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電話にぺこぺこ頭を下げる

「真面目な感じで悪くはないんだけどね、何というのかな、うん、
硬いんだよね。話し方が。」
「もう少し、感情を入れて話してみるといいかもしれないよ。」

受話器を置いてしばらくすると上司に言われた。

旅行会社の新入社員研修が終わって、配属先で仕事が始まって1か月くらいしてからのことだったと思う。

当時は、一人一台のパソコンなんてない時代。
電話を使う業務は、とても多かった。

覚えなければいけないことは山のようにある。
慣れないことばかりで緊張の毎日。

電話は、ガンガンかかってくる。
新人は、率先して取らなければならないし、こちらからも掛けなければ仕事が進まない。

ガッチガッチに緊張しているから、必要最低限のことを伝えるだけでいっぱいいっぱいだった。

ふと、周りを見ると、そこまでする?というくらい先輩や上司は電話に向かって頭を下げている。

「いや~。ありがとうございます~。助かりました。」
「はい。確認させてください。そうです。そうです!ありがとうございます。」
「お電話ありがとうございました。失礼いたします。」

ペコペコ、ペコペコ何度も頭を下げている。

その様子を見ながら、私は実家の黒電話に頭を下げる父を思い出していた。
かしこまった様子で「はい。・・・ はい。恐縮です。よろしくお願いいたします。」と言って、頭を2度3度ぺこぺこと下げる。
気持ちが入るせいか、顔は真っ赤だ。

そうか。気持ちか。
私の「ありがとうございます」は口先だけなのかもしれない。
そんなふうに思った。

ちょっと恥ずかしかったけれども、私も電話に頭を下げながら話してみた。
自分でもびっくりするくらい、「ありがとうございます」が変わったのを実感した。

それからしばらくすると電話でよく話をする相手の対応が変わってきた。
一番嬉しかったのは、都心のホテルがどこも予約でいっぱいで部屋がとれなくて困っているときに、いつも「いいですよ~。1部屋何とかします。」と言ってくださる予約担当の方があらわれたことだった。とても心強かった。

電話の話し方で上司からも注意されることはなくなった。


家に掛かってくる電話に出る親の話し方を聞くともなしに聞いて生活していた時代は、そこから様々な学びがあったように思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。
また次のnoteでお会いしましょう。



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