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「ルールをつくって壊す!」のゲームデザイン

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 好きなゲームの好きなところを挙げるだけのつもりが、文字に起こすうちに話題がどんどん膨らんでいき、最終的に上記の表題を掲げるに至りました。13,000字あります。

今回はこの作品と…
この作品についてお話します

 作品を2つ実例に挙げるため、この記事では以下の内容をまとめました。物事の順序がおかしいと言われたら、ぐうの音も出ません。

  1. ゲームのルールを大きく3種類に分けてみる

  2. ゲームに設けたルールを、プレイ中に壊してしまう手法がある

 もし惹かれるところがあれば、読み進めていただけると幸いです。


 先に簡単な自己紹介をしますと、これまでゲーム開発に10年弱、主にゲームデザインの面から携わってきました。いまはおやすみ中!


1.はじめに:ゲームのルールに注目する

 ゲームについて話すとき、切り口は色々あると思います。キャラクターやシナリオ、アート・デザイン、エンジニアリングなど…。ひとつの作品をとっても様々な部分に注目できますが、今回はゲームに存在するルールに焦点を当ててみます。この記事において、ゲームとはルールの集合体!

 ルールとは「○○は××である」「○○が××すると△△になる」「○○が××のとき、△△できる(できない)」といった物事の決まり事です。

 ゲームに存在する全てのものはルールで定義され、ルールの組み合わせによってプレイ中に様々な出来事が起こり、プレイヤーは駆け引きをしてみたり、嘘をついてみたり…色々な振る舞いが促されます。

 さて、色々なゲームをよく見ると、ルールは大きく3つに分類できそうです。それぞれ目的・ギミック・メカニクスという名前をつけて、整理してみます。ギミックやメカニクスという言葉には様々な解釈があると思うのですが、この記事では一旦これで…!

ゲームのルールを3つに分類してみます

その1:目的

 目的は、ゲームからプレイヤーに与えられる・もしくはプレイヤーが自ら設定する、その時々で達成したい事柄です。敵を倒す・一定まで資産を増やす・安全地帯に到達する等はよく用いられますね。これらは物語の展開やモチーフと併せて、プレイヤーにとって意義のあるものとして設定されます。

 ゲームから与えられる目的には、達成または失敗となる条件が設けられ、どちらを満たすかはプレイヤーに委ねられます。成否はゲーム開始時点では定まっておらず、この時点で100%当たる予測はできません。また、スコアや経過時間などを用いて、成否の評価に段階がつけられる場合があります。

敗北条件を満たさないように、勝利条件を満たしましょう
どちらを満たすかはプレイ次第!
ファイアーエムブレム エンゲージより)
遠くに見える、やたら気になる木…。
あそこに何かあるかもしれない、行ってみようと思わせてくれます
ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダムより)

その2:ギミック

 続いてギミックは、以下の3つのルールを一繋ぎにして捉えたものです。ゲームをプレイする間、プレイヤーは様々な課題を認識し、行動を起こし、報酬を受け取ることで、目的の達成または失敗の条件を満たします。

  1. 課題:プレイヤーが目的の達成に近づくことを邪魔するもの

  2. 行動:プレイヤーに用意される、課題を乗り越えるための道具

  3. 報酬:課題に対してプレイヤーがとった行動への評価

 3つのルールを詳細に説明するために、『メイド イン ワリオ』に収録されているミニゲームのひとつ、『クギうち』を例にとってみます。これは1ギミックで構成されるシンプルなミニゲームで、作中の説明文は一言「ケガにきをつけて、クギをうちこめ!」です。

くぎをうちつけろ!(目的の明快な提示)
先ほどの説明文も、簡潔な中に成功と失敗の条件がきっちり示されています

 課題:ゲームや他のプレイヤーから提示される、プレイヤーが目的の達成に近づくことを邪魔する要素としてのルールです。ギミックの一連の処理においてプレイヤーが最初に認識する部分であり、プレイヤーは課題を乗り越えるために、適切な行動をとることが求められます。

 『クギうち』では、プレイヤーには釘をうつトンカチが用意されますが、そのトンカチは一定の速度で左右に揺れ続けます。釘をうつことを困難にするトンカチの揺れが、ギミックの課題となる部分です。

トンカチが揺れるせいで、狙いが定まらない…!

