繊細な京の町を〈体育会系シリーズ〉が支えている
大学時代、40種ほどのバイトをしたと以前書いた。
夜通し働いた〈深夜シリーズ〉、厳しさと華やかさの〈料理シリーズ〉は先日あげたが、今日は最終回の〈体育会系シリーズ〉。
西陣織の展示会場設営
大学入って初めてのバイトは、西陣織の展示会場設営だった。
呉服には畳がつきものなのだろう、畳を背負って階段を上り下り。
畳がこれほどまでに重いものとはこの時初めて知った。
今なら1枚運んだだけで音を上げるに違いない。
ヘトヘトになった頃、階段に茶封筒を見つける。
ん?と拾いあげると、中には1万円ほど。
その後そのお金をどうしたかはまるで覚えていない。
さらにいえば、この仕事、畳を運んだ以外に何をしたかも覚えていない。
歳暮の配達
〈深夜シリーズ〉で書いた年賀状仕分けのほか、歳暮の配達もやった。
赤チャリの後ろに括りつけられた大きなコンテナに、歳暮がどっさり。
これを順に配って回るなんて、ただ楽しいだけの仕事…のはずだった。
受け持ちは超観光スポット、二寧坂、三年坂あたり。
重いペダルをなんとか漕ぎ、ヨロヨロと坂を登っていく。
飛び出した観光客に接触しそうになり、とっさに坂の途中で自転車から飛び降りた瞬間!
明らかに後ろが重いチャリは、ウイリー状態に。
コンテナから歳暮が飛び出し、二寧坂にぶちまけた。
複数の観光客が駆け寄ってチャリを起こし、歳暮を拾ってコンテナに詰めてくれ、嬉しいやら恥ずかしいやら。
気を取りなおし、次の品は…と宛先を見てみたら、なんと西村京太郎!
大きな家の門柱のピンポンを押すと、ほどなくご本人が登場。
子供の頃から氏のトラベルミステリーを読みあさっていたが、まさか直接会えるとは。
ありがたく受領印を頂戴し、ふと隣の門柱を見ると、え!山村美紗!
今となっては有名な話だが、当時、西村京太郎と山村美紗は隣人だった。
スーパーの品出し
山科の小さなスーパーで品出しのバイトをした。
まずバックヤードに納品された牛乳を売場に出すことから。
1Lの牛乳が1ケースに12本、これを台車に5ケースほど積んで店の方へ…
うわぁぁぁぁ!
一歩出たところで段差につんのめり、台車からケースが吹っ飛ぶ。
地面に叩きつけられた大量の牛乳の紙パックがあんぐりと口を開く。
あたり一面、白い海。
段差は後ろ向きになって慎重に、などというのは後に知ること。
この時はまだ、常に前向きな人生を送っていたのだ。
あまりの申し訳なさで肩身の狭い一日を送る。
ただ、12Lの重みがこの手に残り、その後の人生でいろんな物を持っては12kgあるかどうか分かるようになったのが唯一の収穫か。
***
「物を運ぶこと」の大変さを知る機会だったこれらのバイトを通し、図らずも「物を落とすこと」の意味の大きさも知ることになった。
繊細な京の町を〈体育会系シリーズ〉が支えていることを知るには十分すぎる経験ばかりだ。
(2021/10/26記)