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インドカレー屋さんとパキスタン:映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(2019)

インド映画に求めているものって何だろう。情熱的なダンスシーンや熱い友情物語、または派手なアクションか。
これまでに「きっと、うまくいく」や「PK」など、人気のインド映画はいくつか観てきた。どれにも共通するのは、インド映画らしい明るさとドタバタ、そして3時間近い上映時間。

インドの女性が受けている教育と格差については「マダム・イン・ニューヨーク」で描かれたが、さらにヒリヒリとしていて、国際情勢に疎い人にもわかりやすく宗教・政治・地理の問題を提示してくれた作品として、「バジュランギおじさんと、小さな迷子」は非常に印象深い。

※映画の内容について少しネタバレがあります

インドとパキスタンの間の紛争は3度のインド・パキスタン戦争を経て、現在も緊張状態は続いている。映画内でも、パキスタンの親子のうち、父親に兵役経験があるためビザの取得が難しいと描かれる。

そんな関係下のインドで、パキスタン人の少女が迷子になってしまう。しかも、少女は話せない。
そんな彼女を保護したのは、敬虔なヒンドゥー教徒のインド人パワン(バンジュラギ)だった。
少女は子供らしい突発さでパワンを撒き、あっという間にモスクの中に入り込んだり、近所のムスリム家族の食事を摂ったりする。生活習慣の違いなどから、パキスタンの子だと明らかになる。

国際協力銀行によると、インドにおいて、約80%がヒンドゥー教徒、イスラム教徒は15%弱だ。
隣のパキスタンは、1998年のデータだが98%がイスラム教徒だ。
https://www.moj.go.jp/isa/content/930002636.pdf(法務省-パキスタン)

パキスタンとインドでは公用語が異なるが、ウルドゥー語もヒンディー語も、基盤となった言語は同じで姉妹関係にあるらしい。
女の子が話せないという設定も、ヒンディー語を話す主人公の言葉が一応通じるのも、こうした背景があるからより必然性が高まる。

作中では緊張と対立、その中で「敬虔すぎるが故に絶対に嘘をつかないパワン」がさらに困難に遭う様子を描く。人助けのためにちょっとだけでまかせを言えばどうにかなるのに、それができない。
複数の宗教を跨いで生きる人が多い日本ではつい笑ってしまうが、宗教的な視点に立ってみると、滑稽と一言で片付けるには重すぎて、結局半笑いになル。


なお、恥ずかしい話だが、インドとパキスタン間、そして周辺国の関係について当時の私は無知だった。この映画が勉強のきっかけになった。
ただ、当時よく行っていた近所の「インドカレー」の看板の店に、インドのものではない国旗があるのは記憶に残っていた。あれは、パキスタンの国旗だったのか。
北インドのカレーは地理的・気候的にもパキスタンの料理と似るらしい。


この映画を観た後、口が完全にカレーを求めてしまって、例の近所の店に寄った。毎回「おいしですか?」と聞いてきてくれる店主に答えたくて、事前に、パキスタンの公用語(母語の人は少ないらしいが、公用語として学校で習うらしい)ウルドゥー語での「美味しい」を覚えていった。
店主はそれまでに見たことがないほど大喜びしてくれた。

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