 行動:ゲームからプレイヤーに用意されている、課題を乗り越えて目的の達成に近づく道具となるルールです。行動は提示された課題に対して、プレイヤーが用意された選択肢から適切なものが選べるか、またその行動に必要な入力の精度(タイミングや正確さ)などによって評価されます。

 『クギうち』では、プレイヤーがコントローラーのボタンを押すと、トンカチは現在位置からまっすぐ振り下ろされます。これがプレイヤーに用意された行動で、ボタンを押すタイミング…つまり釘の軸に対してトンカチをまっすぐ振り下ろせるかどうかによって評価されます。

揺れに合わせてボタンを押す!
トンカチと釘のモチーフが、ルールの理解を助けてくれます 

 報酬:ある課題に対してプレイヤーが行動した後、その行動への評価としてゲームに起こる事柄のルールです。行動の良し悪しに応じて、リソースの増減やエフェクトの発生、テキストやムービーの再生など、様々な事柄が発生します。場合によっては、何も起こらないことも報酬になるかも?

 報酬として起こる事柄の中には、プレイヤーを目的の達成や失敗に向かわせる事柄が概ね含まれます。例えば、HPがゼロになると失敗のゲームで敵の攻撃を受けてしまった場合、HPが減少したり、防御力が下がって今後HPが減りやすくなるなど、直接または間接的に失敗へ近づく事柄が発生します。

 基本は、課題に対して良い行動の報酬は目的の達成に近づく良い事柄、悪い行動の報酬は失敗に近づく悪い事柄です。ただし目的の達成と失敗は、一方が近づけばもう一方が遠のく、綱引きのような関係とは限りません。達成に近づく事柄と失敗に近づく事柄は、同時に起こり得えます。これはいわゆるハイリスク・ハイリターンの形ですね!

 『クギうち』においても、行動の評価に応じた様々な報酬が得られます。主目的となる釘の打ち込み具合はもちろん、演出面にも注目です!

高評価:釘がうちこまれる(目的達成に向かう)
よい行動は褒めてもらえます
低評価:ずれた!釘はうちこまれず曲がる
同じ方向にもう一度曲がってしまうと、うちこめなくなり失敗
超低評価:釘でなく手をひっぱたく。ケガしたので即失敗!
とても悪い行動をしたので、演出的な報酬も大きい

 以上が、ギミックを構成する3つのルールとなります。改めてプレイヤーはゲームをプレイする間、様々な課題を認識し、行動を起こし、報酬を受け取るという、ギミックの一連の処理を繰り返します。そうして得られた報酬の積み重ねによって、目的の成否どちらかの条件が満たされます。

闘う2人のキャラクターには、体力を削り合うギミックが満載!
ギミックの処理を繰り返すことで、どちらかのKOが発生します
Street Fighter 6より)

その3:メカニクス

 最後にメカニクスですが、これはゲームの世界を支配する法則や、ゲームの進行方法そのものです。ギミックがプレイするたびに異なる処理をする動的なものなら、こちらはより静的な、あらかじめ処理の内容が定まっているようなイメージです。すべてのギミックは、そのゲームに設けられたメカニクスを前提に成り立ちます。

 例えば、以下のようなメカニクスは広く用いられます。異なる作品の間で採用されるメカニクスの類似性は、ゲームのジャンルとして括ることができますね。

  • ゲーム向けに調整された物理法則(重力や慣性など)

  • ゲーム内リソースの定義と、リソースを結ぶ経済の仕組み
    (お金やアイテムの定義と、それらを用いた売買など)

  • 固有の処理が詰められたカードという単位

  • リズム(音楽に基づく規則性)

