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②町田そのこ『コンビニ兄弟』~パート先の店長をピクシブで漫画にする~


1.あらすじ

紹介2冊目は『コンビニ兄弟 ーテンダネス門司港こがね村店ー』です。福岡の門司港にあるコンビニの店員やお客さんの目線で語られる連作短編集です。

九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくるのだから……。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。

雇われ店長の志波さんは、ひたすら「フェロモンがすごい」と描写されています。絶妙な顔のアンバランスさ(大きさの違う目、肉感的すぎる唇)+やらわかな表情の変化が色気の原因であると、パートの光莉さんは分析しています。連作短編のうち、一話目と六話目は光莉さん視点です。高校生の息子を持つ彼女のキャラクターが、また面白いんですよね。

2.「ピクシブが生んだ魔物」

着眼点が変だと言われそうですが、私が「この話面白いぞ!」と確信したのが以下の場面です。

パソコン画面では、ピクシブの漫画ランキングが開かれている。三位につける『フェロ店長の不埒日記』を光莉は指でなぞって、もう一度くふふと笑う。まさか、私の描いた漫画がこんなに人気が出るなんて。夢みたい。

『コンビニ兄弟』p.39

光莉さんは、志波店長のことを漫画にしてネットで公開しています(本人許可済み)。ピクシブに上げているというところがリアルで好きです。

光莉さんの様子は、息子の恒星からはこのように語られています。

光莉の趣味は『マンガ』だ。読むことも、描くことも好きだ。本人は描くことが好きなのだと言うが、そこに大した差はない。お気に入りのマンガを読んでいる時の光莉は、息子の目から見て情けなくなるくらい『おかしい』のだ。マンガを読むだけでどうして「すばら……」だの、「ありがとうございます」だのうわ言のような声が出るのだ。無言で読んでいるかと思えば、目に涙をいっぱい溜めていたりもする。そして読後は「やる気きた!!」と叫んでざかざかと何かを描き出すので、どちらかと言えば読むと描くはセットだ。

p.238

ここからは少し余談です。漫画ライフを満喫する光莉さんの場面を読みながら、私はアイドルグループ・HiHi Jetsの猪狩蒼弥くんが「ピクシブが生んだ魔物」としてバズっていたことを思い出しました。ライブ配信中に猪狩くんのスマホの画面が移り、ピクシブのアプリを入れていたことが発覚したそうです。

過去に彼が書いたメッセージが取り上げられ、「ピクシブ見てるならこうなってもしょうがない」「ピクシブが生んだ魔物」といろいろ言われていました。私はこの件のバズで猪狩くんを、ひいてはHiHi Jetsを知りました(パフォーマンスもちゃんと見ました!猪狩くんのラップすごい)。

小説内にピクシブが出てきて猪狩くんのことを思い出すのはファンの方から怒られそうですね。ごめんなさい……!

でも、ピクシブってオタクのあぶり出し装置みたいなところありません??

3.ひよっこ的感想

性格も年齢もバラバラのキャラクターたちが、コンビニを通じて関わっていくところがとても面白かったです。コンビニはあらゆる人の拠り所だなと感じました。あと第三話に出てくるコンビニスイーツが本当においしそうでした。さつまいもシュークリームいいな~。

舞台となっている門司港も、調べてみたらとっても素敵なところでした。異国感ある建物と、きれいな海と、魅力的な飲食店と――。
作中、「終の棲家」として名古屋から引っ越してきた定年の夫婦が登場するのですが納得。確かにここに住むのは憧れます!

変なキャラクターも多いのに、なぜか皆身近で愛おしく思えてきます。シリーズ化しているようなので二巻目以降も読んでみます。


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