📧【お金Lv.02】お金の役割と価値～貨幣と銀行誕生の歴史⑭(2022年01月号)

ポッターさん

2022年2月15日 08:00

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<本編>

銀行の役割とは何か…

私たちの生活にこれまで欠かす事が出来ない「お金」と、それを預かっている金融機関と言えば「銀行」ですよね。

働いた会社(勤務先)から給与が振り込まれるのも、様々な支払いの多くは銀行を通じて行われています。

近年は家賃や光熱費、携帯電話代などの支出もクレジットカードの支払いにしているという人も少なくありませんが、そのクレジットカード決済もカード会社が一旦立て替えて結果的には銀行口座で1ヶ月〜2ヶ月ほど実際の決済日より遅れて銀行口座から支払われているはずです。

銀行には大きく3つの基本的な役割(機能)があるとされています。

①預金機能
②決済機能
③融資機能

しかし21世紀を迎えた今日、銀行はそれらの基本的な機能での役割を終えつつあり、新しい金融の枠組みの中へと模索しながらですが、移行しようとしている過渡期に立っています。

「金融教育元年」と呼ばれる2022年最初のメールマガジンは”お金”と”銀行”の歴史と変遷について改めて高校卒業までに学ぶ世界史とどう関わり合ってきたのか触れていきたいと思います。

貨幣は何故作られるようになったのか

お金(貨幣)がまだなかった太古の時代を振り返ると、人々は物々交換をしていました。

お互い欲しい物を持った人同士が都合よく出会えれば良いですが、欲しい物を持った人といつも出会えるとは限りません。

冷蔵庫も冷凍庫もなければ、飛行機も鉄道も自動車もない遥か昔。

肉や魚や果物などを物々交換しようとすると腐ったり、交換しようとしたものと自分持っている物の価値が釣り合わなかったり、その交換しようとしている物が高いか安いか知る術(目利き)がないこともありました。

そこでこれらを満たす貨幣(お金)という”概念”がまず誕生します。

①価値の保存
②価値の交換
③価値の尺度

お金の３つの基本機能

貨幣が登場する以前には、それまでは頻繁に取引される穀物などを使っていましたが、これらは長期間の保存が出来ません。

小麦も米も芋類も肉や魚などはやがてカビたり腐ったりしてしまいます。
また持ち運ぶためには膨大な負担が強いられます。

そこで様々な試行錯誤がされ、アジア地域では珍しい貝殻(子安貝など)などを為政者らが貨幣に定めて物品と交換するなどの方法に用いられるようになりました。

このためお金にまつわる漢字には「貝」が付くものが多く、その時代の名残を現在に伝えています。

世界史に貨幣が登場するのは東西の交易の中継地であったメソポタミアだったとされています。

青銅や鉄の鋳造技術が発達していた地域で、希少な鉱石や今日の宝石(貴石・半貴石)などがお金として用いられるようになり、やがて金属加工技術が十分に発達すると金や銀、銅などの希少金属を溶かした貨幣が登場します。

これがおよそ紀元前700年頃にリディア王国(現トルコ)で登場したエレクトロン貨*です。

*金と銀の合金によって琥珀エレクトロン色だったことに由来。

エレクトロン貨には、金属そのものに価値がある希少金属である金(Gold)が少量ですが含まれて造られていました。

しかし金は採掘量も少ないからこそ価値が高いのであって、それをそのまま純度100%の金を利用して貨幣を作っていては世の中で十分に行き届くだけの量を確保することが出来ません。

また五輪などの競技で金メダルを獲得した際に選手がメダルを噛んだフリをするポーズを取ることがあります。

これらは本物の金(純度が高いゴールド)は非常に柔らかいために軽くでも噛めば歯形が簡単についてしまう事に由来します。※五輪メダルは実際には金メッキです。

柔らかくては貨幣として持ち運んだりしているうちに変形したり偽造されてしてしまうため、他の金属(銀や銅など)を混ぜて*強度を生み出して貨幣を作りました。

*金と銀は科学的に親和性が高い金属なので合金にしやすい。初期のエレクトロン貨は砂金から作った金の比率を55.5％、後に40～46％としている。
つまりエレクトロン貨はK14～K10(24分率)だったことになる。