  • マスで区切られた盤面と、駒に命令を与えることによるゲーム進行

  • 複数のプレイヤーが順に手番を行うことによるゲーム進行

マリオや敵、ステージの足場や穴まで…
様々なものがゲーム世界の重力ありきの振る舞いをします
スーパーマリオブラザーズより)
お買い物とは、まさに経済をつくるメカニクス
お金リソースを消費して、ぬいぐるみリソースを増やしました
あつまれ どうぶつの森より)
敵も味方もリズムに合わせてアクション!
メカニクスの組み合わせで、独特な触り心地に
ケイデンス・オブ・ハイラル: クリプト・オブ・ネクロダンサー feat. ゼルダの伝説より)

 またメカニクスとは、ジャンルを象徴するような大きなものだけではありません。ゲームを行う場の定義や手番の詳細な内訳など、ゲーム毎の固有で細かなルールもメカニクスに含まれます。

戦いの舞台は3×6の18マス!
動けるマスを奪い合って戦います
ロックマンエグゼ アドバンスドコレクションより)
俺のターン、ドロー!…スタンバイ、メインフェイズ!
カードゲームは特に詳細なメカニクスでいっぱい
遊戯王 マスターデュエルより)
この世界では、プレイヤーの目に映ることが常に正しい!
特徴的なメカニクスには、心惹かれるものがありますね
無限回廊より)

 以上、ゲームを構成するルールについて、目的・ギミック・メカニクスの3種類に分けてみました。この分類を用いれば、ゲームの基本的な流れをこんな風に表すことができます。

  1. プレイヤーはメカニクスに支配されたゲームの世界で、

  2. ギミック(課題→行動→報酬)の処理を繰り返し、

  3. 目的の達成または失敗の条件を満たす

 一本のゲームが建物なら、ルールはいわば骨組みです。チームでのゲーム開発には様々な職能の方が関わりますが、その中でゲームデザイナーと呼ばれる人の仕事のひとつは、ルールというゲームの骨をつくり、組みあわせ、楽しいプレイ経験ができる空間を設計することです。

もちろん、骨を組むだけでは実際にあそべるゲームにはなりません
建物としての完成を見るには、多くの方との協力が不可欠!

2.ルールをつくって壊す!

 ところで、ゲームのルールづくりには、慣れると使えるワザがひとつあります。それは、つくったルールを壊してしまうことです。

 誤解の無いように述べておきますが、これはそのルールを最初から存在しないことにしようとか、実装や確認まで済んだものを「やっぱりやめた!」しようとか、そういった話ではありません。

ルールはつくりながら壊してみましょう
爆破実験は骨組みのうちに!

ルールを壊す

 今回の主題はあるルールを否定するような別のルールを、ゲームのプレイ中に適用することです。これを今回は、ルールを壊すと呼ぶことにします。

 例えば、「敵に触れるとミスになる」というルールがあるとき、それを壊すと「敵に触れてもミスにならない」になります。この変化がゲームのプレイ中に起こる場合、ミスという概念そのものがゲームから失われる訳ではありません。

パックマンは敵に触れるとミス!残機を1つ失います
しかしパワークッキーを食べれば…
NAMCOT COLLECTIONより)
「ミスにならない」を通り越して「触れた敵をやっつける」に!
連続でやっつければスコアも倍々、クッキーは敵をうまく引き付けてから
NAMCOT COLLECTIONより)

 ルールを壊すことは、いろいろな作品で、様々なパターンで用いられています。いくつか例を挙げてみますが、これまでにプレイした作品を振り返っていただくと、思い当たるものがあるのではないでしょうか!

  • 重力(下に落ちる力が働き続ける)を壊すと…

    • 重力に逆らって上昇し続けられる、高度を維持できる

  • スキル(MPを払って他の値を増減させる仕組み)を壊すと…

    • MPを払わずにスキルが使える

    • MPを支払っても、値を動かす処理が適用されない

  • 複数のプレイヤーが順に手番を行うゲーム進行を壊すと…

    • 手番を行う順番が途中で変わる

    • 誰かの手番の処理中に、他のプレイヤーが処理を割り込める

なぜ、つくってから壊すのか

 しかし、どうせ壊してしまうルールなら、初めから無い方がゲーム自体はシンプルになるはずです。では、わざわざルールをつくってから壊すことには、どんな理由があるのでしょうか?

