むらさき
今まで書いた物語をまとめてみました。
「とりあえず、お薬出しときますね。食後に一回、ちゃんとこれ全部飲んでくださいね」 昔、医者から言われた。でも、この忠告を一度も守ったことはない。必ず何錠か残ってしまう。そのたびに、よく分からない錠剤が増えていく。おそらく二度と服用されることなく。 夏休みの昼下がり。母がパートでいないので、家には、一日中ゴロゴロとしている兄と二人きりだった。この人は、ちゃんとバイトでもしているのだろうか。日光よりもブルーライトを浴びているナマケモノを横目に課題に取り組んでいると、声が飛ん
知らない世界に私がぽつんといる。これから見慣れていくのだろうかとそんなことを考えながら、新しく住む自分の部屋を色づけていく。今年から、大学生になり初めての一人暮らしが始まった。 大学が決まってからは、怒涛の展開だらけだ。通うためのお家探し、入学手続き、新生活に向けた必要なものの確保……。最初は全く信じられなかったけど、だんだんと次のステージが始まるのだなとそう感じた。 高校生活もどこかあっという間だった。気づけば卒業式で、それもどこかそっけなくてポンと追い出されたような気
「こんなはずじゃなかったんだけどな」 気づくとそう呟いていた。 好きなバンドの曲の歌詞にそうあったからだろうか。いや、おそらくそういうわけではないだろう。もっとなにか深い理由があるからだと思う。でもわからない。なんだか届きそうで届かないような、はるか上にあるわずかな光に手を伸ばしているような感覚。 そんなことを思いながら、下宿先へと辿り着く。微妙に暗い照明も、一年も経てば慣れたものである。このワンルームの部屋も、最初の方は確かに広くて嬉しかったが、今の自分には、広すぎ