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特別研究員コラム⑦:        会議の中にある議論と対話                ~ポジティブケイパビリティとネガティブケパビリティのバランス~

 皆様、こんにちは!VCラボ特別研究員の黒木です。昨年、「対話とはなにか」について学び、深める機会を頂いて以来、企業活動における対話のあり方を悶々と考え続けております。最初は、企業活動の中で、対話もネガティブケイパビリティも想像しづらく、ひょっとしたらどちらも馴染まないんじゃないかとさえ考えていたのですが、今年に入り、自分自身の社会復帰が目前に迫ってきていることもあって、仕事中の色々なコミュニケーションシーンを思い出す機会が増えました。そのなかで、視点を変えて見てみると、対話もネガティブケイパビリティも、どちらも会議の中でちゃんと成立しているように思えてきたのです。

「会議は結論を出すために議論をする場」という思い込み

 具体的な場面として思い出していたシーンがあります。とある会社の営業部長が参加する目標設定会議です。

 目標設定は評価に直結するため、できるだけ齟齬が生じないように、お互いのイメージをすり合わせながら具体的な数値目標に落と仕込んでいきます。議論をしながら課題をクリアにし、結論を出す。まさにポジティブケイパビリティが求められるシーンだと感じていました。

「すぐに解決できない問い」を投げかける重要性

 しかしながら、そもそも、「なぜ目標を立てるのか」という問いかけをされた部長さんがいらっしゃって、そのシーンが今でも蘇ります。

「目標は会社から落としてもらわないと困るよ!」と、堂々と管理職の役割を放棄する方がいる一方で、「会社から示してもらう必要ってあるんだっけ?」という問いを投げかけたのです。まだ営業部を立ち上げたばかりの、初年度目標設定会議での出来事でした。

「目標設定だよね?目標って、なんだっけ?なんのために必要なんだっけ?評価する以外のもっと大事なことってなかったっけ...?」

 丸1日、喧喧諤諤。元々数字に対する執着が強く、負けず嫌いな血気盛んな方々ですので、見ている方としてはハラハラしたものです。ただ、今このシーンを振り返ってみると、できたばかりの部署を育てたい、大きくしていきたい、良い製品をより多くの人に使ってもらいたい、という根底にある思いは、重なっていたと感じるのです。だからこその喧々諤々で、参加者がお互いの思いに重なりがあると信じていたからこそ、遠慮なく言いたいことを言い、受け入れるべき意見は受け入れられていたように感じ、ここに、対話の萌芽があったように思うのです。

 結局初年度は、社長がリードする形で目標が決められました。でも、さらに印象に残っているのは、2年目の会議なのです。初年度の会議に参加された部長さん全員が、自分なりの考えや語りたい想いを持って、次年度の会議に参加されました。数値目標の設定方法、新規開拓、部下育成、部隊に求める姿勢…1年目とは比べ物にならないほど多くの意見が出て、その多くが目標設定内規に取り込まれました。

気づきづらいけど実はあった!会議の中に自然と存在している
「対話」と「ネガティブケイパビリティ」

今振り返ってみると、このシーンに2つの要素があると感じるのです。

 1つは、ネガティブケイパビリティの要素です。1年目の会議で投げかけられた、「すぐには答えの出ない問いかけ」について、モヤモヤしながら答えを得ることを急がず、考え続ける姿勢があったように思います。問いかけに対して参加者の内省スイッチが入り、1年目の会議そのものが終わった後も、問いに向き合い、モヤモヤの中に留まり続け、2年目の会議でそれぞれの思いを実らせる。これって、ネガティブケイパビリティじゃないかな、と感じるのです。

 もう1つは対話の要素です。1年目の会議では、「聴く」より「言う」が目立ったものの、お互いが根底にある思いに重なりを感じ、遠慮せずに発言し、受け入れるべきは受け入れる姿勢を感じました。2年目の会議では、参加された部長さんそれぞれが新しい部隊に望むこと、自分自身がなぜ大きな会社から出来たてほやほやの小さな部隊に移ってきたのか、思い思いに語るシーンがありました。目を瞑り、頷きながら聴いていらっしゃる参加者の皆さん。それぞれがそれぞれの中にある、複雑で熱い思いに、共鳴していたのだと、今考えると理解できます。このシーンはまさに、対話だったと思うのです。そして、1年目の喧々諤々の中に見る対話の萌芽がなかったら、2年目のこの対話もできなかったのではないかと思うのです。

 一見すると喧喧諤々で結論を急いでいるように見えるシーンでも、問いに対して、それぞれがネガティブケイパビリティを発揮し、それぞれの中で深め、次年、次次年と、時と対話を重ねる度に、ビジョンも重なっていく。 

 いつもの会議を違う視点で切り取ってみると、議論と対話、ポジティブケイパビリティを発揮する課題とネガティヴケイパビリティを発揮する問いかけのバランスがいいほど、参加者の納得感が回を追うごとに深まっていくのではないかと、振り返ってみて思うのです。

会議の中の”問いかけ”と”聴く姿勢”に気づき活かす?!

 会議の中には、議論しながら答えを出すことが求められるシーンと、モヤつきをあえて作り出し、対話によって深めることが求めらるシーンがあるのではないか?と考えるようになりました。問いかけ、留まり、一歩深める力、自分の熱い思いと同じように、相手にもそれがあると信じて、話し、聴いて、重なろうとする力。会議の中には、無意図的に既にこのような力動が存在している…それに気づいてさえいれば、力動をより活かして広めることができるのではないか…

 VCラボ特別研究員として、そして企業人事として、会議をこのような力を養う場だと捉えて、率先して実行することで、各部署に汎化させられないものかと、画策中です。


2024年スタート!

特別研究員プロフィール
黒木 貴美子  (クロキ キミコ) 
ビジョン・クラフティング研究所 特別研究員
某大学院にて臨床心理学勉強中
精神保健福祉士