しましたが、引き続き今回ご紹介する本は「シャーロック・ホームズ」シリーズ。いわずと知れた有名な探偵小説で、作者はアーサー・コナン・ドイル(1859 – 1930)です。1887年から1927年にかけて長編4編、短編56編が発表され、日本でもいくつもの出版社から発刊されています。

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「シャーロック・ホームズの冒険」創元推理文庫

好みにもよりますが、探偵ホームズや相棒ワトソンなど個性的なキャラクターや、奇怪で謎多き事件、そして科学的な観察から導き出される推理など、魅力的な作品で、私が無人島に本を持っていくとしたら「シャーロック・ホームズ」を選びます。

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このシャーロック・ホームズの熱狂的なファンをシャーロキアンと呼び、登場人物を実在の人物として各種の研究を行ったり、各種イベントが開催されています。その集まりは世界各国にあり、日本にも「日本シャーロック・ホームズ・クラブ」という団体があります。

作品中には作者のドイルも見落としていた、様々な矛盾があり、例えば以下のようなものがあります。

  • ホームズたちの住んでいたベーカー街221Bの大家はハドソン夫人だが、「ボヘミアの醜聞」ではターナー夫人と呼ばれている

  • 作品を年代順に並べるとワトソンは何度か離婚してベーカー街221Bの下宿生活に戻っている

  • ビリーという少年給仕は「恐怖の谷」と「マザリンの宝石」に登場するが、二つの作品は年代が離れているので二人の少年ビリーが存在する

  • 宿敵モリアーティー教授はホームズの会話の中に登場するのみで直接登場する場面はなく、コカイン中毒になったホームズによる架空の人物ではないか?

これらの矛盾や謎を解き明かそうと、世界中のシャーロキアンが考察し、様々な論文やスピンオフ作品が数多く発表されています。

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イギリスBBC制作テレビドラマ「シャーロック」

個人的には「シャーロック・ホームズ」の社会背景にも興味があります。舞台は「太陽の沈まない国」として大発展した19世紀のイギリスの首都ロンドン。当時は人口500万人の世界一の都市でした。
産業革命により貧富の格差や地域格差が激しく、まだまだ社会保障制度も未整備だったため、貧困層の生活は大変悲惨なものでした。貴族階級や富裕層の華やかな生活の裏側で、工場などの労働現場では賃金の安い子どもや女性が四六時中働かされ、貧民街では生活のままならない女性が売春したり、みなし子が盗みをはたらいてその日暮らしをしていたそうです。

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産業革命時代の工場

当時は女性の参政権もなく、社会的弱者には人権が認められず、怨嗟の声が世の中に渦巻いており、多くの人が諦めと絶望を強いられ、その資本主義社会の実態を科学的に分析し、世に問うたのがカール・マルクスの「資本論」です。そんな視点から「資本論」を読むと、現代社会にも通じる問題をあらためてとらえなおすことができます。

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カール・マルクス

いまの時代から見れば異常な時代といえるかもしれませんが、20世紀初めのことですから、古代や中世といった遠い昔の話ではなく、人類の歴史からみれば、つい100年前の世界の話です。このわずかな期間に形づくられた"常識"や"普通"の社会というものの不確かさを感じずにはいられません。
ある側面から見れば私たちの"常識"は人類の普遍的な"常識"ではなく、現代日本の社会や生活スタイル、世論などにより植えつけられた後天的な精神的傾向ということもできるのではないでしょうか。
また個々人のもつ"普通"は他人にとっての"普通"とイコールではなく、これまでの環境や経験によって自分のなかに形成された信条やアイデンティティといえるかも知れません。

コップに半分はいっている水をみて、「まだ半分残っている」ととらえるのか、「もう半分しか残っていない」ととらえるのか。一つの事象に対するとらえ方は人それぞれに違うということは、誰もが頭で理解しながらも、お互いに認めあうことが難しいものです。
そんなときに過去の時代や、異国の世界に思いをはせて、認識をあらためてみるのもいいのではないでしょうか。

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栄華繁栄を世界に誇ると同時に、犯罪や貧困などの深い霧に覆われた世界を抱えていたのが当時のロンドンでした。
「シャーロック・ホームズ」にはその光と闇の両面が随所に描かれており、冒険探偵小説としてだけではなく、当時のイギリスの社会構造や風習・文化を知り、自分を見つめなおすためのテキストとしても面白い読み物です。

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19世紀のロンドンの様子

先日、神戸の北野異人館に行った際に英国館の中にある「シャーロック・ホームズの部屋」を観てきました。作品中で描かれているホームズとワトソンが住んでいたベーカー街221Bの部屋の装飾や小物などが忠実に再現され、作品をよく知る人間にとってテンションがあがります。
神戸を訪れる機会があれば、立ち寄っていただければと思います。その前にぜひ「シャーロック・ホームズ」をじっくり読んでからどうそ。

北野異人館「英国館」のシャーロック・ホームズの部屋

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