エディターコース「書く人あれば読む人あり」~出版企画とは~
前回のこの「書く人あれば読む人あり」では、ちょうど前日に開いた勉強会「電子出版を考える」をレポートした。
Kindleで『ヤギと家族になる』を出したばかりの菊地早秋さんが、その勉強会の締めくくりに言われたひとこと、
はとても重く響いた。
そこを考えず出せば、単なる自己満足に終わりかねないということだ。
別に自己満足が悪いと言っているわけではなくて。
逆にいえば、単なる自己満足で出してしまえるほど費用がかからないし、誰から反対されることもないということ。
ちょっと買い物行ってくる、くらいの気持ちで出せてしまう。
そのせいか、Kindleを覗いてみれば玉石混淆、いや石のほうが圧倒的に多いだろうという品揃えになっている。
そもそもインターネット自体がフェイク情報にまみれ、有象無象の集合体であることはもうよく知られた事実だし。
気軽に出せるからこそ、早秋さんは「なぜ自分は出版したいのかをじっくり考え」なさいと強調するのだ。
せっかく世に出すのであれば、そこをしっかり考えましょうと。
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電子出版でなければどうだろうか。
ここまで電子出版が広まる前は、いわゆる自費出版と呼ばれる形態が素人の間では一般的だった。
自費出版といっても紙を折っただけのパンフのようなものからきちんと製本された本格的なものまでその形態はピンキリだ。
しかしいずれも紙に印刷するところは共通しており、それなりにコストのかかる話になってくる。
だから、ちょっと買い物行ってくる、では出せない。
そうだな、ちょっと商談まとめてくる、くらいの準備と決意が必要か。
とはいえ、自分にそれらの心構えができさえすれば、基本的には出せる。
誰も、おもしろくないからやめろとか、売れそうにないからやめろとは言わないのだ。
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さらに、より本格的には出版社(版元)から出す商業出版。
いわゆる書籍であり、流通の波に乗って取次(卸)を通り書店に並ぶ。
自費出版であれば印刷代、製本代、販促費など出版にかかる経費はすべて自費となるが、商業出版ではそれらをすべて出版社が出す。
著者からすれば、これは願ってもないありがたい話だ。
今ちょうどNHKの朝ドラ「らんまん」で、主人公の万太郎が植物図鑑を出したいのにどの版元からも相手にされず、すべて自費で準備して借金まみれという展開になっているが、まさに自費出版なわけだ。
なぜ版元は万太郎を相手にしないのか。
それはもちろん儲からないと踏んでいるからだ。
植物学など根づいていない明治、大正の日本では、植物図鑑を出そうなどという発想は突飛すぎて、誰もついてこれていない。
今それを出す必然、社会的意義、売れる算段。
それらが揃ってはじめて商業出版が動き出すのだ。
大作ができたぞ!と出版社に持ち込んでもけんもほろろに追い返されるのは、出版社が必要とする要件を満たしていないからだ。
出版社では、編集部がこんな本を作りたい、営業部がそんな本は売れないと喧喧諤諤の火花を散らす。
いわゆる出版企画を巡る編集会議というものだ。
企画が日の目を見ずにボツになることなんてザラ。
出したいと思ってすぐ出せる電子出版や、お金の工面さえなんとかなれば出せる自費出版とはそこが大きく違う。
いかに出版企画が大切なものであるかお分かりいただけただろうか。
冒頭に立ち返って見れば、早秋さんの「なぜ自分は出版したいのか」という問いかけは電子出版ならではの心構えなのではなく、自費出版にも商業出版にも通じる最も重要な基本なのである。
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今回は無料で読める部分にこれでもかというほど書いた。
今後、電子出版を考える方々にはまず、「なぜ自分は出版したいのか」を大切にしてほしいと思ったから。
ちなみにここから先、有料部分には、僕が出版社に在籍した頃に提出した出版企画書を2つばかり置いておこう。
印税率など一部著者に迷惑がかかりかねない部分は消しているが、概ねオープンにしている。
この企画書を持って社内の企画選択会議、商品化会議に臨んだのだ。
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