合金することで流通量を増やしつつ、貨幣そのものに価値(希少金属の含有)を持たせることで貨幣にお金の3つの基本機能(価値の保存・交換・尺度)を持たせようとしたのです。

しかしここにも大きな問題が起こります。

例えば希少金属である金を多く含む純度の高い貨幣は価値が高く、沢山の物と交換できます。

このことを「良貨りょうか」と呼びます。
(逆の価値をあまり持っていない場合は「悪貨あっか」)

具体的には「金貨」をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。

金は金そのものに価値があります。

しかし金は流通量が圧倒的に足りません。

何しろ現在までの人類の歴史を通じて、五輪公式プール3.8個分(約18万トン)ほどしかありませんし、地中埋蔵量も約5万トンほどと限られています。

現在の採掘技術では年3,000トンほどのペースで採掘されており、海底などに埋蔵しているものは採掘に採算が取れないため埋蔵量に含まれていない。

同じく希少金属ですが金よりは採掘量のある銀は、金のおよそ10倍の埋蔵量(140万トン)と既採掘量は100万トンとされています。

つまり金よりも沢山の量の貨幣として流通させることができます。しかし銀を含む貨幣の価値は同比率の金を含む貨幣よりも劣ります。

貨幣の価値(物と交換できる量＝購買力)と流通量の問題はそのまま人類の商売や貿易の拡大と共に大きな課題として扱われるようになっていきます。

貨幣価値と流通の問題

たとえその国の王様や領主などが「これは100ドル*の価値」と宣言して貨幣に$100と記載したところで、人々がその貨幣に100ドルの価値がないと考えれば信用して買い物の時に使ってくれません。

*1㌦=100円として10,000円

逆に額面は100ドルと書かれているけれど、そこに含まれている希少金属(ここでは金)が仮に150ドル相当の価値だとすると、100ドルの買い物の決済としてではなく、150ドルの価値として決済に利用したいはずです。

そうでなければ買い物をした人は「勿体ない」と感じるでしょう。

この理由は金そのものに価値Valueがあり、人は額面よりも価値を信用する傾向にあるからです。

こうした現象を”一物二価”または”一物多価”と呼び、現在も金貨などは記載の額面の価値と含まれている金属の価値の二種類の価値を持っています。

例えば上記画像のウィーンハーモニー金貨は額面100ユーロ(1€=130円として13,000円相当)ですが、金としての価値は1オンス(31.10g/純度999.9)は1,500ユーロ(約20万円*)の価値があります。

当然ながら100ユーロで購入することはできず、1,500ユーロ以上出さなければ入手できません。

*2021年10月時点のおよその相場と為替レート。

そして一物二価の場合、人々は価値の高い方を用いようとし、世の中に同じ額面の良貨と悪貨が流通していると良貨を貯め込み、悪貨を市場で使おうとします。

例えば普段の買い物をする際に全く同じ商品が、安い価格で売られているお店と高い価格でお店では価格の安いお店で買おうとする現象を立場を逆にすると想像しやすい。(消費者⇔お店)

世の中に貨幣が十分に流通しないと商品の売買などが活発にならず、経済が停滞して不景気になります。

潤沢な貨幣流通のためには額面に記載の価値と実際の価値が釣り合っていることが求められ、このバランスを取るために古代から中世・近代・近世にかけて数々の工夫がされてきました。

