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これは日本の香りの伝統なのだ

「淡路島は日本の香りのふるさとです」

毎朝、島へ向かう高速バスの車中で聞く広告のナレーションだ。
4kmもある明石海峡大橋を神戸側から3kmほど進んだ海上で、ある線香メーカーの広告が流れ出すのだ。

『日本書紀』にはこうある。

推古三年夏四月、沈水、漂着於淡路嶋、其大一圍。嶋人、不知沈水、以交薪焼於竈。其烟氣遠薫、則異以献之。
――595年4月、大きな沈水が淡路島に漂着。島民がそれと知らずに薪とともにかまどで焼いたところ遠くまで煙が薫り、驚いて朝廷に献上。

沈水とは芳香を放つ香木の一種で、伽羅や白檀と並んで珍重される。
1400年もの昔、日本に初めて香木が流れ着いたのが淡路島だったのだ。

香木を原料とする線香は室町時代に伝来し、江戸末期には淡路にも製法が伝わる。
乾燥が重要な線香にとって、海に面し西風が強い淡路は適地だったようだ。
高品質の線香を生み出す淡路が一大産地となり、今では全国シェアの70%を占めて日本一。

線香作りの最終工程を見せてもらった。

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いとも簡単に捌き、束ねていく手技に目を奪われる。

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平たく伸ばすだけのお香作りなら体験スポットが淡路にはいくつかある。
そのうちの一つが〈パルシェ〉だ。

温泉や宿泊施設も揃う、香りのテーマパークだ。
ここで香水やキャンドル、石鹸、そしてお香作りの体験ができる。

体験を申し込むと、一揃えがワンパックで出てきてお手軽。

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お香は白檀と椨(タブ)粉を混ぜたベースに香料を入れて作る。
﨓とはクスノキ科の樹のことで、その樹皮を粉にしたものが椨粉だ。

中学時代の理科の実験以来の懐かしい乳鉢と乳棒でグリグリ。

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香料はラベンダーをチョイス。
着色料が入っているのだろう、かなりどぎつい紫になった。
途中からどんどん重くなってきて、腕がかなりヘトヘトになる。

よく混ざったら机の上に広げ、麺棒で薄く伸ばす。
このとき薄いアルミのバーを両脇に置くので、お香はその厚み以上に薄くなることはなく、誰でもきれいに伸ばすことができる。

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クッキーの型がいくつも用意されているので、お好みでくり抜いていく。
ウサギ、クマ、ハート、魚、ハト、星、カエデ、竹、松、イチョウ…

できあがり。

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といってもここから数日乾燥させなければならないが。

体験時間およそ40分、とても楽しかった。
日本の香りのふるさとで、その歴史に少し触れられたような気がする。

後日、家で火をつけてみたら、ラベンダーの香りがモクモクと。
でもこれめっちゃ煙が出るやん…

報知器よ、ゆめ無粋な警報を鳴らそうなどとは考えるなかれ。
これは日本の香りの伝統なのだ。

(2022/2/15記)

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