 ところで、心理学・行動経済学の言葉にピーク・エンドの法則というものがあります。これは人が自分の経験したことを振り返るとき、最も感情が高ぶった出来事(ピーク)と終わり際(エンド)の印象が、その経験の評価に大きな影響を及ぼすというものです。

昨年末に函館を旅行してきました。これはそのピークのひとつ、
吹雪のなかを歩き通した後の温かいラーメンです。沁みました

 この言葉はwebサイトやサービスの設計で引き合いに出されやすい印象ですが、ゲームに当てはめてみても納得感があるのではないでしょうか。ピークやエンドという目線でゲームの1プレイを見てみると、ルールを壊すことはプレイ経験にピークをつくるきっかけとして、たいへん有用なのです!


3.ルールを壊して、ピークをつくる

 ルールを壊すことはゲームのプレイ中に印象的な出来事を引き起こし、感情の高ぶり…ひいては経験のピークをプレイヤーにもたらすことに繋がります。これがプレイヤーの気持ちよさとしてはたらくパターンを、いくつか挙げてみようと思います。

ストレスを与え続けて、解放する

 ストレスを受けている状態から解放され自由になる…というのは、ゲームに限らず想像しやすい気持ちよさのひとつではないでしょうか。ゲームにおいては気持ちよさとストレスの両方が、意図をもって設計されます。

 プレイヤーに何らかの行為を制限するルールがあるとき、それを壊しておこなう行為には解放感が上乗せされます。逆にルールを壊すことを前提にすれば、特定の行為の気持ちよさを増幅させるために、それを咎めるようなルールが考えられますね。

あくまでイメージとして…
先に地上をたっぷり走ると、空を飛ぶのがより気持ちいい!
パイロットウイングスより)

ルールに基づく推測・計画を壊す

 ルールとはある意味、物事の因果関係や未来に起こる出来事に対する約束です。ルールの存在は「○○が××なら、△△は□□なはず」「次は〇〇が起こりそう、なので先に××をしよう」といった、ルールに基づく推測や目的を達成するまでの計画をプレイヤーに促します。

 推測や計画の基になるルールが壊れると、そういったプレイヤーの推測や計画も丸ごと破壊されます。先が読めなくなることへの混乱や驚き、あるいは望外の展開への期待感は、初めから無秩序でまったく推測できないものや、推測から結果が外れないものには無い要素ですね。

他人に変身できるシェイプシフターは、目撃証言という議論の大前提を疑わせます
誰かの勘違いを引き起こせたら、してやったり!
Among Usより)

ゲーム世界や他プレイヤーに強い影響力を振るう

 ルールとは、ゲームのあらゆるものを定義し支配するものです。そんなルールの破壊がプレイヤーの意志によって行えるなら、それはゲームそのものに対して強い優位に立ったり、他のプレイヤーに強い影響を与え、振る舞いの変容を引き起こすものとなります。

 ルールを壊すことを通して、明快な影響力の存在をゲーム中に示し、それをゲームや他のプレイヤーに振るう権利を生み出すことができます。支配する気持ちよさ…と書くと字面があまり良くありませんが、例えば自分の切った1枚のカードで皆が一斉に頭を抱えたら、気持ちよくないですか…?

プレイ順を逆にするリバースのカード
いっそ勝ち負けは後回し、今はただ人の慌てる様が見たい…!
UNOより)

4.ルールの壊しかた

 ルールを壊すことで生まれる気持ちよさを挙げてみましたが、ルールを何でもかんでも壊してしまえば、そのゲームは滅茶苦茶になってしまいます。また、ルールの壊れた状態がプレイヤーにとって当たり前になれば、印象は薄くなっていきますね。

 なので、ルールを壊すことを取り入れるなら、より効果的なルールをここぞという場面で壊したり、ルールを壊すことやその状態を維持することが、そのゲームの上手さとなるように設計するのが良いと思います。

どんなルールを壊す?