そのうちの一つが、希少金属の価値を基準とした、金の含有量に連動した通貨体制「金本位制」という考え方です。

しかし既に触れたとおり金の採掘量は中世まではそれほど多くなく、中世の欧州では世界の主流な貨幣は銀貨が中心でした。

新大陸アメリカの発見やオーストラリア、ブラジルやギニアなどでのゴールドラッシュによって金の採掘量と流通量が急速に中世以降増えていく

仮にですが、ある国で銀60%と無価値の金属40%が合成されて造られた銀貨が世の中に大量に流通しているとします。

銀の金属としての強度は金に近く脆いため、合金にして強度を補強する必要がある。

この場合、銀貨の価値は銀60%相当の価値と等しい事になります。

しかし銀60%で交換ができる物の量は限られています。例えば沢山の量の食料と交換しようと思えば沢山の量の銀貨を持ち運ばねばなりません。

しかも強度を保つためにある程度の比率(この場合は40%)を占める無価値の混ぜた金属の重さと一緒に。

これが道路も車も、電車も飛行機もない時代にどれだけの負担か想像ができるでしょうか。

では一方でこの銀貨に60%含まれている銀と等価値の金6%に無価値の94%が占められている硬貨の場合はどうでしょうか。

*一辺1cmの立方体(サイコロ状)の水の容積の重量1gを基準質量とすると、同じサイズで金は19.32g、銀は10.50gとなり金は水の19.32倍の比重があり、金と銀では同じサイズにすると金の方が質量が約2倍重い。

貨幣に含まれている希少な金属としての価値は元の銀貨と同じですが、この場合には無価値の金属94%と銀より約2倍も重い金を含んだ硬貨を運ばないと交換できません。(硬貨のサイズ、強度を含めて)
銀貨よりも流通においてはとても非効率です。

世の中に多くの貨幣が流通するというのは一見すると買い物に便利そうに思えます。
何しろどこに行ってもその貨幣が出回っているのですから色々な場所で使うことが出来ます。

しかし実際には含有率の高い元々の貨幣(良貨)を人々は貯め込み、市場には含有率の下がった悪貨ばかりが流通するようになります。

そして悪貨は含まれている金属の価値が低いために、同じ買い物をするにも時に何倍もの量の貨幣を持ち歩かなくては買い物ができなくなってしまうという悪循環が起きてしまいます。

後に貨幣に代わって登場する紙幣は、裏付けとなる価値がハイパーインフレによって、一抱えの札束でやっと品物一つと交換できるような状況になった国もある。(写真はジンバブエ)

こんな状態になってしまうと売買の効率(頻度)が落ちてしまい、人々はまともに買い物をできなくなり景気が悪化してしまうという現象が起こります。

これは貨幣に対する信用が貨幣に刻まれている額面よりも、お店や消費者が含まれている価値に重き(信用)を置いているためです。

ヘンリー8世による大悪改鋳「銀貨」

しかし貨幣をつくり流通させる権限を持つ国の財政が悪化すると、貨幣の銀含有率を下げた銀貨を生成して流通させようとします。

一つには財政が厳しくなると国が価値の裏付けとなる銀を十分に確保することが出来なくなるためです。

イングランドのヘンリー8世(1491-1547)の治世において、古い貨幣(良貨)を集めて溶かし、銀と混ぜ物の金属を分離して含有率を低くした新しい貨幣を流通させることを行いました。

これを大悪改鋳だいあくかいちゅうと呼びます。

※銀は磨かないと腐食するので時代が古い銀貨は色が褪せて見える。後年の貨幣との造りに注目して見てほしい。

右が前王ヘンリー7世の治世の貨幣。周囲の文字なども厚みがしっかりしていて、重みもありそうな硬貨コインという印象ですよね。

真ん中がヘンリー8世の治世中期のもの。なんか全体的に薄くなっているように見えませんか？(文字などの彫りの深さも浅くなっているような…。)

そして左がヘンリー8世の治世が終わった時代の貨幣です。ペラッペラ！(笑)
もはや描かれている王の顔さえ消えかかっている有り様！

額面は変わらないのに、含有率が下がった貨幣(悪貨)が市場に大量に放出されました。

こうした貨幣の造り直しは、貨幣の流通量が増えて経済がそのままうまく機能してくれるのであれば造幣を担う国は抜き出した含有率の分だけ儲かるという仕組みでした。

人々は生活のために貨幣を全く使わない訳にはいきませんのである程度は流通し使われますが、国民は良貨を買い物に回さずに蓄え、悪貨を優先的に普段の買い物などに使うようになります。

ヘンリー8世はこうして火だるまだった国の財政をやりくりして、度重なる戦費を調達したり、国の歳費を捻出したりに躍起になりました。

彼の治世が終わる頃にはどんどん銀の含有率が下がって当初の半分以下になっていたとされています。

当時のイングランドの銀貨は銀の含有率が低いために他国との貿易などでも決済を断られたり、また貨幣そのものの造りが雑。
混ぜた金属の強度も脆いもので破損が目立ちます。

