作業療法の知られざる源流?補遺

今回は、補遺(漏らしたことの付け加え)として、実際にジェーン・アダムズが作業療法について、どのように語ったのかを書いていきたいと思います。
前回までの続きは申し訳ありませんが、様々な資料が見つかり、読んでまとめるのに時間がかかかっています。しばしお待ちください。
これまでの復習(誰の?何の?)を兼ねて読み解いていきましょう。
まずは講演の記録を見てみましょう。

ジェーン・アダムス『作業療法に関する講演』の議事録(1919年)

アダムズ氏です。続いて、ジェーン・アダムスが次のように語りました:

30年ほど前、私たちが初めてハルハウスに住むようになったとき、私はこの家(ハルハウス)にやってくる、ほんの少し奇妙な人たちの多さに最も驚き、心を痛めました。このような大きな工業地帯に、傷ついたり怪我をしたり、憂鬱になるまで青くなる機会が数多くあった人たち、あるいは人生における大きな失敗をしたのであろう人たちがたくさんいました。そして当時、(そのような人たちが)このような地域に住むようになっていたとは思いもよりませんでした。この街に、これほど多くのケース(状況、事例)があり、これほど多くの人々がいるとは思いもよりませんでした。

私は、将来を見据えて新しくやってきた移住者たちの貧しさよりも、そのことに心を痛めていたように思います。彼らの中には手を差し伸べることができる何かがあるようで、私たちは彼らにあれこれと助言するのですが、あなたは心の中で彼らが優れた人(有能な人)であることを知っていたのです。

私は、あなたが彼らに与えたかった支援の本質を知っています。そして、シカゴで精神衛生協会が発足して何年も経ったとき--私たちはここに30年います--、この協会は8~10年の歴史があり、古いメンバーの中には、そのうちのラスロップ氏や最初の理事会にいた残りの1~2人がおり、この協会ほど近隣のためになるものはないと思っていました。事務所がここであろうとダウンタウンであろうと、私たちはすでに喜んで人々を送り込んでいましたし、彼らはいつも喜んで困っている人々を助けていました。ちょうど何年も前に市民学校が、当時は介添人(Attendant)と呼んでいた人たちのための夏季コースを設けていましたが、作業的な機能が加わったとき、彼らは精神病院での看護師に発展し、異なるコースを作っていました。道端に倒れていた人たちが、このような素晴らしいケアを受けて、再び自己表現ができるようになり、自分が世の中で役に立っているという確信が持てるようになるというのは、新しい時代の幕開けと言っていいように思います。もちろん、それは偉大な業績であり、進歩的な慈善事業が行うことです。悲嘆に満ちた人々から始まり、ニーズを持つ男女へと進み、現状を把握し、そのために何ができるかを考えるのです。

これは、多くの意味で、博愛主義が達成しようとした決定的な言葉の一つです。作業を通じて、また心と魂のプロセスを通じて、自尊心と自己表現を刺激することで、彼らに奉仕するのです。

この講演を読み解くと…

訳は、正確ではないかもしれません。その上で読み解いていきます。

第1パラグラフは、ハルハウスを設立した時の、シカゴの状況を語っている場面だと考えられます。当時のアメリカは急激な産業革命により、工業化が進む中で、劣悪な労働環境、それに伴う不健康状態の人の増加(=身体障害や精神障害を有する人の増加)が問題となっていました。ちょっと問題になっているという程度ではなかったということですね。

実は、急激な工業化は、大量生産による消費社会、大衆文化社会の到来に繋がっていきます。物や経済の豊かさによる大衆文化の到来は、人々が「同質であること」を求める社会、多数派が少数派の人々を排除する社会へと変貌し、人々の間で対立や摩擦が増えたと言われています。また、手厚いサービスが増えていく中で、かつては普通であった、自分自身で考えて行動する、自分で作るという、本来の「経験」がしづらい社会への変貌でもあり、社会の病理(当時の現代病)として問題となっていました。そうした状況を踏まえて、シカゴには、身体や精神(心)に問題を抱えている人があまりにも多く居た、と捉えるのが適当かと思います(実際、世界最初の作業療法の教科書であるトレーシーの『Studies In Invalid Occupation』もちょっと読んでみると、「現代病のための作業による治療」という側面を書いてます)。

そして第2パラグラフでは、当時は経済発展の著しいアメリカへの移民が増えており、そうした人の問題もアダムズは支援していたのですが、その人たちのことよりも、身体や精神に問題を抱えている人たちをより心配していたということでしょう。そして、作業療法の源流を作った人々(専門職となる前から活動していた人たち、つまりスレイグルやトレーシー、バートンたちのことでしょう)は、そういう人たちを、病人ではなく、優れた人々(であると信じて)として支援してきたと語っているのだと思います。あなたというのは作業療法士で、作業療法士の働きを賞賛している部分ですね。(ここは、普通に読めばわかるかも)