 もし制作真っ最中のゲームがあったり、アップデート施策などで既に一度出来上がったものへのアドオンを考えるなら、実際に壊すかどうかは別にして、ルールを網羅的にまとめてみるのがオススメです。

 ここで役に立つのが、最初にまとめたルールの分類となります。改めて、ゲームのルールは目的・ギミック・メカニクスという3種類に分けられるのでした。

ルールの3分類

1.プレイヤーはメカニクスに支配されたゲームの世界で、
2.ギミック(課題→行動→報酬)の処理を繰り返し、
3.目的の達成または失敗の条件を満たす

ゲームの基本的な流れ

 先ほどのピークのパターンを鑑みれば、壊す効果が高いルールとは、プレイヤーへの制約として強力で、かつ影響を受ける時間がより長いものです。となると、主にターゲットにしやすいのはメカニクスでしょうか。実はここまで挙げたルールを壊す例も、多くはメカニクスを壊すものです。

 しかし、目的やギミックを壊してはいけないという事はありません。どんな気持ちよさを作りたいか考えながら、とにかくまずはルールを整理してみましょう!

あらゆる行動を中断して、姿勢をニュートラルに戻すロマンキャンセル
技の後隙を無かったことにすれば、大きくコンボを繋げるチャンス!
GUILTY GEAR -STRIVE-より)
ゲームの目的を壊す…勝利条件をずらしてしまうのもアリです
扱いは難しいですが、プレイの幅が大きく広がります
遊戯王 マスターデュエルより)

どうやってプレイ中に壊す?

 「敵を触れるとミスになる」と「敵に触れてもミスにならない」のように、あるルールとそれが壊れた状態は、滅多なことが無い限り矛盾します。ルールを壊すことを取り入れるには、両立しない2つの状態を切り替えるための仕組みが必要です。

 最もシンプルな方法は、ルールが壊れることを報酬にしたギミックをつくることです。ギミックは課題・行動・報酬という3つのルールの集まりでしたが、課題を乗り越えた先に得られる報酬として、ルールが壊れることを設ける訳ですね。

 『スーパーマリオブラザーズ』に登場するアイテムのひとつ、スーパースターを例にとってみます。ざっくりですが、課題・行動・報酬のフォーマットに当てはめるとこんな感じになります。

  1. 課題:跳ねながら逃げていくスーパースターに、

  2. 行動:うまく追いついて触れること(良い行動)が出来れば、

  3. 報酬:一定時間、敵に触れてもミスにならず、触れた敵を倒せる
    →「敵に触れるとミス」が壊れた状態になる

跳ねながら離れていくスーパースター
触れるのは意外と難しいですが…うまく触れば無敵状態!
無敵中に気持ちよく走れるよう、平坦な足場に敵が多く配置
専用BGMやエフェクトなども、ピークを盛り上げる報酬です

 本来のルールである「敵に触れるとミス」と、それに矛盾する「敵に触れてもミスにならない」が、スーパースターに触れることで切り替わるのが分かります。スーパースターというギミックは、プレイヤーがうまく行動できたことへの良い報酬としてルールを壊すものですね。

 ちなみに良い報酬としてはもちろん、悪い報酬としてルールを壊すのもアリだと思います。普段出来ることを出来なくするようなギミックも、良い行動の報酬は目的の達成に近づく良い事柄、悪い行動の報酬には失敗に近づく悪い事柄を基本に、色々なものが考えられそうです。後はアイデア次第!

プレイヤーを捕まえる攻撃は、移動のルールが壊されると言えるかも?
ダメージの総量は同じでも、脱出への焦燥感が上乗せ
星のカービィ スーパーデラックスより)

壊すためのルールをつくる

 ここまでの話は概ね、メカニクスが先にあって、それを壊すギミックという順番で述べていました。確かに完成品をプレイする際はこの順番でふれることになりますが、つくるときもこの順番を綺麗に辿れるとは限りません。

 というのもメカニクスはあくまで法則で、得られる経験の良し悪しはギミックにも大きく依存します。しかしギミックはメカニクスの存在が前提で、その報酬には目的の達成または失敗に繋がるもの、つまり目的そのものが必要です。そして目的も、それ単体で良し悪しがある訳ではありません。

 …大体の場合、目的・ギミック・メカニクスという3つのルールにつくる順番など無く、全部いっぺんに揃えてから評価になります。大変!

