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人に優しいスペシャルティコーヒーを届けたい。池ノ上/下北沢「BECAUSE COFFEE BREWERS」

嗜好品の王様として君臨する「コーヒー」

その歴史は古く、起源についてはいくつかの説が存在する。8世紀のエチオピアでヤギ飼いのカルディが、興奮しているヤギがいることに気づき、それがコーヒーの実を食べたことによることが判明したという説や、13世紀のモカ(イエメン)で修道士のシェイク・オマールが王の娘に恋をしたため国を追放された際に空腹に耐えきれずコーヒーの実を食し、その効用に気づいたという説が主だったものである。

イスラム世界では秘薬として珍重され、インドやヨーロッパを経由し、18世紀にオランダ人が長崎出島に持ち込み日本でも飲用が始まった。当初は鎖国政策と、風味が日本人に合わないことから普及しなかったようだが、幕末には蝦夷地防衛の藩士が苦しんでいた脚気・壊血病の治療に効くと流布され、開国を機に横浜の外国人居留地にコーヒーハウスが開店。食の西洋化を追い風に上流階級に広まっていった。

そして近現代では喫茶店という日本独自のコーヒーカルチャーが花開き、2000年代にはアメリカで生まれたサードウェーブコーヒー発祥とされるブルーボトルコーヒーが上陸。ブルーボトル以前からシングルオリジン・浅煎りに絞ったロースターは存在したが、ブルーボトル以降、その店舗数は爆発的に増加。

サードウェーブコーヒーの名店ひしめく東京都。2024年10月に井の頭線 池ノ上駅徒歩1分にオープンしたのが「BECAUSE COFFEE BREWERS」である。

オーナー立川義邦さんは日本を代表する名店GLITCH COFFEE&ROASTERS、Raw Sugar Roastでバリスタとして活躍し、2022年にはJapan AeroPress Championshipで優勝。確かな腕を持ちながら、サードウェーブコーヒーに親しんだことのない老若男女、誰に対してもフレンドリーにコーヒーの魅力を伝える姿勢もあり新店舗ながら昔からの常連から近所の住民まで多くのお客さんが集う。

実はものときろく代表 神谷もGLITCH時代からの常連で旧知の仲。常連一同、待ちに待った立川さんの独立。改めて立川さんの背景と目指すコーヒー像について伺った。

BECAUSE COFFEE BREWERSオーナー立川義邦さん

コーヒーに目覚め、世界一周の経験を経て名店でバリスタの道へ

- バリスタを目指すキッカケを教えてください。

2010年にオープンしたNOZY COFFEE(三宿)でスペシャルティコーヒーを知って、2012年にオープンしたONIBUS COFFEE(奥沢)もすぐに飲みに行って「これだな。」と思ったのがキッカケです。浅煎りで豆の個性が一つ一つ異なる点が今まで飲んできたコーヒーと全く違っていて面白いと感じました。

自分もスペシャルティコーヒーの世界を広める手伝いをしたいと心に決めました。

- 当時は別の仕事をされていたのでしょうか?

はい、別の仕事をしていました。スペシャルティコーヒーを知ってから1、2年後に結婚して、嫁と二人でコーヒー目的ではなく世界一周をしようと仕事を辞め、1年弱で36カ国を周りました。目的ではなかったとはいえ、コーヒー豆のアラビカ種の発祥地であるエチオピアにも訪れて、現地に根付くコーヒー文化を体験できました。

世界一周から戻ったら、コーヒーの世界に足を踏み入れることは決めていましたね。

- 世界一周を終えてバリスタの道を歩み始めたんですね。

そうです。ひとつコーヒー屋を挟んで、2017年にGLITCH COFFEE&ROASTERSに入社しました。独立して自分の店を持つことを大前提に腕を磨ける店を探しました。条件として考えていた「自家焙煎」かつ「浅煎り」で「自分が本当に美味しいと感じる店」の中で、日本のスペシャルティコーヒーを牽引するGLITCHに拾っていただけたのは本当に幸運でした。

