【第27話】現在へ。そしてまた、あの輝かしい日々へ。
ふと、テレビをみていたら、このコロナ禍で出産を控えているという、夫婦がインタビューを受けている映像が流れた。
病院を変更せざるを得なくなり、里帰り出産も出来なくなったそうだ。不安を抱えている様子が画面越しに伝わってくる。
それを見ていたら、自分の時のことを鮮明に思い出した。
「あの頃は、良かったなあ……」自然と、独り言を呟いていた。それが聞こえたのか、次男がキャーキャーと騒ぎ始めた。こうなると大変、自分の自由は一切なくなってしまって、テレビの中で不安を語る夫婦の言葉も、耳には届かなくなった。
28歳で婚活を始めた私は、29歳で無事に妊娠を果たした。順番が逆になってしまったけれど、ちゃんと入籍、結婚式も済ませた。
婚活を始めるキッカケになったミキは、今、どうしているだろう。
そして、婚活について何度もお世話になりまくったアヤミさんは、元気かな。
2度目の緊急事態宣言が出され、外出を自粛しろと騒ぐ政府に嫌気がさすが、小さい子ども二人、しかも少し問題のある子どもを抱えての外出は骨が折れるから、まあ、私にとっては朗報と言えなくもない、緊急事態宣言。
我が子をあやしながら、また少し、過去の話を語らせてもらいますか。
✳︎
アヤミさんと一緒に、泣きながら生まれて初めての妊娠を喜んだ。一人じゃきっと、こんなふうに心の底からこみ上げてくる感情を、躊躇なく吐き出すことはできなかったと思う。
アヤミさんには、感謝してもしきれない。恩人だ。
「うっく、ひっく。すみません、大の大人が号泣してしまって」
「いやー、ここは、泣いていいと思うし、わたしももらい泣きしちゃったよ。素敵な涙を流させてくれてありがとう!」
つくづく、良い人だな、アヤミさん。余裕に、慈悲に、溢れている。
「で、森岡さんには?どうやって報告するのかな?」
「……あ、そっか、全然考えてなかったです」
「ありゃあ〜。じゃあ、結果も出たことだし、ご飯でも食べながら作戦会議する?」
「はい!あー、確かに、泣いたら急にお腹空いてきちゃいました」
ケータリングの料理はとても美味しくて、自宅とは思えない環境だ。思わずワインでも開けたくなったけど、妊娠していることがわかった今、もうお酒は飲めない。
「今、うっかりワイン飲みたいって思っちゃいました笑」
「まじかー!わたしはお酒、弱めだから自主的に飲むことは少ないけど、ハルナちゃん、好きっぽいもんね。我慢、がんばれー」
「がんばりますっ!!!」
そんな雑談を交わし、森岡さんには今ここで、電話をしてみる……という結論に至った。仕事中だったら出られないだろうけど、なんとなく、この時間なら大丈夫な予感がした。
「じゃあ、かけます。出てくれるといいなあ……」
プルルルル……受話器越しに流れる電子音。いつもとは音色が違う気がした。焦燥感があるように錯覚した。でてくれ、森岡さん!!