 ただ、順番が関係ないのなら、ルールを壊すという手法も見え方が変わってきます。言葉遊びのようですが、ルールを壊すことができるなら、そもそも壊すためのルールをつくることもできるはずです。絶対の良し悪しは無いので、色んなルールを色んな方法でやってみましょう!

「敵は攻撃すれば倒せる」はずなのに、「絶対に倒せない敵」E.M.M.I.
探索はとても怖いけど、「E.M.M.I.を倒せる唯一の武器」がどこかに…!
メトロイド ドレッドより)

余談:同じ結果で過程を変えてみる

 あるルールを壊すとき、同じ結果でも過程が変われば、ゲーム上の役割が変わります。また、登場人物のキャラクター性や世界観などの、表現のバリエーションにも繋がりますね。

 例えば「HPが0になるとミス」があるとき、「ミスにならない」という結果をつくりながら、その過程にはいくつかパターンが考えられます。

  • HPが0にならない(そもそも減らない、1だけ残る等)
    →根性、頑丈さ、精神力の表現

  • HPが0になったあと、ミスになる前にHPが回復する
    →優しさ、心配性、復活・再生、光属性の表現

  • HPが0でもミスにならない(HPが0のままゲームが進行する)
    →不死性、不浄なもの、闇属性の表現

 実際には、他のルールとの整合性や実装可否・スケジュールなど、色々なことを鑑みる必要があります。が、引き出し自体はあると便利!


5.実例:ルールを壊すギミック

 ここからは、ルールを壊すことがゲームの核に据えられている作品を例にとり、それを実際に行っているギミックを2つご紹介します。…やっと記事の最初に戻ってきました!

改めて、今回はこの作品と…
この作品についてお話します!

その1:進化(『Shadowverse』より)

 『Shadowverse』は2人のプレイヤーが交互に手番(ターン)を繰り返し、様々なカードを駆使して相手プレイヤーを攻撃、ライフを0にすることを目指すデジタルカードゲームです。この前8周年を迎えましたが、今回は特にリリース初期のデザインについて!

8年間のカードプールの広がりで、ギミックの役割も大きく変化しました

 カードにはいくつか種別があり、ゲームの主役はフォロワーという種別のカードです。手札からフォロワーを場に出して相手プレイヤーや相手のフォロワーを攻撃することが、このゲームの基本的な戦い方となります。

画面の中央に並ぶのがフォロワー・カード!
エルフやドラゴンなど、選んだクラスに応じたモチーフで戦います

 しかし、このゲームには「場に出たフォロワーは、そのターンに攻撃できない」というルールがあります。プレイヤーはフォロワーを場に出しても、それが相手に干渉するまで1ターン待たなければなりません。このルールはフォロワーという種別から、ゲームへの即効性を失わせるものです。

 このルールにより、両プレイヤーがフォロワーを毎ターン出し続けた場合、先に攻撃できるフォロワーを持つ先攻がゲームの流れを支配します。これに対抗できるカードもありますが、プレイヤー自身にルールを壊す権利を持たせることで、ゲームの流れを覆せるようにしてしまうのが進化です。

 ゲームが中盤に差し掛かる後攻ターンの開始時、後攻プレイヤーはEPという専用のリソースを獲得し、1ターンに1回、EPを消費して場のフォロワーを進化できるようになります。

これがEP、後攻は3つもらえます
EPを消費して、フォロワーを進化!
EPからフォロワーへ、物事の因果関係が伝わる演出もステキ

 フォロワーは場に出たターンに攻撃できませんが、進化したフォロワーは、場に出たターンでも相手フォロワーへ攻撃できるようになります。また進化に併せて攻撃力や体力が上昇し、相手フォロワーを攻撃で討ち取りやすく、かつ自身は場に残りやすくなります。

 こうした進化の恩恵は、後攻プレイヤーが強力な進化後フォロワーで場の不利を覆し、さらに残った進化後フォロワーの対応を先攻プレイヤーに迫るという展開を促します。これはまさに、ゲームの主導権が後攻に移った瞬間です!

