#2 ぼちぼち眠れない夜へ
その時私は29歳。4年付き合ってる彼がいた。
付き合ってはいるが、彼は北海道、私は東京といった、いわゆる遠距離恋愛というやつだった。
会えるのは年に4回程度。連絡も、彼が苦手だという理由で2週間に1回程度で、本当につきあってるのかわからなくなるくらい、落ち着いたというか…冷め切ったというか…そんな4年間を過ごしていた。
彼とは職場で知り合い、私の部署異動で同じ部署になったタイミングから距離が近くなった。
仕事への態度と普段のギャップ、やさしさ、笑顔、匂い、全てに惚れてしまった。
といっても好きになったのは私だけで、すぐに体を許してしまい、しばらく曖昧な関係を続け、我慢ができなくなった私の思いを渋々受け入れた感じ。とてもじゃないが綺麗な関係ではない。
そして案の定私に対して、近くにいようが遠距離になろうが彼は変わらなかった。
やりたい事があるから北海道に行く、だから好きにして。
いちいち連絡する必要はない。
誕生日は覚えない。やらなくてよくね?
クリスマスを一緒に過ごす必要はない。
帰り際寂しがる私をみて、「めんどくせえだから嫌なんだよ。」
正常な女なら殴り殺してるレベルの態度や行動をとられていた。
でも、それでもよかった。
彼が大好きだから。
私がわかってあげなきゃいけないから。
私しか彼をわかってあげられないから。
いつかは報われて、
いつかは絶対形になるからって、
何度も何度も言い聞かせながら4年を過ごした。
私の気持ちを二の次にし、彼にとっての居心地の良さだけをとことん追求した。
苦しかった。辛かった。心が死んでいった。
でもそんな時には他の男に抱かれながら気を紛らわし、なんとか続けられた。
その結果、彼は少しずつ私に心を開き、愛されるようになった。
そしてついに、私のものになった。
いいえ、私のものにした。
うれしかった。
心がやっと落ち着いて、心配や不安がなくなった。
そして、つまらなくなった。
今流行ってるんだかなんだか知らないが、カエル化現象?と言われるやつではなかった。
かけっこの一等賞を取った気分とも違うのだ。
頑張ってお手伝いをして得たお小遣いで、やっと1番食べたかったとびきり美味しいケーキを買って食べた気分に似ている。
美味しかった。すごく。最高に幸せだった。食べた後すぐはね。
そして途中も美味しかった。別のケーキ達が。
最低でしょ。
自分の知らないうちに、執着によって目的を大きく見失い、見誤った。
彼にとっての居心地のいい自分を作るために、私を殺した。殺しきれたら良いのだが、捨てられない可愛い自分も見えてしまい、それを他の男に可愛がってもらう事で自分を可愛がった。辛いの嫌だもん。
この食べたかったケーキの味と、途中で楽しんだケーキの味のせいで私の頭はキマった。
麻薬と一緒。
次が欲しいし、本物が欲しい。
抜けると苦しい。
そして次々に美味しい新作のケーキ達が運ばれてきて、
気持ちいい、幸せ、自分可愛いの嵐。
気づいたら抜け出せなくなってた。
バカな自分に気付いてる。
わかってる。
でも、自分が1番可愛いの。
自分のためならなんだってする自分の力に感嘆したわ。