「はい、もしもし。ハルナちゃん、どうした?」
「あ!あのさ、今って大丈夫?」
「うん、ちょうど仕事が終わって、帰る準備してたところ。もしかして、結構重要な話?」
「うん……。わかる?実はさ、妊娠検査薬、使ったんだよね」
「おお!それで?結果は……?」
「……驚かないでね?陽性だった。妊娠、してた」
「……おおお!!!そうか。そうか〜。まじかー。俺、パパになるってこと?」
「うん。入籍や、結婚式と、順番が逆になっちゃったけど、それでもいい?」
「もちろんだよ!!これから忙しくなるだろうけど、一緒に頑張ろうね」
「うわーん。ありがとう、森岡さん。
でね、実は今、街コンで一緒だったアヤミさんがうちに来てくれてるの。ちょっと話す?うちらを繋いでくれた、私にとっては女神みたいな人!」
それを聞いていたアヤミさんは、え!?と、驚いた顔をしていたけど、どうしても、今ここで森岡さんと話してほしかった。
スピーカーモードにして、強引にスマホを渡した。
「あっ!お久しぶりです。アヤミです。婚約や、ご懐妊、おめでとうございます」
「アヤミさん!こちらこそ、お久しぶりです。いやあ、まさか、こんなことになるなんて。僕からも、アヤミさんには感謝しかありません」
「そんな……とんでもないです。ハルナちゃんも、森岡さんも、素敵な人だから、これから幸せな家庭を築いてください。月並みなことしか言えなくてごめんなさいっ」
「私からも、改めて、アヤミさん、ありがとうございます!」
「ああ、なんか、どうしたらいいかわかんないけど、とにかく、おめでとう!!じゃあ、あとはまた二人で話して?」
「いや、もう、とりあえずは電話は終わりでいいです!ね、森岡さんも帰る途中でしょ?」
「そうだね、また後日、会って今後のこととか、話そう。じゃあ、アヤミさん。これからも会う機会とかあると思うので、ハルナちゃん共々、末長くよろしくお願いします」
「こちらこそですー!!では……お疲れ様です」
電話を切って、自然と笑い合った。アヤミさん、本当にありがとうございます。
そして、その後は彼女の近状などを聞きながら、食事の続きをした。
「アヤミさんも、色々あったんですねー……にしてもすごいな、めちゃくちゃ、モテますよね?」
「これって、モテっていうのかな?単に、ヤレる女って思われてるだけじゃないのかなあ?」
「いやいや。ヒロ君から結婚を考えたって言われたんですよね!?あんな若いイケメンに。まず、そんな経験、普通の女子ならしませんよ」
「でも、コウ君は違うじゃん?まさに、ヤリたいだけって感じたけど……」
「いやいや!ヤリたいだけの女のために、職場で悪者になったり、高い店予約したり、BMW借りたりしないでしょ!あのレベルのイケメンなら、女なんて腐る程、寄ってくるだろうし」
「そうなのかなあ〜?わたし、そういうの、ホントよくわかんないんだよね。でもハルナちゃんがそう言ってくれるなら、少し自信持てるよ!ありがとう」
そう言うと、ゆるふわとした笑顔で、豆腐ハンバーグを頬張りながら「美味しい〜♡」と声を漏らしていた。
きっと、アヤミさんのこの天然で飾らなくて、優しくて素直だけど、ときにずば抜けて直感が鋭いところ。人間力の高さが、人を魅了するのだろうなと思った。
「あ、でも、ヒロ君の子どもと、私の子って、同い年になるのか……」
「だねー。それもあって、ハルナちゃんからの電話で、すぐに妊娠かな?と思ったの」
「なるほど〜。アヤミさんの事情も考えずに、ほんとにすみませんでした……」
「ぜんっぜん、気にしないで笑。ヒロ君とはちゃんとお別れできたし、今回の沖縄で、いろいろ吹っ切ってこれたから」
話は尽きず、その後はアヤミさんに結婚式のことなどを相談した。
「えっとねー、わたしのときは、夫の親戚や会社関係の人が多くてね。両家のゲストのバランスとか、難しいなと思ったよ」
「会社……にも、伝えないとですもんね。ああ、タイミング迷うなあ」
「でも、何事も早め早めをお勧めするよ!日取りとかドレスとか、どんどん埋まってって焦ったのを覚えてるな」
「あ、それ、私の友達も言ってました。最初に話した、同級生のミキって覚えてます?あの子もGWに式するみたいで」
「ああ、覚えてるよ!そうなんだねえ、みんな、楽しそうでいいなあ♡」
結局、旅の帰りのアヤミさんを、終電近くまで拘束してしまった。申し訳ない気持ちとともに、うちを気に入ってくれたらしく、くつろいでくれる彼女の姿を見送るのが名残惜しかった。
また、駅まで送って、
「では、今日は本当にありがとうございました!帰り、気をつけて」
「とんでもなーい!わたしは、めっちゃ楽しかったよお。ご馳走様でした。また、ぜひランチとか誘ってね」
「間違いなく誘うので笑。なんなら、森岡さんも呼びたいくらいです」
「えー??恥ずかしいけど、それもありかもね。じゃあ、またね!」
そう言い残して、改札をくぐり抜けた彼女は、階段を降りるときに振り返って、無邪気な笑顔で手を振ってくれた。
連載はマガジンにまとめてあります。
https://note.com/virgo2020/m/mb26b6eec578a