 しかし、次のターンには先攻プレイヤーもEPを獲得し、さらなる進化によってゲームの主導権を取り戻しにかかります。こうした主導権の奪い合いを、ルールを壊すことで生み出すのが進化というギミックです。カードの進化が勝負の鍵!

進化解禁ターンから使えるフォロワーには、
進化で頭数の不利を覆す能力が多く付いていました

 なお、カードプールの広がりにつれて進化そのものは易化し、回数を稼いでより強力なカード効果の発動条件を満たしたり、進化時効果でプレイヤー自身に特殊な能力を付与するものへと、役割が変わっていきました。役割は変われど、進化というギミックがゲームの中心にあることは変わりません。

EPの消費に限らず、色んな方法で進化が出来るようになりました。
そのぶん勝つには数が必要、めざせ10回!

 という訳でShadowverseから、進化ギミックのご紹介でした。ぜひ対戦しましょうくらい言いたいのですが、カードの新規追加が終了したばかり…。次作が来年の春にリリース予定なので、そちらを待つのもアリかもしれません。なにやら進化の上位版、超進化なるものが用意されるそうですし!


その2:ブリッツダッシュ(『白き鋼鉄のX』より)

 『白き鋼鉄のX THE OUT OF GUNVOLT』は、2D横スクロールのアクションゲームです。ショット攻撃で敵を倒しながらステージを進み、最奥で待つボスの撃破を目指します。これだけ書くとかなり硬派ですね。取り上げるルールも重力、つまり「下に引っ張られる力が働き続ける」というベーシックなものです。

これが主人公のアキュラくん
虐げられる人々を助けながら、バタフライエフェクトなるものを探します
立ち塞がる敵をショットで撃破しながら、ステージの先へ!

 ブリッツダッシュは空を飛んですばやく移動する、いわゆる空中ダッシュのギミックです。高度を維持して障害物や敵を飛び越えるギミックは、挙動の差はあれ様々なアクションゲームに用いられます。

 しかし、このブリッツダッシュはまさに、この作品を象徴する空中ダッシュです。というのも、ブリッツダッシュに慣れたプレイヤーは文字通り地に足をつけなくなり、ステージを最初から最後まで飛びっぱなしで進むようになります。歩いて進むステージ設計に対して、もはや暴力的…!

すばやく飛行したのち、ホバリングでゆっくり着地。
これだけでも強力な空中ダッシュですが…?

 プレイヤーはブリッツと呼ばれる専用のリソースを3つ持ち、ブリッツを1つ消費して空中ダッシュを1回行います。ブリッツがある限り空中ダッシュを繰り返すことができますが、ブリッツを使い切った場合は地上でリロードを行う必要があります。

 ところで、ブリッツダッシュは1回で長距離を移動できるため、ダッシュ中に壁や天井・床などの地形、または敵にぶつかることがあります。ぶつかったのが地形ならバウンドしながらダッシュを続け、敵ならそれを踏み台に跳ね上がります。どちらも空中にいる状態が続くのですが、ぶつかった際にブリッツが1回復します。

ぶつかって跳ね上がる & ブリッツが回復
この回復こそがブリッツダッシュの鍵!

 この回復があることで、ブリッツを消費して空中ダッシュ、ダッシュ中に地形や敵にぶつかってブリッツを回収、回収したブリッツでさらに空中ダッシュを行う…。つまり、ブリッツダッシュで上手く地形や敵にぶつかり続ける限り、空中でブリッツダッシュを繰り返すことができるようになります。

 こうなるともはや、歩いてステージを進む必要はありません。地形や敵を踏み台に飛び続け、ステージを最初から最後までブリッツダッシュの速度で突き進むことができます。一応、足場から落ちたらミスになりますが、この際あまり関係ないです。

 また細かいルールとして、ブリッツダッシュでぶつかった敵はショット攻撃が追尾するようになったり、着地せずに敵を倒し続けるとスコアが大きく伸びるようになります。これらはブリッツダッシュの気持ちよさをさらに活かし、飛び続けることに合理性を持たせるものですね。

ブリッツのやりくりに注意が必要ですが、
空を飛び続けて、あっという間にステージの先へ!

