罪悪感との闘い
月末の朝は「今月中に進捗の報告を」と言われたり、請求書を打ったりと往々にして余裕がないのだが、それでも私は「月に一本は必ず note を投稿する」という自分との約束を今年も終わりに近づいてきたというのに破ってしまうのは心苦しい。というわけで、頑張って書くことにする。
今朝、私はオットがこたつの上に置いていった読み止しの『ブルーピリオド⑬』になんとなく目を通し、そして一人盛大に落涙してしまった。久しぶりに気持ちが良いほど「泣き活」をしてしまったのだ。細かいことはネタバレになるので書かないが、主人公の八虎くんは「罪悪感」という言葉をテーマの作品を制作に格闘し、そして最後行き着いたところがこの言葉だった。
ああ、もうこれね。これだよ。
「正しい方を選べない自分に罪悪感を感じる」、これずっと私が苦しんでいたこと。じゃあ「正しい」って何なの、誰が決めるのよって?それは「マジョリティ側」だったり、「それを選んでも批判する人があまりいない方」だったりする。
私は長いこと、子育てでこの「正しさ」と戦い続けてきて、いつも正しい方を選べない自分に罪悪感を感じ続けてきた。つくばに移住して子育てをすると決めたときもそうだった。当時は東京や横浜の人たちから見たら、つくばなんて「どうやって東京に通勤するの?」と目を丸くして聞かれるような辺境の街だった。「普通は選ばない選択肢」を選んだことで、周りからは変わり者扱いされ続けたし、辛辣なことを言われるたびに私は罪悪感を感じた。何かこう、自分がいけないことをするような感覚。それは後ろめたさともいう。
長女が私立高校単願で進学を決めたときもそうだった。家族で散々話し合って納得して決めたことだったにも関わらず、「私はいけないことをしている」という罪悪感がずっとあった。それは、この茨城という地では、「普通は県立高校に行く」「私立高校は県立を落ちた子が行く場所であって、敢えて第一志望で行くところではない」という根強い言説が存在したからだ。私と夫は二人とも生まれも育ちも横浜で、そういう価値観自体が縁遠い人間だったにも関わらず、10年も住んでいるとローカルな価値観にあっという間に染め上げられてしまうものだ。日々募っていく後ろめたさに、私は不眠症になるほど悩まされた。
そういう意味では息子は、いい意味で後ろめたさも罪悪感も吹っ飛ばしてくれる存在ではあった。彼は3歳のときに自閉症スペクトラムと診断され、その瞬間から私はマジョリティ側の正しさを地に放って、彼にとって何が幸せかを真剣に考えなくてはならなくなった。芸術家肌の彼は普通科の高校への進学はほとんど眼中にないようで、周りの正しさなど彼にとってはどうでも良い話のようだ。今から芸術科高校受験を射程に入れて頑張っている。
娘のときには後ろめたさや罪悪感に苦しめられたのに、息子が「普通」の道を志していないことに対しては後ろめたさを感じない。これは一体何なのだろう。これこそ、『ブルーピリオド』の主人公が言った言葉そのものだ。
そう、これな。
私たちが求める正しさの定義なんて、そのときそのときで変わってしまうのだよ。自分の中ですら、これだけ正しさって変わってしまうのだよ。そして私たちは、その刹那的な正しさに怯えながら、そこから外れて後ろめたさを感じることがないように必死に生きている。これを子育てで実践してしまうと地獄だ。正しさなんて本当は存在しなくて、それは、自分が勝手に作り出している周囲の視線でしかない。まさしく、眼差しの地獄なのだ。
私はずーっと、この自分の中に内面化してしまった眼差しの地獄に苦しめられ、自分で勝手に正しさを設定し、そこから外れるたびに勝手に罪悪感を感じて苦しんでいた気がする。
そういえば先日、10年前に「なんでつくばなんてど田舎に引っ越しちゃうわけぇ?」と飲み会で笑いのネタにしていた方と久しぶりにお話しする機会があったのだけれど。その方が真剣な顔をしておっしゃったのだ。「コロナでみんなテレワークになっちゃってさ。移住する人増えてるよね。つくばってすっごい注目されてるでしょ。依弦ちゃんってさ、やっぱり先見の明がある人だよね」
思わず噴き出してしまった。
あの頃、普通は選ばない選択肢だと言われて、あんなに後ろめたさでいっぱいだったのに。いつの間にか「先見の明がある」と言われてしまったよ。そうか、10年経つと、世間の評価なんて一変してしまうのだな。一言でいって、本当にバカらしい。自分の選択を後ろめたく思って悩んだ時間がアホらしい。
最後に、『ブルーピリオド』の主人公のこの言葉を紹介しておこう。ずっと詰まらない罪悪感に苦しめられ続けた今の私に贈りたい。
そう、どこを見てるかで、感じ方が変わるんだよね。
内面化された人からの眼差しではなく
自分の眼差しをしっかりと意識して生きていかねばだ。
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