もうしばらくナイショにしておくことにしよう
運転免許は大学1回生の時に取った。
大学時代、京都に下宿していたから、教習所も京都。
市内にはいくつかの教習所があるが、それぞれに特徴が囁かれていた。
めちゃくちゃ厳しいところ、セクハラが絶えないところ、路上は山道ばかりのところ、卒業後の事故率がNo1のところ、簡単に卒業できるところ…
さて、どこを選んだか。
言わずもがなの、簡単に卒業できるところだ。
楽をするのが何よりイチバンと思っている大学生が、めちゃくちゃ厳しいところを自ら選ぶわけがない。
簡単に卒業できるってどういうこと?
つまりそれは技能的にいまいちであっても卒業できることを意味する。
当時の教習は4段階制だった。
第1段階で基礎、第2段階でクランクやS字、第3段階で無線と進み、修了検定に合格すれば晴れて仮免許取得、ようやく第4段階で路上だ。
2段階制の今とはかなり違う。
各段階をクリアして次の段階に進むには、みきわめと呼ばれる運転技能のチェックをパスしなければならない。
僕の選んだ教習所では、そこで多少ミスをしても先に進めるという。
みきわめの甘さに救われたと思うことは確かに何度かあって、無傷で第3段階まで終え、これぞここを選んだ意味!と喜んでいた。
が、その教習所の真骨頂は修了検定にあった。
修了検定で僕はとんでもない運転を披露し、教官に第3段階終えたというのに何やっとんや!とえらい見幕で怒られた。
…のに、結果はなんと合格。
教官が採点簿を苦い表情で見ながら、うちの校長がへんいちさんと同じ大学出ているから何点でも通すようにいわれている、と淡々と説明した。
へぇ、そうなん…っておーい!
ありがたくも恐ろしい取り計らいで仮免許を取得し、路上へ出ていった。
そして第4段階も終え、いよいよ迎えた最後の卒業検定。
最後くらい完璧な走りをと臨んだその日、なんとその周辺は祭だった。
検定コースには交通規制がかかり、道路中央を練り歩く祭礼の行列のすぐ横の車線を時速10kmほどで進む。
オートマではないから、最初から最後まで終始半クラだ。
歩道をはしゃいで走る子供たちに追い抜かれていく。
信号はすべて消灯され、警官の手旗に従って交差点を通過する。
えっと、そんな日は卒業検定の予約入れられへんようにしてくれてえぇねんけど、いやそうしとってほしいねんけど。
それまでに学んだ成果を何一つ試せないまま、僕は免許を手にした。
こんな話をすると誰も助手席に乗ってくれないので、もうしばらくナイショにしておくことにしよう。
(2022/5/22記)