また錆びたり割れた部分の色味から銅を混ぜていることが推察できると思います。銀貨と言いつつ、銀よりも価値の低い銅を混ぜているのが分かるほどですから、当時の人たちが決済に敬遠をしたのも致し方ないクオリティと呼べます。

日本ではお米がお金の代わりだった？

また日本においては一般の農民たちはお米などの穀物を年貢としてお殿様に納めたりしていました。

これは貨幣を十分に流通させるだけの希少金属である金や銀の採掘量の問題や造幣するための鋳造技術の問題、米が食料という日本人が生きる糧という文字通りの価値を担保する意味もありました。

しかし大量の穀物なども持ち運ぶのも保管するのも大変です。
しかも穀物は放っておくと腐ってしまいます。

そこで小判や大判などに両替をして、お金としての3つの機能を果たす大切な役割を担うようになっていったのです。

そしてこの両替という役割を担ったのが日本では、現在の三越伊勢丹グループの祖業にあたる呉服店(現在でいうところのデパート)、三井越後谷*によるサイドビジネスとして始まった公金両替商や、米を発酵させて日本酒などを作る杜氏とうじなどの酒蔵でした。

*三井家は言わずと知れた後の三井財閥、現在の三井住友グループ。
江戸の金、大阪の銀という貨幣文化の違いを用いた両替で成長した。

酒蔵では穀物を加工して保存期間*を延ばし、また加工等による付加価値を生み出し、交換という貨幣に近い機能を持ちました。

*通常の日本酒は1年程度だが、長期熟成酒の場合は3年以上熟成させる

また春には農民たちが苗や種を買うための融資をしてもらったりという今でいえば銀行の役割をしていたのも酒蔵や問屋が担うことも少なくありませんでした。(現在では農協などがその役割を担っている)

日本と西欧では文化がかなり異なりますが、日本酒は祭事など神様とのつながりを深くする意味でも用いられる点で、西欧と意外な共通点もあったりする。

尚、日本における日本酒の酒蔵などの役割は、ヨーロッパなどでは収穫された葡萄を発酵させてワインにするなどの醸造所ということになります。

宗教的にキリスト教圏ではワインは「イエスの血」、パンは「イエスの肉」を意味する。

毎度余談ですが、日本で酒蔵が金融の仕組みを持っていたという象徴的な事例は愛知県の「盛田」でしょう。

戦後日本で創業した企業ながらその高い技術力で日本を代表する企業となったソニーですが、創業者の一人盛田昭夫の実家は酒蔵で、創業間もない経営不安定な同社を融資で支援したのは有名な話です。(盛田株式会社は昭夫の弟が継いだ)

後に盛田株式会社は日本初とされるコンビニエンスストアチェーン店「ココストア」を経済成長に沸く1971年に愛知県春日井市に開業。

業界再編によって市場に飲み込まれる運命となりましたが、1つの大きな足跡を残したと言えるでしょう。

また「Pasco」ブランドの敷島製パン(Pan Shikishima Company)なども同社の関連企業に名を連ねています。

そして盛田株式会社の融資によって支えられて成長したソニーが1980年代に参入した保険や1990年代後半に参入した銀行などの金融事業によって2000年代からの長いエレクトロニクス不調期を下支えされ、復興してきたというのは運命めいたものを感じないでしょうか？

中世時代の”銀行”と”為替”の登場

こうした貨幣や商品が各国各地域で誕生し、人の活動範囲が広がり、活発に交易がされるようになると新たな問題が発生します。

洛陽-ローマは陸路で約13,000km、舗装などがなく山道など馬で荷物を運んで毎日25km*/日進んだとしても片道約324日かかる　*東京駅-横浜駅間27km

貨幣を他の国や地域に持って行った時に交換するという問題、つまり両替という負担です。

これを担ったのが「銀行」という金融機関でした。

銀行の起源と問われると既に古代ローマ帝国の時代には近代の銀行としての端緒が観られ、ある銀行は質屋を祖業に持ち、ある銀行は両替商であり、ある銀行は基金を募りカトリックでは禁じていた利息を取るというユダヤ人らによる高利貸しから貧民を救済するなど設立の目的は様々でした。

