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地域共生社会を支える歯科の役割~地域包括ケアシステムの中で~

地域共生社会の実現を目指す取り組み

令和2年に成立した「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」は、社会福祉法が改正されるきっかけとなりました。その背景には、公的な制度だけでは解決が難しい、複雑な課題を抱える世帯が増えている現状があります。

また、人口減少や人材不足により支援の仕組みも不安定になり、地域や家族のつながりが弱まったことで、社会的孤立や制度の隙間にある問題が目立つようになっています。

そのため、地域住民やさまざまな立場の人が関わり合いながら、住み慣れた地域で誰もが自分らしく暮らせるように、地域共生社会の実現に向けた取り組みが進められています。

一人ひとりの生活や生きがいを大切にし、地域全体で支え合うことを目指しています。

参考文献 
一般社団法人厚生労働統計協会 『国民の福祉と介護の動向・厚生の指標 増刊・第70巻第10号 通巻第1097号』 81、81頁、2023年


重層的支援体制整備事業

令和3年4月から、令和2年の社会福祉法改正を受けて、重層的支援体制整備事業が始まりました。

この事業では、市町村が次の3つを一体的に行っています。

・相談支援 ー 誰でも相談できる窓口を作り、多機関が協力して支援。また、必要に応じて自宅を訪問するなど、長く寄り添うサポートを行います。

・参加支援 ー 地域での活動や社会とのつながりを支援します。

・地域づくりに向けた支援 ー 地域全体が助け合い、住みやすい環境を作る取り組みを進めます。

参考文献 
一般社団法人厚生労働統計協会 『国民の福祉と介護の動向・厚生の指標 増刊・第70巻第10号 通巻第1097号』 81頁、2023年


精神障害にも対応した地域包括ケアシステム

平成27年から29年にかけて、精神障害者の地域での生活を支援する事業が行われました。

29年度からは、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた新しい事業が始まりました。

これには、保健・医療・福祉関係者が協力し、精神科医療機関や地域の支援者と連携して支援体制を作ることが含まれます。

参考文献 
一般社団法人厚生労働統計協会 『国民の福祉と介護の動向・厚生の指標 増刊・第70巻第10号 通巻第1097号』 173頁、2023年


地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステム

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。

引用 厚生労働省ホームページ 福祉・介護地域包括ケアシステム 

平成23年の介護保険法改正により、地域包括ケアが推進されました。
この仕組みでは、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう、日常生活圏域(中学校区や30分程度で駆けつけられる範囲)を単位として、医療、介護、予防、住まい、生活支援(見守り、配食、買い物など)の5つのサービスを組み合わせて提供します。
これにより、入院から退院、在宅復帰まで切れ目のない支援が受けられます。

参考文献 
一般社団法人厚生労働統計協会 『国民の福祉と介護の動向・厚生の指標 増刊・第70巻第10号 通巻第1097号』 202~206頁、2023年


誰もが安心して暮らせる社会を目指す歯科の役割

地域包括ケアシステムの導入により、住み慣れた地域で生活を続けられる仕組みが整うことは、歯科分野にとって重要なテーマです。健康な歯と口腔が欠かせません。これを維持することが社会参加への道を開き、人々の生活を向上させると考えています。

歯科医師から学んだことの一つに、精神的な健康が悪化すると歯肉など口腔の状態も悪化するという点があります。これは疾患や生活環境、社会的背景の影響を受けやすく、十分なケアが行き届かない状況も少なくありません。このように、歯や歯肉の健康は疾患や生活環境、社会的背景と密接に関係しています。

歯科衛生士として、また社会福祉士の視点から見ても、歯科分野は命を支え、社会的な意義を持つ重要な分野です。そのため、地域包括ケアシステムや地域共生社会の実現には欠かせない存在だと強く感じています。

高齢者や精神的な障害を持つ方々をはじめ、全ての人が安心して暮らせる環境を整えること、また制度の狭間にある課題への対応に歯科分野が貢献できる可能性について、この記事で考察しています。


地域での予防と支援の重要性~歯科分野を通じたつながりの構築~

地域には予防的役割を果たす社会資源が必要です
歯科分野もその一つで、日頃からつながりがある地域であれば、問題が発生した際に助けを得やすい環境が整っていると考えられます。
何かが起きてから相談するのではなく、早期に困りごとに気づき、その問題を話せる場所が重要だと言えます。

歯科医療分野では、定期的な歯科健診やメンテナンスを通じて、歯科保健分野や介護保険と連携し、歯科疾患予防、早期発見、治療、リハビリといった支援が進められることが必要です。
これらのつながりを生活圏域(30分以内)で築くために、地域包括ケアシステムが必要だと考えられます。
歯科保健・医療は、人々の命を支え、社会的つながりを守り、その人らしさを保つ役割を果たします。

また、セルフネグレクト(例えばゴミ屋敷での生活)といった制度の狭間にある問題も、地域とのつながりを築いておくことで早期対応が可能になるかもしれません。

特に、制度の狭間にいる人々へのアウトリーチ(訪問)は、効果的な支援方法の一つです。
医療との連携も有効で、歯や口の困りごとをきっかけにアプローチする方法も考えられます。
この介入には、人々の強みや生活史に焦点を当て、対人援助関係を築くことが重要です。
また、これらを支えるために、地域のインフォーマルな社会資源だけでは不十分であり、マクロ的な視点で地域のつながりを構築する仕組みが必要です。

すべての人がつながりを持てる地域を目指し、歯や口が悪くなる前に予防し、早期に治療を行い、治療後のリハビリテーションまでサポートできる体制を整備するためには、保健、医療、介護、福祉が連携し、地域に密着した支援を進めることが重要です。

地域包括ケアシステムの対象外となる人々についても、日常生活圏域で地域のつながりを築くことにより、人々をつなぐ役割を果たすことができます。歯や口の健康を守る「訪問」や「通い」、「ワンストップの窓口」は、人々に寄り添い、その人らしい健康な生活を住み慣れた地域で実現するために重要な役割を果たすものと考えます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
私が目指しているのは孤立のない共生社会の実現です。

よろしければ、ぜひこちらの記事もご覧ください。

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