再放送のありがたみ
再放送に救われたことが何度もある。
楽しみにしていたのに所用ができて見逃した番組、放送が終わってからよかったよと聞いたドラマの1クールまるごと。
再放送は、決められた時刻に観なければいけない緊張感がある。
テレビ局が決めた時刻はもう絶対なのだ。
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中学生の頃、17時から毎日放送(TBS系)で〈ドラマアンコール〉という枠が設けられ、数々の連続ドラマの再放送をやっていた。
ドラマといえば…といわれたTBS黄金期の話だ。
中3にもなると部活も終わり、夕方が暇になる。
帰宅してたまたまテレビをつけたら『3年B組金八先生』をやっていた。
『金八先生』は当時誰もが観ていただろう有名ドラマだ。
しかし、僕の家は父がチャンネル権を完全に掌握しビデオデッキもなかったから、『金八先生』など話題のドラマは観たくても観られなかった。
それが17時から観られる!
しかも毎日放送されるから、小気味よいテンポで話が進む!
で、ハマった。
僕は学校が終わると真っ先に校門をダッシュで駆け抜け、電車に乗り込み、家に帰った。
すべては17時に間に合わせるために。
当時「心臓破りの坂」と皆が呼ぶ急坂の上に住んでいたから、家に着いたときには冬でも大汗をかき、息も絶え絶えだった。
学校では僕は受験に向けて猛勉強を始めたと思われていたらしい。
『金八先生』が終わると、次は『2年B組仙八先生』だ。
そして『金曜日の妻たちへ』『高校聖夫婦』『積木くずし』『スクール・ウォーズ』『不良少女とよばれて』『毎度おさわがせします』『うちの子にかぎって』『男女7人夏物語』『パパはニュースキャスター』『ママはアイドル!』…
誰よりもドラマを知らなかった少年は、わずか半年あまりで誰よりもドラマに詳しい少年に生まれ変わっていた。
『スチュワーデス物語』の再放送を毎日楽しみに観ていた夏休み。
最終回の前日、日航ジャンボ機の墜落事故があった。
ドラマは日航が舞台だったから、翌日の最終回の放送はなくなった。
空前の大事故の重みを考えれば当然ということは僕にも分かる。
だが、最終回だけ観られないドラマほど腑抜けなものもない。
僕は事故から1か月ほど経ったある日、テレビ局に往復はがきを送り、最終回の放送を懇願した。
今ならメールでピッと送るのだろうが、当時の世界にはまだない。
電話ならご意見承りますと言われて終わるだろうから、考える猶予をもたせるため往復はがきにしたのだ。
さらにひと月ほど経ち、果たして返信があった。
「最終回を楽しみにされていたお客様のため、○月△日に放送することにいたします」
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最近は見逃し配信があるから、再放送のありがたみは以前ほどではない。
でも決められた時刻に必ずテレビの前に座らなければならないあの緊張感、見終えたあとの達成感は味わえない。
(2023/7/15記)