家族全員を巻き込んだ、15年にも及ぶ壮絶な闘いだった
長男は小さい頃、重度の食物アレルギーかつアトピー体質だった。
赤ん坊の頃から、何か食べては顔中真っ赤にし、あちこち掻きむしるから全身ボロボロだった。
多くの食物に反応するから、大丈夫なものを突き止めるのも難しい。
夜は痒みが増して眠れず大泣きし、何もしてやれない僕やかみさんの苛立ちも最高潮だった。
名医がいると聞いた国立高知病院に、一も二もなく向かった。
特定されたアレルゲンは麦、卵、乳。
・麦:パン、洋菓子、麺、ルウもNG、醤油、味噌、穀物酢も危険
・卵:マヨネーズ、かまぼこもNG、親である鶏肉もNG
・乳:乳製品すべてNG、だからハムもNG、親である牛肉もNG
どれも加工原料として微量混入しただけでアウト。
感覚的には食べてよいものがない、絶望にも似た状況だった。
ニワトリはNGでも原種なら大丈夫だから、クリスマスはキジを取り寄せ。
魚介は比較的大丈夫だったが、養殖ものはNG。
何千年にもわたって人間が都合のよいように改良を加えてきた家畜や養殖がNGなのだ。
高知病院の売店では、ワニ、サメ、シカ、カンガルー、キジ、ダチョウなどの肉が売られていて、さながらジビエレストランのようだった。
薬で炎症を抑える対症的なステロイド療法ではなく、アレルゲンを一切口に入れず、成長して胃腸が強くなるのを待つ除去食療法を選択。
とにかく時間がかかるが、根本療法はこれしかない。
麦を除去するから、醤油、味噌、酢、油など基本調味料は高額なコメ製に。
穀粉類は正直おいしくないヒエ、アワ、キビ、タピオカなどに置き換える。
外食はほぼムリ。
食材が調理されてしまっているから、アレルゲンは確実に混入している。
家族は好きなものを注文するのに、長男だけ持参した代替食ではいたく傷つくのだ。
かろうじて焼肉屋だけは食材がそのまま出てくるから、長男も牛以外なら家族と同じように食事ができた。
根気よく除去食を続けること10年。
麦も卵も少量なら大丈夫となって、それらが原料として他の食品に入っているくらいなら何ら問題なくなり、食べられるものが飛躍的に増えた。
あと残すは乳のみ。
中学生になって数日間入院してのテストに挑んだ。
スポイトで1mL飲んで大丈夫なら翌日増やす、というのを3日間。
翌年は10mLから始め、3年目に50mL飲んだのを見て泣きそうになった。
赤ん坊の頃、ミルクを飲んだらすぐ口の周りをミミズ腫れにしていたあの長男が、ついに克服したのだ。
長男は今も卵や牛乳は自ら食べようとはしない。
でも、それらが目に見えない形で含まれた食品を知らずに口にしても命に関わることはないと証明されたことは、彼にとってとても大きなことなのだ。
親としてこれほど安堵できることはない。
家族全員を巻き込んだ、15年にも及ぶ壮絶な闘いだった。
変わった食材にずっとつきあってくれた長女と二男に心から感謝したい。
(2022/11/1記)
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