第3パラグラフは、作業療法の本質をアダムズなりに語ろうとしている部分ですね。精神衛生協会は、デューイやジェームズの親友であり、『作業療法の哲学』やジェイムズの心理学の影響による習慣訓練、スレイグルやトレーシーに影響を与えたことで有名なアドルフ・マイヤーが設立した組織です。そこには、ジュリア・ラスロップが所属していました。ここでの市民学校とは、おそらく、シカゴ市民慈善学校のことだと考えられ、ラスロップは、マイヤーと親交が深く、またハルハウスだけでなく、シカゴ市民慈善学校でも、アダムズやデューイと一緒に活動します。(ラスロップは、Arts & Crafts運動のシカゴ協会と協力したことも、以前書きました。)

シカゴ市民慈善学校の夏季コースでは、ラスロップたちが、「癒しとレクリエーションの作業」の特別コースを、看護師や病院の助手を対象に指導しました。このコースの方法論は当時としては非常に斬新で、学生は理論的な読み物を通して学び、トレーニングを受け、さらに臨床的な経験も積むことができました。また、作業によって筋肉と心がどのように連動するかを教えようとし、それはゲームや演習を通じて教えられたとのことです。マイヤーもこのコースを支援し、スレイグルがこのコースを受講していました。そして、治療として作業(Occupation)を使うということが広がっていきました(作業療法の哲学的基盤がプラグマティズムやデューイの哲学であると考えられる所以です)。ここでの、夏季コースに作業的な機能が加わったというのは、「癒しとレクリエーションの作業」の特別コースだった考えられ、そのコースを受けた人は、精神科の看護師になったということでしょう。(ちなみにトレーシーの『Studies In Invalid Occupation』もA Manual for Nurses and Attendants となっていて、看護師と介添人のための本となっていて、共通しています。もしかしたら、特別コースの教科書の一つだった可能性もあるかもですね。実際にはわかりませんが…。)

そして、その作業(Occupation;Doing)による治療の効果とは、自己表現ができるようになった(Becoming)ということ、社会での役割(Role;Being)や所属感(Belonging)を得たことだということでしょうか。( )は現代の作業療法や作業科学での個人的解釈が入ってるので、深読みしすぎかもですが。ただ、作業療法という治療法は、新しい時代の幕開けであり、偉大な業績だと讃えてくれているわけですね(1919年当時は、まだ20世紀の前半でしたからね)。そして、作業療法とは、Cl(困っている人々)が中心であり、そうした人々のためのものであることも明言してます。いやもしかしたら作業療法は、作業行動理論から、様々な理論、作業科学へと発展していったのではなく、ようやく現代になって、デューイやアダムズ、トレーシー、スレイグルらが設計した作業療法の可能性を再確認または理解できるようになっただけなのかもしれません(深読みしすぎの可能性あり)。

そして最後の第4パラグラフは、結びの言葉です。作業療法とは極めて博愛主義に根ざしたもの(アダムズは対立を認めない人でもありましたね)であるとしています。ちなみに博愛主義とは、人類への愛に基づいて、Well-beingを改善することを目的にした活動(慈善活動)などを指します。ある意味では、作業療法とは、特定の人のものではなく、「人類全員のもの」とも考えることもできるかもしれません。

そして、最後が重要です。アダムズは「作業を通して」と書いてますね。原文は、
This ministry to them through their own occupation, and through the processes of mind and soul stimulate self-respect and self-expression.となってます。  作業(Occupation=人間の経験)を通して、自身で考えて、自己表現を行う機会を作り、自尊心を取り戻すことこそが、作業療法の本質だとアダムズは考えていたということではないでしょうか。

最後に

アダムズの作業療法に関する講演の内容はいかがだったでしょうか?自分の深読みしすぎな解釈が入っているかもなので、是非、自身でも読んで解釈してみてください。ただ、前回までの復習と付け加えにはなったと思います。
アダムズの講演が面白くて勢いで書いてしまいましたが、これが、様々な職場で、病院などの医療機関、地域での医療機関や施設、様々な組織で、自身のクライエントのために、一生懸命、OCP、OFP、OBPに取り組んでいる人々へのエールになれば幸いです。
アダムズの講演の原文は、誰でも見れるので、興味がある方は参考文献のリンク先へ是非。そういえば、大学院生時代の友人に、「作業療法、アダムズ」とググると、自分のnoteが一番上に来るよ、と言われ、その時は確かになっていたので、びっくりしました。色々調べると、作業療法とデューイ、アダムズの関係の研究も行われているようで、個人的にはすごく楽しみです。

ここまで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
これまでの続きは、気長にお待ちください。

参考文献

1)Morrison R. Pragmatist Epistemology and Jane Addams: Fundamental Concepts for the Social Paradigm of Occupational Therapy. Occup Ther Int. 2016 Dec;23(4):295-304. doi: 10.1002/oti.1430. Epub 2016 Jun 1. PMID: 27245105.
2)Morrison, R. The contributions of Jane Addams on the development of occupational therapy. History of Science and Technology, 12(2), 2022,262-278.
3)Andersen LT,Reed K:The History of Occupational Therapy: The First Century, Slack Incorporated, 2017.
4)Jane Addams, "Address on occupational therapy," Proceedings (1919), pp. 39-41.(https://digital.janeaddams.ramapo.edu/items/show/10681
5)谷川嘉浩;『信仰と創造力の哲学 ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』,勁草書房,2021年
6)Seigfried, C. H. (1999). Socializing Democracy: Jane Addams and John Dewey. Philosophy of the Social Sciences, 29(2), 207–230.





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