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フレームワークの背景を知ろう。 -ファイブフォース分析編-

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
フレームワークをうまく使いこなせない理由の一つに、「ツールとしてしか見ていない」というのがあるのではないかと最近考えています。
「なぜ、このフレームワークが有効なのか」「どんな理論をベースに成り立つのか」を理解していないから、使用する場面を誤ったり、正しい分析ができなかったりするのではないか。と思ったので、今回はそのあたりを記述してみようと思います。
とっかかりとして、公式テキストに記載があるものの「中の人」が苦手なフレームワーク=ファイブフォース分析の背景を探っていきます。

ウェブ解析士が事業戦略を学ぶ意義

本題に入る前に、前提条件のおさらいです。ウェブ解析士のnoteでも事業戦略に関することを多く取り扱っていますが、なぜウェブ解析士が事業戦略を学ぶのでしょう。公式テキストでは以下のように説明しています。

デジタルによってアナログである私たちの世界を表現していますが、デジタルに転換されたところで表現できない余白と欠損値がたくさん発生します。(中略)デジタルデータからアナログの世界に価値を提供するには、人の力が欠かせません。(中略)人の気持ち、業界の取引、会社の状況などの事業や顧客にまつわる定性的な理解がなければ、デジタルデータを大きく誤って読み解く危険すらあります。(中略)マーケティングの感覚を持つことで、さらに解析データの中身と企業戦略の関係を深く理解できるようになります。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2022』p84

デジタルに置換できない余白を理解し、正しい解析を行うためにも事業戦略を学ぶ必要があるということのようです。

ファイブフォース分析とは

では、ここからが本題です。「中の人」が苦手なファーブフォース分析について見ていきましょう。
まずは、公式テキストの説明から。

5フォース分析は、事業の競争環境を分析するためのフレームワークです。
市場における「競合他社」「買い手」「売り手」「代替品」「新規参入」のそれぞれの力が影響する度合いを分析します。
業界のプレイヤーを整理し、競合他社との競争力、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威を判断します。この5つの力を分析し、業界の収益構造や競争要因を発見します。それぞれのプレイヤーに対して事業に有利な活動を行い、その力の大きさを弱めることが重要です。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2022』p87

上図のように「競合他社」を中心に置いて、それぞれの競争要因から矢印が伸びていきます。ずっと、「なんで競合を中心に据えるのか」が疑問だったんですが、「自社がポジションをとる市場の競争状態を把握する」ことが目的だからですね。
また、上図の縦軸は「参入障壁・移動障壁の高さ」を評価し、横軸は「コスト・売価のコントーロル可能性」を評価します。
なぜ、そんなことをするのか。についてはファイブフォース分析のベースとなるSCP理論を理解する必要があります。

競争戦略の前提「SCP理論」

ファイブフォース分析は、経済学のSCP理論に経営学的解釈を与え、使いやすいようにツールに落とし込んだものと言われています。であるならば、SCP理論を理解すれば、ファイブフォース分析をより効果的に使用できるのではないかと「中の人」は考えます。

SCP理論とは

SCPは、structure-conduct-performance(構造-遂行-業績)の頭文字を取っており産業組織を説明する理論です。で、そこから何が分かるのかというと、「その業界は儲かりますか?」という点が明確になります。
基本的に企業活動は利益を出すことを目的としているので、重要な視座を与えてくれる理論と言えます。

SCP理論の基本

SCP理論の出発点は「完全競争」と言われるものです。
完全競争はざっくりと説明すると、以下の3つの条件を満たす市場の状態を指します。

①たくさんの企業が競合関係にあり、どの企業も市場価格に影響を与えられない
②新規参入の妨げになる障壁が全くない
③製品は差別化されていない

この市場、儲かりそうですか? 誰が見ても儲からないでしょう。(笑)
多くの企業が参入してくるし(条件②)、差別化できないので(条件③)、価格競争が始まります。それぞれの企業は市場価格をコントロールできないので(条件①)、ギリギリ採算が取れるレベルまで市場価格が下落していきます。
すなわち、完全競争が起きている市場では利益を出すことが難しいのです。
では、真逆の条件を想定してみましょう。

①市場には自社のみで、価格コントロールができる
②参入するためのコストが莫大で、新規参入はほぼない
③自社のみなので差別化も必要ない

これならどうでしょう?価格も生産量もコントロールできるので、利益が最大化する条件設定を自社で行うことができますよね。このような市場状態を「完全独占」と言います。
実際には完全競争も完全独占もあり得ません。(特に独占禁止法などにより、完全独占は実現不可能)ですが、どの市場もこの両極端の間に位置します。利益を生むためには、完全競争から離れ、完全独占に近づけるように活動していかなければなりません。

SCPで考えるファイブフォース

上記のSCP理論の前提を押さえたところで、再度ファイブフォース分析を考えてみます。
5つの力(フォース)がそれぞれが強まるほど、市場状態は完全競争に近づきます。すなわち、利益を出しづらくなってきます。逆に、それぞれの力が弱まると完全独占に近づく(=利益を出しやすくする)ことができます。
なので、公式テキストの記述にあるとおり、

それぞれのプレイヤーに対して事業に有利な活動を行い、その力の大きさを弱めることが重要です。

という帰結になるのですね。

まとめ

フレームワークは考えをまとめる手助けをしてくれる便利なツールですが、その本質理解が乏しいと効果的に活用できないこともしばしば。
ファイブフォース分析で言えば、「完全競争←→完全独占」という市場状態のどこに自社がポジションを取る業界が位置しているのかを把握すること。
そこから、いかにして完全競争を抜け出し、完全独占に近づけるかを考えることが本質になります。簡単に言えば、「完全競争の3つの条件」をどう崩すかを考えることです。
完全競争の条件を5つの力で整理し、縦軸に「参入・移動障壁の高さ」、横軸に「コスト・売価のコントロール可能性」を見出すことで、ファイブフォース分析の真価を発揮することができるのです。

あとがき

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ファイブフォース分析、正直めちゃくちゃ苦手だったんですよ。上級ウェブ解析士講座でも「エイヤー!」で片付けてましたから(笑)
でも、この背景にある理論を理解することで、その使い方まで理解することができました。
「そもそもこの業界儲かるの?」「どうやって儲けていこう」っていうのを整理するときに使うんですね。かなり広い視点で見るので、公式テキスト内でも、環境分析の早い段階で使用することを推奨しているのだなと腹落ちしました。
SCP理論のさわりをご覧になって、お気づきだと思いますが、一番手っ取り早く収益性を上げるには、差別化して競合をなくすことなんですよね。
だからマーケティング界隈では「差別化」が非常に重要視されているんだなぁと理解できるわけです。で、ブルー・オーシャン戦略だとかSTP分析だとかが重要性を増してくるわけですね。
ちょっと今回の記事は書いていて面白かったので、機会を見つけて別のフレームワークについても検討してみようと思います。
期待せずにお待ちください。

今回の参考文献↓


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