- 日本を代表し、今では世界的に有名な名店ですね。

バリスタとして名乗らせてもらうまで3ヶ月以上かかりました。テストに受からないといけないんです。徹底的にコーヒーに向き合う日々を通して、プロのバリスタとしての基本動作が身についた時期だったと思います。また焙煎チームにも所属させていただき、その経験が今独立して自家焙煎をすることに繋がっています。

- 今は無きGLITCHの赤坂店で初めてお会いしましたね。私自身スペシャルティコーヒーを好んでいましたが、GLITCHの一杯があまりに美味しくて感動したのを覚えています。

バリスタと焙煎チームどちらも中途半端になりそうだったので、カプセルホテルのショップインショップとして赤坂店ができたことをキッカケにバリスタに特化することを選びました。赤坂ではエスプレッソの提供がなかったので、フィルターコーヒーに向き合えましたね。またお客様との距離も近く、毎日常連さんや海外のお客様も多く訪れていただき様々な会話があったことも現在のベースを作っています。あの時間がなかったらエアロプレスの日本チャンピオンにもなれなかったと思います。

コロナ禍の煽りを受けてキャリアチャンジ。日本チャンピオンへ

- 硬度の異なる水で同じ豆を抽出したり、各国のバリスタが豆を持ってきたり。面白い空間でしたね。

そうですね。だからこそコロナの煽りを受けてカプセルホテルの休業に合わせてGLITCHの赤坂店も休業になってしまったのは大きな転機でしたね。

立川さんが抽出したコーヒー。丁寧に抽出したスペシャルティコーヒー風味と陶器の口当たりがマッチしている

- 大変な時期を乗り越えて、次のステージが経堂にオープンしたRaw Sugar Roastでした。

2022年3月のオープンから携わらさせていただきました。GLITCHを辞めて「表舞台にどう戻るか」を思案している時に声をかけていただき最前線に戻ることができました。オープン時点から人気で、日を追うごとに大きくなっていく過程が見られたのも大きな経験でしたね。

また学芸大学にあるスペシャルティコーヒーとクラフトビールが楽しめるWR.の監修にも入らさせていただき、運営を担当する会社で様々な店舗の立ち上げやコーヒー管理、人材育成のノウハウを経験できたことも大きな経験です。今でも北海道での店舗立上に向けたレシピ作りやスタッフ教育に携わらせてもらっています。

- Raw Sugar Roastは味はもちろん、雰囲気が本当に素晴らしいですよね。Raw Sugar Roast時代にはエアロプレスの日本チャンピオンになりました。

独立を視野に入れていたため、大会でタイトルを取ることで自分の腕を証明する必要があると考えていました。コロナ前から大会には出場していたのですが、コロナ禍により中止になってしまっていました。コロナが落ち着いてきたタイミングで大会が再開され、2022年にJapan AeroPress Championshipでチャンピオンになれたことで独立を決意できました。

大会に向けた取り組みは店舗での経験とは大きく異なります。コーヒーを抽出するための要素を分解して、一つ一つ試行錯誤しながら大会用の特別なレシピを作り込んでいく必要があります。その時のレシピがBECAUSE COFFEE BREWERSのレシピにも落とし込まれていますね。

Japan AeroPress Championship2022の優勝者に送られる金のエアロプレス(中央)

- 私も長年拝見していて、独立されて本当に嬉しかったです。

ありがとうございます。これまでお世話になった方々にようやく自分の店舗をお見せすることができて私も嬉しいです。物件も長いこと探していましたが、ようやくこの場所が見つかり、ここならやっていけるだろうと決めました。地域の方々や国内の遠方、海外からいらっしゃる方々、全てに愛される店を目指していきたいです。

優しいスペシャルティコーヒーを目指して

- BECAUSE COFFEE BREWERSのコンセプトを教えてください。

「人に優しくありたい」そう考えています。

スペシャルティコーヒーを”お店のスタイルで楽しんでほしい”というスタンスではなく”お客様一人一人にあったスペシャルティコーヒーを提供する”ことで良さを伝えていきたいと考えています。例えば、スペシャルティコーヒー店では置いていることが少ないシングルオリジンのデカフェの豆にも力を入れていますし、ワンちゃん連れもOKです。

自分らしさを落とし込んで、固いルールは作らず、尖らずにお客様に寄り添っていきたいです。

立川さんが焙煎した豆も購入可能。以前在籍したRaw Sugar Roastの豆も一部取り扱っている

- 立川さんらしさが出ていますね。独立した今、どういったコーヒーを提供していきたいですか?