 以上が、ブリッツダッシュのご紹介になります。これは個人的にかなり衝撃があったギミックで、まったく関係ないゲームのジョブやキャラ選びの嗜好が、このギミックに触れる前後でガラッと変わりました。昔はマジックユーザーだったのに、今では飛んで跳ねるやつばかり選んでいます。

 ちなみに、ギミックの初出はこの作品からもう少し遡ります。初出の作品を例にとろうかと思いましたが、今回はギミック単体をじっくり触れるこちらを選びました。というかシリーズまるごとオススメ!


6.まとめ

  1. ゲームのルールを大きく3種類に分けてみる

    • メカニクスに支配されたゲームの世界で、

    • ギミック(課題→行動→報酬)の処理を繰り返し、

    • 目的の達成または失敗の条件を満たす

  2. ゲームに設けたルールを、プレイ中に壊してしまう手法がある

    • ルールを壊して、経験にピークをつくる

    • ルールを壊すことを報酬にしたギミックをつくる

    • 壊すためのルールをつくる


7.おわりに

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!何かの足しになれば幸いです!

 個人としては、好きな作品の話が沢山できてホクホクしています。ゲームデザインという題目まで話が膨らんだのも、これまで学んだことや自分の暗黙知を改めて言葉にする良い機会になりました。

 …実は本筋から外れるものの、添えた方が良さそうな話題がまだ残っています。最後はそれで締めたいと思うので、もう少しだけお付き合いください。イメージ映像は『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』より!

意図のためにルールをつくる

 ルールを壊すというのは、ルールづくりの手法のひとつです。手法は万能ではないので、意図をもって、必要に応じて使い分けるのがおすすめです。ではルールづくりにおいて、意図はどこに定めるのでしょう…?

 ルールをつくることは即ち、ルールによって引き起こされる出来事やプレイヤーの振る舞い、そしてそれらを通してプレイヤーが得る、様々な…解釈の広い言葉ですが楽しさを設計することです。(この辺りは、MDAフレームワークという理論がたいへん参考になります)

 つくる側はルールから楽しさをつくりますが、多くのプレイヤーはルールでなく、得られた楽しさからゲームを評価します。ゲームはプレイヤーに喜ばれてこそと思えば、どんな楽しさを感じてほしいかの意図を定めることで、それを生むための出来事や振る舞いと、それらを促すためのルールが探せるようになりますね!

あくまでイメージとして!
困難を乗り越えた先の達成感をつくりたくて、そこに良い見晴らしがあるなら…
プレイヤーにとっての困難は、見晴らしを得るまでの道中にありそうです
どんな出来事が起こると面白くて、それに必要なルールとは…?

意図を決める

 しかし経験上、そうした意図は必ずしも最初に定める訳ではありません。「ルールAとBを組み合わせたら楽しいかも?」と手段から入ることもあれば、「いつ・どこで・どんな人に遊んでほしい」から始めて、それに合う楽しさは何か考えることもあります。「○○の技術を使いたい」が要件なことも!

 ただ、きっかけがどうであれ、試行錯誤を経てプレイヤーに届ける製品としての意図を決める瞬間が必ずあります。決めるのが自分であってもなくても、次はその意図が届くように今のゲームの形を見直し、場合によっては丸ごと再構築することになります。チームの皆や自分の手戻りが無いに越したことはありませんが…勝利条件は開発を終えることだけではないので…!

 とはいえ、そういう意図の部分に正解は無く、今決めることにも、後から改めることにも覚悟が要ります。自分が決める際はなるべくビシッと!と思いますが、まだまだ精進が必要なところ…。逆に決める人が他にいて、もしその人が迷っているのなら、ともに良い方向を探していけるといいですね!

向かう先を決める、って実はスゴい能力
決めた後どうやって向かうかは…一緒に考えましょ!

参考作品

 引用させていただいたゲームの一覧です。

 どれも現行機で遊べます!今すぐプレイ!


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