ウズベキスタンへの片道切符Ⅰ Tashkent
Rahmat (ラフマット)!
ウズベキスタンで過ごした8日間、この言葉をたくさん使った。ウズベク語の「ありがとう」
CP+2024、タムロンブースでのトーク「写真家が旅したウズベキスタン」も無事に終幕したのでこのノートを公開しようと思う。
5年もの間、中止になったりオンラインのみで行われたりと制限があったCP+。
2020年2月、CP+のための撮り下ろし作品をインドネシアで撮影して成田空港に降り立ち、スマホの電源を入れた瞬間に「CP+が中止になりました」とクライアントからのメッセージ。あまりの衝撃に涙すら出なかったあの日から実に5年。
ようやく元の姿を取り戻したCP+2024は初日の22日から大盛況で開幕。平日なのにも関わらず人が溢れかえる通路や各メーカーのブースを回って「おかえりCP+…!」と胸が熱くなった。
今回はCP+出演のお話をいただく前から、この年に1度のお祭りのために撮り下ろし作品を作るため海外へ撮影に出ようと思っていた。万が一出演のお話がなければ、個人的な写真集のための作品を撮れば良いし、何より私は海外旅をこよなく愛する写真家と自負している。
魅惑のウズベキスタンへ
その名前こそ耳にしたことがあっても、この国の特徴を細かに話せる人はそういないだろう。事実、私も浅い知識しか持ち合わせていなかった。
1991年に旧ソ連から独立し、シルクロードの中継地点でもあった中央アジアを代表するウズベキスタンという国。いつしか行ってみたいな、でも今ではないかもしれないと長らくの間、優先順位は高くなく「まぁ、いつか」と思っていた。
それがひょんなことから、ウズベキスタンに行くことになった。
しかし実際に行った人も少なく日本からの旅行先としてメジャーとは言い難いウズベキスタン。情報もそれほど多くない、まるでヴェールを纏っている知られざる国に、私の溢れる好奇心は更に掻き立てられていった。
行く前に少しでも勉強しようと、友人から借りた本「ウズベキスタンの桜」を読んだり、ネットで必死に情報を集めた。
先人たちが築き上げた信頼により親日国であり
おかげで人々は優しく、ご飯も美味しい
英語はそこまで通じない、電車はオンタイムで動く
物価は日本の半分から7割ほど、治安も良い
その程度の情報しか得られなかったが、昨年は世界三大ウザい国のインドや、世界の中心ニューヨークなど治安の悪さや詐欺を働く人の多い場所ばかり行っていたため、ウズベキスタンを訪れた人のブログに出現する「みんな優しい」という言葉にいささか安堵した。強く警戒しなくても楽しめる旅先はそう多くないのだ。
首都タシケント
ウズベキスタンの首都はタシケント。ある記事にはタシュケントとも書かれていて読み方が難しい。
日本からのダイレクト便も飛んでいるタシケントは首都ということもあり発展した都市であった。
しかし移動で使うメトロの運賃は25円程度。バスには乗らなかったがおそらく安いのだろう。
また、ウズベキスタン版Uber、Yandex goを使えば日本のタクシーの1/5程度の料金で移動が可能だ。
ちなみにこのアプリは日本のクレジットカードも登録ができるが、ワンタイムパスワードが必要なため、使う場合は日本で設定していくことをお勧めする。
タシケントのメトロは現在も国の軍用施設とされている。2018年までは撮影不可とされていた。
解禁してようやく国外の人たちの目に触れ、その豪華絢爛な各駅の装飾が地下に広がるアート空間として有名になった。
今は観光客が必ず訪れるスポットとなっている。我々もご多聞に漏れずいくつもの駅をハシゴした。
1回の電車賃で各駅で降りそのホームを眺める。まるで美術館のような造りに心奪われてしまった。タシケントに行ったら是非攻略してほしい場所だ。
チョルスーバザール
タシケントにはいくつか観光地として有名な場所がある。そのひとつが、このバザールだ。
バザールという言葉は我々日本人には馴染みがないと感じる言葉だが、マーケットという意味であり私が幼稚園や小学校の頃にあった保護者によるバザーはここから来ているのではないか?と思う。
平日だというのに、ローカルの人々で混み合うバザール。いわゆる日本の豊洲市場のような場所なのだろうが、独特な店構えと品揃えからまさに異国の地に来た!と思わせてくれた。
カメラを持ってウロウロしていても、目が合うとニコニコしてくれる女性たち。たまに「カモが来た」と追いかけてくるサフラン売りのおじさま達もいたが、その厚かましさはインドの1/10程度だったため、可愛いものだな…と心穏やかにあしらえた。
フルーツが綺麗に並んでるのが美しく撮影していたら、お兄さんが辿々しい英語で話しかけてきた。「どこから来たの?」と聞かれたので「日本から来たよ」と答えるとパッと笑顔になり、近くにあった箒を手に「これは手作りなんだよ、ウズベキスタンのとても一般的なもの」と紹介してくれた。
そして「持ってみて?撮ってあげるよ」と続けた。
