#83 読書感想)真理先生

武者小路実篤著「真理先生」を読了。通勤時間を使ってチマチマと読み進めた。

悪意がない

読了しての感想を一言、良かった。何が良かったのか。
まず、物語の始終を通して、悪意がある登場人物が出てこないこと。
私自身がストレスに敏感な部分があり、映画でも小説でも物語の中にキャラクターの悪意や物バッドな展開があると少しエネルギーを奪われてしまうところがある。
そう言う面で、善意ある人、人の善意に一貫した本作品は、そういう体力をかけずに読み切ることができた。

登場人物

この物語には主人公山谷の他、少し浮世離れしたキャラクターが登場する。
「真理先生」というのはこの登場人物の1人の呼び名で、世の流れに惑わず、どうありたいかという思想、態度を追求している人。
馬鹿一こと「石かき先生」は、石ばかり描いている変わり者。周囲からは変人扱いされているが、決して嫌な人物ではなく、むしろ羨ましさを覚える。(個人的にはいちばん好きな登場人物)

反復と変化

物語はこの少し変わった人物達による短い会話の繰り返しで進んでゆく。
どこかで見た会話のような気もしながらも、少しずつ何かが変わってゆく。山谷と、石かき先生のそれぞれへの想いの変化は、読んでいていろいろと考えさせられる。
真理を追い求める真理先生、自らの理想を追求する石かき先生。それぞれのキャラクターや社会との関わり方は全く異なるが、どちらもただ「良くありたい」「今よりも前に」という姿勢に共通するものがある。これらの登場人物をクサビに、少しずつ円が広がり、交わっていく。そんな印象を受けた。

真理先生、2度の講話

この本では、中締め、本締めにあたる部分で、真理先生による講話シーンが入る。そこでは、それぞれの人生にどう向き合うか、真理先生自身がどう向き合って来たかが話されている。
中締めでの真理先生の言葉の一部を紹介。

私は人生を肯定できている者ではありません。しかし人生を肯定したいと思って今日まで歩いてきたもので、私の一生はこの一つの目的に集中されて来たと言っていいのでおります。
(中略)
私達はつくられたままに生きてゆくより仕方がないので、どんなにまずくつくられていても、私達は不平は言えないのであります。言えるかも知れませんが、言ってもどうにもならないものであります。
(中略)
しかし私の考えの中心は、まず自分の生命を肯定したい、そして人間に生まれたすべての人の生命を肯定して上げたい、之が私の本願でした。
(中略)
存外世の中にはいい人が多い、真面目な人が多い、親切な人が多い。善良な人が多いと思っていいのだと思います。

略すのがもったいない程に、この他にもたくさんの力強いメッセージが詰まっている。
迷った時、挫けそうな時、ギアを上げたい時、きっと寄り添い、背中を押してくれるはず。
ぜひ全文を読んでいただきたい。

まとめ

この世の中、嫌なものを探せばキリがない。そんなものよりも、身近にある良いものに目を向け、選択する。なにより自分自身がその良いものに近づこうとする。そこに集中する大切さをあらためて勉強。
自分にできることもきっとたくさんある。

おすすめ度  ★★★★★
人の善意   ★★★★★
人生肯定   ★★★★★
読みやすさ  ★★★★★
実行しやすさ ★☆☆☆☆

最後に付け加えると、他者に対する攻撃的、否定的なな言動も、その背景にはその人の中の何かを肯定したいという想いがあるのだと思う。
そこを認められた時、たいていの不要な争いごとは霧消してゆくのではないか、そんなことを考えた。

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