#143 最近またよく聞くサンフランシスコの崩壊、本当なのか?
米国スタートアップアクセラレーターにはAlchemist(アルケミスト)というところがあります。YC(Yコンビネーター)が最も影響力のあるところで、その次に並ぶのがこのAlchemistや500 Startups、Techstarsなどになります。さて、先週はここのデモデイのセッションに登壇させてもらったので、会場に行ったのですが、その会場が決済プラットフォームのメガベンチャーであるストライプの本社でした。とても立派で、綺麗なオフィスです。こういうところで働くとモチベーションが上がる人もいるだろうなと思いました。ただ、まだ全員オフィスにオフィスに来ないというのもあり、中はかなりガラガラですごくもったいななと。
最近、サンフランシスコの終末を語るYoutubeの映像をよく見かけます。しかし、7月に書いた記事「#130 シリコンバレー・SFはまだ終わってない」でもすでにお伝えしたように、実際にサンフランシスコのど真ん中に住んでいて、週に2,3回オフィスに出勤する人として、そのような映像の内容の多くは誤解を招く恐れがあると思いました。
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まず、市内の商業用不動産市場が本当に悪いのは事実です。オフィスビルの空室率は30%を超えています。そのため、現在多くの店舗が空室でテナントを探しています。この部分は厳然たる事実であり、実際に街の中心部に行くと、以前より活気がないことを感じます。
しかし、住宅の空室率はそれほど悪くはありません。下のチャートからわかるように、パンデミック期間中にアパートの空室率がピークに達した後、最近は以前のレベルに戻っています。空室率はパンデミック以前より少し高めですが、それほど悪くはありません。さらに、空室率は依然として全米平均よりも低いです(灰色の線)。ただし、このチャートのデータは2022年5月の最新データなので、2023年のデータでは別の数字になる可能性がありますが、それほど大きな変化はないでしょう。つまり、オフィスビルは空いていますが、人々はまだサンフランシスコに住んでいるのです。人気レストランの予約は依然として取れないのはこれが理由でしょう。
次に交通量を見てみましょう。サンフランシスコにはベイブリッジという橋があります。バスケットボールが好きな方は、ゴールデンステート・ウォリアーズのロゴからその形を見覚えがあるかもしれません。
この橋は、サンフランシスコ市内とバークレーやオークランドなどがあるイーストベイを結んでいます。人々が橋を渡ってサンフランシスコに入るには通行料を払わなければならず、そのデータを見るとどのくらいの車が橋を渡ってダウンタウンに入るかを確認することができます。もちろん、すべての交通量が実際にダウンタウンに入るわけではなく、多くの部分が空港などがある南に行くためにダウンタウンを通過するだけのものかもしれません。しかし、少なくともこのデータは、橋を越える交通量に関しては、パンデミック前と後の間に顕著な違いを示しておらず、これはサンフランシスコ・ベイエリア全体の流動人口に大きな変化がないことを意味しています。実際に市内を運転していると交通量がかなり戻ってきているのを感じていて、街が活気を戻していると思うと嬉しいですが、また渋滞地獄が始まるかというのを考えると複雑な気持ちになります。
一方、私が実際に通勤に利用している市内を貫通するBartという電車のデータを見ると、パンデミック以前と比較して乗客数がはるかに少ないことがわかります。しかし、これは徐々に回復しています。実際に電車に乗って通勤していると、電車に人が増えてきていることを実感しています。
ただし、現在の回復速度が続けば、パンデミック前のレベルに完全に戻るには3~5年はかかるでしょう。 回復が遅い理由の1つは、人々が週5日出勤をしなくなったためかもしれません。その場合、最終的にパンデミック前のレベルに完全に戻ることはないかもしれません。
最後に、人々はサンフランシスコの犯罪について懸念を示しています。はい、犯罪率が低いわけではありません。しかし、問題は、決して自慢することではありませんが、犯罪率は常に高いということです。 下の表は2019年の犯罪件数の数字を示していますが、特に窃盗に関しては、サンフランシスコはすでに米国で最も窃盗が多い都市でした。 暴力犯罪に関しては、まだ高いですが、ロサンゼルスよりは少し低いです。つまり、私が見る限り、ホームレスの状況も犯罪も以前とほぼ同じですが、その数が少し多くなっただけです。私のようにいつもホームレスを見てきた人にとっては、あまり大きな変化を感じないのもそのためでしょう。
総合すると、状況が以前と少し違うのは事実です。しかし、ある部分はそのままだったり、少し悪くなったり、またある部分は改善されています。また、都市の活気を取り戻すための様々な動きもあります。例えば、トップアクセラレータであるYCはサンフランシスコで100%対面形式で開催する予定です。サンフランシスコを拠点とするOpenAIを含むAI関連のスタートアップは、市内でより大きなオフィススペースを探しているそうです。
サンフランシスコの一刻も早い回復だけでなく、さらなる発展を遂げていくためには、今の状況が深刻であると広く伝えて、真面目に危機感を覚える必要はあります。私も実際に危機感は感じています。しかし、だからといってサンフランシスコの終焉を語るにはまだ早すぎます。今後、6~12ヶ月後に私の考えが変わったか、同じかどうか、もう一度書いてみたいと思います。
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References:
Introducing the Apartment List Vacancy Index - https://www.apartmentlist.com/research/apartment-list-vacancy-index
The Grim State of Downtown San Francisco, by the Numbers - https://sfstandard.com/2023/06/29/the-grim-state-of-downtown-san-francisco-by-the-numbers/
Monthly Transportation Statistics - https://mtc.ca.gov/tools-resources/data-tools/monthly-transportation-statistics
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_United_States_cities_by_crime_rate