ここがインドなら警戒しなければならない。カメラを渡したらそのまま持ち逃げされるかもしれないからだ。しかしまだウズベキスタンに来て2日目だというのに、ウズベキスタンの人たちの全力な善良さにすっかり安心していた私は彼にカメラを渡した。
持ってみると意外に軽い。イグサのような植物からただよう匂いが、日本の箒に似ていた。
ほどなくして、青緑の丸い何かが積まれているコーナーに来るとお兄さんが「ニーハオ」と言う。
出たな、"アジア人全員にとりあえずニーハオと声をかければ良いと思ってるヤツ" と思いながら、訂正するのも面倒だが少し会話になることを期待して「ノーノー、アイムジャパニーズ!」と語尾を強めて答えた。すると悪気はなかったのだろう「オーソーリー、トライディス」と青緑の丸いものを切ってくれた。
見当もつかないソレを訝しげに眺めていると笑いながら「フルーツ」と言う。どう見ても野菜なんだが…と思いながらも受け取る。
口に入れた瞬間は、程よい甘みを感じたものの噛み締めていくにつれて、紛れもなく大根の味がした。みずみずしく爽やかで辛味の少ない大根であった。
私の顔が歪んだのを見て大爆笑するお兄さん。つられて私も「これラディッシュじゃんーー!」と言いながら笑うと、隣で野菜を売っていた別のお兄さんも笑った。笑顔の連鎖が生まれた瞬間だった。
2時間ほどバザールで現地の人たちと交流を楽しみ、すっかりウズベキスタンが好きになった私。事前情報で、とにかくみんな優しいと聞いていたがそれは事実だった。ウズベク語が話せない私に不得意な英語で話しかけてくれたり、日本人とわかるとアニメの話をしてきたり、美味しいものを教えてくれたり、関わった人たちが全身全霊で優しさをぶつけて来る。他人を騙そうとする気持ちなど一切持ち合わせていない、純粋に遠く離れた国から来た観光客を受け入れる気持ちが溢れている人ばかりだ。
モスクとメドレセ
バザールを後にし、タシケント市内にあるいくつかのモスクのうち、16世紀に開かれたとされる歴史あるハズラティ・イマーム・モスクへと向かう。
イスラム教徒が8割を占めるウズベキスタンのモスクには神学校が併設されていることが多い。
こちらもバラク・ハン・メドレセ(神学校)が同じ敷地にあった。
メドレセには巨大な壁面に窪みと入口があり、その微細なタイル装飾の鮮やかさは人々の心を掴んで離さない。イスラム文化を代表する建築美である。
圧倒的な美しさに魅了され撮影に興じていると声をかけられた。綺麗な英語を話す若い女の子だった。
「どこから来たの?」とお決まりのやり取りから始まり、一緒に写真を撮って欲しいと言われたので笑顔で応じた。ウズベキスタンでは日本人と写真を撮りたがる人が多いことを、後々思い知ることとなる。
彼女の頼みを聞いた後、バイバイと一度は離れたものの、すかさず踵を返し彼女に駆け寄った。
「あなたの写真を撮らせてもらえますか?」と聞くと驚いた顔をする。私で良いの?と謙遜しているので、あなたはとっても美しいから撮らせて欲しいとお願いすると、照れたように微笑み頷いてくれた。
彼女はウズベキスタンの少し離れた都市に住んでいると言っていた。連絡先を交換しなかったので、この写真を渡せないのが残念なほど、とても美しい写真だ。
併設されたモスクの内部は、メドレセの美しさとは異なる美を放っていた。ドーム状の天井に施された細工は気が遠くなるほどの細かさで、信仰心の深さを物語っている。
モスクという言葉は実は英語であり、語源はアラビア語のマスジド(ひざまずく場所)だ。
イスラム教の人々はここで膝をつき、額が大地に触れるとその人は神に近づくとされ、完全な服従と信仰の意味を持つ。
その美しさに魅せられ軽い気持ちで観光するのが憚られるほどに神聖な場所であることを忘れないようにしよう。
モスクとメドレセを出て、広場で再び写真を撮っていると遠くにウズベキスタンのカメラマンが見える。団体旅行なのだろう。多くの女性たちが共に行動していた。カメラを向けると気づいた彼女がピースをする。
まるまる1日を撮影に費やし、すっかりウズベキスタンの虜になった。
タシケントはこの1日しかなかったため、行きたいところは全てGoogleマップにチェック済みだったが全てを制覇することはできなかった。しかし満足度が高かったのは、やはりウズベキスタンの人々の優しさに触れたからだろう。
それは間違いなくガイドブックやWebでは知ることのできない「生きた情報」であり、ただの旅でもその思い出を色濃く残す、五感の記憶である。
翌日はブハラへ移動する。
首都タシケントですら心踊る滞在となったのに、古都ブハラではどんな景色が待っているのか、考えただけでも楽しみがすぎる。おかげでベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。
この日、出会ったすべての人に「ラフマット(ありがとう)」と言いたい。
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