フルーティーかつ華やかで綺麗な味を目指したいです。 GLITCHやRaw Sugarで味わってきたものをお手本にしながら、体験も含めて自分の味を追求していきたいですし、自家焙煎の技術も磨いていきたいです。

過去に在籍した店では扱わなかった豆にも挑戦しています。特別な風味を持つ評価や希少性の高い豆だけではなく、シチュエーションを選ばず気軽に楽しめる豆も提案していきたいです。

ドリップコーヒーだけではなく、エスプレッソメニューも提供

- 内装もシンプルで長居したくなる空間ですね。

モノトーンにまとめてスタイリッシュに仕上げようと考えました。グレーをテーマカラーにマシンも衣服も、壁はモルタルにすることで統一しています。店名やパッケージのフォントは某ハイブランドで使われるNicolas Cochin(ニコラス・コシャン)を採用しました。また椅子の脚も細めのアイアンにし、色味を抑えるためにグレーで統一できない箇所は木材を用いているようにしています。

- ありがとうございました!「人に優しくありたい」というコンセプトが立川さんらしくて素晴らしいなと感じました。最後にお客様へのメッセージをお願いします。

スペシャルティコーヒーが気になっている方はもちろん、カフェイン苦手な方にはデカフェの豆もご用意しています。また、元パティシエのバリスタが作る焼き菓子はスペシャルティコーヒーと相性抜群です。是非、お気軽にお越しください。


BECAUSE COFFEE BREWERS

〒155-0032 東京都世田谷区代沢2丁目44−15 暫ビル 1F
Weekdays 8:45-18:00
Weekends 10:00-19:00

イベント情報

JWatchman×BECAUSE COFFEE BREWERS
ヴィンテージ時計とスペシャルティコーヒーで実現する体験とは?

12/1(日)15:00-20:00

BECAUSE COFFEE BREWERS 立川さんからのコメント

新しい出会いやキッカケが生まれる場にしていきたいですね。フラッと訪れたコーヒー好きがヴィンテージ時計に触れ、逆に時計好きがコーヒーに出会うキッカケになることを期待しています。

JWatchman 高橋さんからのコメント

時計を見ながらコーヒーを飲むという店主のルーティーンに依拠するイベントです。

時計を手に入れては喫茶店やカフェで時間を忘れるまで時計のディティールやその魅力を脳内で反芻してきました。

今回、スペースをお借りするBECAUSE COFFEE BREWERSの
コーヒーは、旧来のコーヒーの概念を超越した存在です。

「サードウェーブコーヒー」という概念が提唱されて久しいですが
BECAUSE様のコーヒーはサードのその先、「フォースウェーブ」を見通したものであるといえます。

生産地だけでなく農地や生産者を指定したコーヒーの仕入れ方法は生産者に対する利益の正しい還元、クオリティの安定に繋がっています。

店主が驚いたのがオーナーである立川氏の頭上で焙煎機が稼働する瞬間。

焙煎機が起動したかと思うと店内が香ばしい香りで満たされるあの瞬間がたまりません。焙煎ってこういうことかと思い知らされる場面でした。

提供された後だけでなく提供されるその過程も楽しく目が離せません。

今回持ち込みを行う個体は約10本。
全て店主のこだわりが詰まった個体達でコーヒーにも負けず劣らず語れる自信があります。

時間を忘れて時計と対話する、そんな体験をご提供できたらと考えております。

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