海を渡った『かたちのないものたち』
首を長くして待っていた『かたちのないものたち』が昨日、届いた。既に日本国内のnoterさんたちの手には届いており、おそらく、私が一番最後に受け取ったのではないかと思う。
note界隈では今や『芸人』という特殊な存在であるあきらとさんが旗を振り、小冊子化まで実現させてしまった#幸せをテーマに書いてみよう プロジェクトが生んだ奇跡の一冊。参加者数69名、75作品から成り、ページ数にしては192ページもある。小冊子なんてものじゃない、もう、立派な、立派な本なのだ。
国際郵便の封筒から、こげちゃ丸さんがデザインされた白と黒の落ち着いた表紙の冊子が顔を出す。幸せという言葉がもつ二面性をテーマにするデザインタイトルは白夜。「幸せに色はないが二面性はある。明るく空を舞うような幸せもあれば、暗い海に沈むような重い幸せもあるだろう」というメッセージがダイレクトに伝わる。
穏やかな月光のように優しく輝くパールホワイトと、黒でありながら邪悪な闇を思わせるような黒ではなく、ゆっくりと目を閉じて幸せについて考える時のような落ち着いた温かい黒が、上になり下になり交じり合いながら冊子を包む。手にした時点で、執筆陣および運営に携わった人々の体温を感じないではいられない『かたちのないものたち』との出会い。これほど温度のある本を手にしたのは初めてだった。
大変な物が届いてしまった。
正直なところ、そう思った。
さらに白状する。実は、大部分の参加作品をまだ読んでいない。企画当初から小冊子化してもらえるということだったので、ゆっくりと読み返したいと思っていたのと、昭和の人間なので、今だにデジタル文書を読むのに慣れない。手にとってその感触を楽しみ、何度も前のページに戻ったりしてその存在そのものを味わいたいと思っていたからだ。
それなのに、送られたきたのは『かたちのないものたち』だった。その言葉のギャップが何だか可笑しくて、本当は、ちょっと笑ってしまった。でも、そのタイトルの意味を知ると、納得するのにコンマ5秒もかからなかった。
これについては、プロジェクトの発起人であるあきらとさんご自身の言葉の中からの抜粋させていただきたい。
かたちをもたないからこそ、手をかけてきもちを注いでそれを守ろうとしたり、なにか手近なかたちをあてがってすこしでもつよい輪郭を与えたくなる。
その輪郭がたとえだれに褒められるようなものでなくとも。
抱えたことのなかった、抱えることもいつまでもできない、きっとやわらかなそれが、いつまでもそのままでそこにあってほしい。
かたちを持たず曖昧で儚く、匂いも音もなければ色もない。それぞれが輪郭のないその存在を信じ、求め、慈しむ。世の中で他人の価値観が一切影響しない、個人にとって最も価値のある無形物『かたちのないもの』が幸せなのだ。
さらに、運営担当のネーミングが堪らなく素敵なのだ。その名も、おでん処『幸』。
それぞれのnoterの書く幸せが、時間をかけて一つの鍋でコトコトと煮込まれる。
元々、味のしっかりした牛筋はトロリと柔らかく仕上がり、三角の角張ったこんにゃくは煮込む程にゆっくりと味が滲みていく。可愛らしく愛嬌のある三色団子は、個性的な外観を持ちながらも、おでん汁の中でまろやかに馴染んでいく。存在感抜群の茶色く色付いた茹で玉子もおでんには欠かせない。ちくわふや、厚揚げだって、どれ一つとして外せない。同じ鍋の中で揺らいでいたのが信じられないほど、それぞれが独特の味を出す。
アツアツの一つに齧り付く。五臓六腑に染み渡るような滋味深い味わいが、何ともいえない煮汁と共にジワッっと口の中に広がっていく。おでん処『幸』で手塩にかけられ、心を込めて、丁寧に煮込まれたおでんが、みんなの手に届く。一口、そしてまた一口と心の芯を温めてくれるおでん。
本当は、この小冊子がスペインに届いた事を公開せずにおこうかと思った。理由は、私がいるスペインという国が、この小冊子が届くべき最後の地ではないから。この一冊にしたためられったそれぞれの幸せの鍵が、今の幸せをさらに大きくしたり、次の新しい幸せに繋がったりしていくのだと思うから。
今まで全く違う人生を歩んできた仕事も年齢も異なる69人が綴った一冊。こんなに遠くの地にいながら、自分もその69人の中の一人になれたという奇跡を心より感謝している。ゆっくりと大切に読ませていただく。
おでん処『幸』として運営に携わっていただいたあきらとさん、あらしろひなこさん、こげちゃ丸さん、たけのこさん、ルミさん(50音順)には、本当に感謝しかない。
皆さんのおかげで『かたちのないものたち』は15.000キロの海を渡りました。
もっと、もっと遠くまで届きますように。
ありがとうございました。
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