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【歯だけ切り取って見ないで】ーその人全体を尊重し、地域社会で生活するかけがえのない一人として扱ってください
「歯だけ切り取ってみたら虐待かもしれないけどーー発達面他は全く問題ないから、これは対応できないケースです。」
これは、3歳児健診でむし歯重症児の子どものフォローアップを連携して欲しい、と他の医療職に働きかけて言われた言葉です。
私は長年にわたり地域の歯科衛生士として、多くの住民と関わりを持ってきました。
このやり取りは、たった数年前の出来事です。
私が勤めている地域で、歯科衛生士としてしばらく離れていた後に目にした光景でした。
その後、上司や子どもの通う保育所等に何度も足を運び働きかけて、ようやくむし歯重症児の母親と接点を持つことができました。
守秘義務のため、そのケースについての詳細は書けませんが、その後歯科医院受診に結びつき、むし歯の治療もすべて終えることができました。
私が地域で推進してきたのは、一次予防です。
一次予防とは、歯科でいうと歯科疾患にり患しないよう、地域で家庭訪問、健康教育や健康相談等の、健診以外で一人ひとりに応じて細やかなサポートを行うものです。
健診は二次予防に該当し、早期発見・早期治療がこれに当たります。
健診の主な目的はスクリーニングによる振り分けです。
医学モデルのイメージが当てはまります。
問診票を用いてチェックし、状態が良好か、そうでないかを分類し、診察結果と照合して治療が必要かどうか、不要か、あるいは経過観察が適切かを判断します。
そして、三次予防は主に重症な歯科疾患の治療やリハビリテーション等が当てはまります。例えば、今回のケースはまさにこれに当てはまります。
地域で専門職として働く意味、それは予防につきると思っています。
一次予防には、歯科の予防的予防処置が含まれます。たとえば、フッ素の塗布やシーラント(歯の溝に充填するもの)、口腔ケアなどが含まれます。
これらを、より多くの人が公平に受けられる機会をつくることも含まれます。
一次予防を主軸に二次予防で確認をすることです。
各自、歯科医院でという考え方ももちろん正しいものです。
しかし、地域に常勤の歯科衛生士がいる意味は、少し違ってきます。
地域の歯科医師の先生方と密に相談や会議、そして常に指導をいただく体制を作り、地域の一人ひとりが平等に支援を受けられる体制を作ることが重要です。
その関係の構築は、住民とも同様に行うことも大切です。
そして最も重要なのは、職場内で連携することです。
多職種連携なしには、これらは成し遂げることはできません。
私の勤務している地域には、もちろん常勤で多職種が勤務しています。
そして、多職種連携において最も重要なことは、それぞれの持ち場の仕事を責任を持って果たしていることが、大前提となります。
それがないと連携はできません。
地域において経済的困難を抱える家庭があり、子育てが理想通りに進まないケースが存在します。また、母親が自身のケアに手が回らず、虫歯が多いにも関わらず、金銭的な問題や時間の制約で、子どもを歯科医院に連れて行くことはできても、自分自身は治療を受けられない状況を目にしました。
そして、私は感じていました。
お母さんは、そのような状況下で子どもに十分な育児を提供できず、自分自身を責めていました。
現代の家庭は、ますます多様で複雑な問題を抱える可能性が高まっています。
歯の治療だけで、これらの問題は放置されています。
しかし、「生活の有り様が結果として歯科疾患の発症につながっている」という視点が必要です。
歯科疾患が生活環境や社会的背景と深く結びついているという視点を持って、様々な専門職や地域の機関と連携する必要があります。
安心して自らの健康を維持して、その人らしく自分が主役の人生を歩んで欲しい。
私が地域で働く意義は、それを実現することにあります。
そして、どうか「歯だけ切り取って見ないで」
その人とその人を取り巻く環境に目を向けて、見ないふりをしないで欲しい。
住民がSOSを出せる専門職でありたい。
私はこのように強く願っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
私が目指しているのは、孤立のない共生社会の実現です。