〈料理シリーズ〉の厳しさと華やかさは表裏一体
大学時代、40種ほどのバイトをしたと以前書いた。
夜通し働いた〈深夜シリーズ〉は先日あげたが、今日は〈料理シリーズ〉。
修学旅行生担当
上の記事でも触れたホテルの住み込み。
京都なので、担当するのは全国から毎日やってくる修学旅行生。
純朴な中学生が多く、かわいらしい。
毎晩、あとで送るのでいっしょに写ってくださいと女子が写真を撮ってくれるが、1枚も送られてきたためしがない。
裏は修羅場だった。
学Bやろ? はァ? 学A? そやったらそうと早よ言うとけや!
学A、学Bとは、修学旅行生用A定食(豪華)、B定食(貧相)のこと。
その日作るのが豪華なのか貧相なのか、聞いていたくせに忘れた板場の理不尽な怒りを浴びせられる。
といってその差はカニグラタンがつくかどうかくらい。
大広間にずらり並んだ座卓にひたすら配膳し、1時間後にはひたすらバケツに残飯をぶちまけていく。
空腹のハイエナは、いやバイトは、まったくの手つかずと見るや、天ぷらやメロンはバケツではなく胃袋にしまい込んだ。
皿洗いは、椀を30ほど重ねて抱え、上から順にスポンジで椀内をくるっと撫でながら、最後にそのまま手首のスナップをきかせて水槽に飛ばす。
1椀につきワンアクションで完結、椀アクション。
とても洗えているとは思えない。
深夜に仕事を終え、ホテル横の寮へ。
窓もなく酸素も薄いタコ部屋、一晩で体中が痒くなる。
20年ほど住みついていそうな他大学の上回生と2人で過ごす2段ベッド。
風貌はヤバいし、寝る前はエロ話ばかり聞かされ、挫けた。
1週間のバイト明けに場外馬券売場へ連れて行かれ、100円の初投資をしたが、ビギナーズラックは訪れなかった。
料亭の板場と仲居の狭間
秀吉とねねを祀る高台寺のほど近く。
板場の料理の仕上がり具合を仲居に伝える仕事。
下膳を見て、板場が仲居に激昂する。
くそ! こないようけ残しやがって! おい! お前まだ客が食うたはる最中に下げてきたやろ! そやろ! ワシの料理を客がこない残さはるはずあらへん! 客に頭下げてこいや!
数日働くつもりだったが、この日だけで辞めた。
南禅寺の豆腐田楽
南禅寺の塔頭の一つで僕は豆腐田楽を担当した。
水切りした木綿豆腐をやや細長く切って松葉串を打ち、軽く炙って味噌をちょんと載せて風流な皿に盛る。
豆腐といえばの南禅寺で、まさかバイトが
来月信州にスキー行く? いややっぱり北海道がえぇなー!
と話しながら調理しているとは、豆腐に雅を見る客は誰一人想像すまい。
老舗の鰻料理屋の下足番
このバイトについては以前詳しく書いたことがあるので、二度は書かない。
まかないは、まず主人が脚つき膳で魚・小鉢・汁・たくあん・ご飯を…
って二度でも三度でも書きたくなるほどまでに驚愕のヒエラルキー。
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〈料理シリーズ〉の厳しさと華やかさは表裏一体。
京の町はそうやって歴史を紡いできたのだろう。
(2021/10/20記)