映画日記#15 『ある男』
今日は映画館で日本映画『ある男』を鑑賞した。
平野啓一郎の原作小説を『蜜蜂と遠雷』『愚行録』の石川慶が監督した作品で、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、柄本明だと豪華キャスト揃い踏みした期待の一作。
今年のヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門にも正式出品されており、石川慶監督は世界的にも注目が高まっている。
この邦画は、世界で戦える邦画だ。
知的好奇心をくすぐられるヒューマンミステリーでありながら、物語の筋は分かりやすく、エンターテイメント作品としても見応えがある。
芸術性とエンタメ性のバランス感覚が素晴らしい。
観る前は主人公が妻夫木聡であることの意味がピンと来ず、夫を亡くした妻の役を演じた安藤サクラが主人公なのかと思っていた。
しかし、弁護士役の妻夫木聡が、亡くなった男性の調査を進めていくにつれて、自分自身のアイデンティティが揺さぶられていく様子がこの物語の醍醐味なのだと分かり、妻夫木聡が主人公であることに納得した。
インテリ男性が内面を揺さぶられて徐々に崩れていく様を、スマートさと聡明さを保った演技で表現していて、とても素晴らしかった。
また、柄本明のレクター博士ばりの怪演も最高だった。出番は少ないのに圧倒的な存在感を残していた。
この映画は役者が輝く映画で、どの方も素晴らしかったが、最も心に残ったのは子役の坂元愛登だった。彼と安藤サクラの2人が話すシーンで、彼の「(父親が亡くなったことは)やっぱり寂しい」というセリフがあった。
結局この作品は、この言葉に尽きると思う。
父親の正体が誰であれ、父親が居なくなることは子どもにとって「やっぱり寂しい」のだ。子どもの純粋な気持ちに涙がこぼれた。
誰かがいなくなることは寂しい。
年末最後の大作で、世界水準の邦画だった。良い役者が、良い脚本で、良い物語を紡いでいるという満足感が堪らない。こんな邦画が増えてほしい。ラストシーンも秀逸。
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