イタリアではシルクロードを経由してヨーロッパに入ってきた輸入品の貿易で栄えた港町ヴェネチア(ヴェニス)やスペインとの交易で栄えたジェノヴァ、そして輸送品がローマに向かって運ばれる中継地であったフィレンツェが商業と金融で栄えます。

フィレンツェは内陸の街でこそありましたが、各地との交通の要所にあり、教皇庁のあるローマへの中継地、古代から中世にかけても多くの人たちが行きかっていました。

フィレンツェでこの交易路で両替商をしていたメディチ家*ですが、単にお金を両替するだけでなく貨幣を運ぶというわずらわしさを解消するためにアイディアを駆使し、各地に支店を設けて手形を発行。
その支店に手形を持っていくことで両替や決済をしてくれる仕組み、「為替(かわせ)」を確立します。

*メディチは元来、”医者(Medici,Medical) ”を意味し、家紋から先祖は医者か薬問屋という説も。

彼らが生み出した「為替」という仕組みの登場によって、毎回決済のために大量の貨幣を持ち運ぶことによる輸送コストや、輸送途中で山賊などに襲われた際にそれらを盗まれるという懸念など*から商人たちは解放され商取引(商業)が一層活発になるようになります。

*貨幣の価値保存機能によって価値の獲得者(たとえば労働など)が貨幣の所有者になったが、貨幣そのものはそれを所有者と必ずしも紐づいていないため何らかの形で物・サービスに交換する前に損なわれたり、奪われるなどすると所有者はその交換する権利まで奪われてしまう課題は現在まで続く「お金」そのものが所有者のものではないという本質的な課題が残っている(【お金Lv.01】)

為替には自国内での通貨同士で相手方にお金を支払ったり送金をする「内国為替」と、異国間の通貨で両替をしてお金を支払ったり送金をする「外国為替」があります。

今日では「外国為替」のことを一般的には「為替」と呼ぶことが多いですが、振込や振替(銀行引落)など内国為替の仕組みを利用したサービスを私たちは普段意識せずに利用しています。

しかしこの為替を行うにあたって大きな問題が残っていました。

それは先にも触れたとおり当時、絶大な権力を持っていた教会が「利息」をカトリックの教義に反する卑しい行為として禁止していた*のです。

*一方で各地で疎まれ、迫害の対象として仕事を奪われたユダヤ人はこれを生業として各地にネットワークを持っていた。

教皇「これは実質的には手数料の名を借りた融資における利息ではないのか？」

教皇からそう問われた際に当時のメディチ家当主ジョヴァンニ・ディ・ビッチ・デ・メディチ(1360-1429)は「これは決して利息ではなく、為替リスクを補うためのコストです」と答えました。

そしてそれを疑い許可をしてくれない教皇の耳元に近づいて彼は囁きました。

「取引の勘定項目に”神への勘定”を加えてコストの一部を寄付するので認めてもらえませんか？」

これを訊いた教皇は「私は信じよう。これは利息ではない」と手を打ちました(笑)*

*マンガではコミカルに表現していますが、高度な政治取引です。
まだ十分な銀行や近代的な金融システムもATMも確立されていないために当時は各地にある教会や信徒からの寄付集め(集金)は実際問題として大きな負担でした。

こうして教皇のお墨付きを得た為替によってメディチ家だけでなく、フィレンツェそのものが更に大きく発展を遂げ、あの美しい街並みが築かれていくことになります。

最古の銀行有するシエナと同じトスカーナで金融の覇権を争った結果、フィレンツェが中核都市へ

フィレンツェの象徴的なドゥオモである、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂はこうしたメディチ家の為替コストからの莫大な寄付などによって140年以上かけて建設され、1436年に完成し、中世で最も美しい街と称されるフィレンツェも繁栄の時を迎えます。

そして教皇が売上の一部を寄付をすれば手数料コストを取ることを容認してくれることを知り、それまでユダヤ人たちが独占していた融資・決済・為替機能を併せ持つ近代の銀行業へ資本を持つ商人たち様々な人々が踏み出し、中世の商業がこれらの仕組みを用いて急速に発展をしていくことになります。

>>歴史を経済の視点から解説したnote記事をまとめました。