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エチケットに宿るワイナリーの哲学

Vol.021
ワインを買うとき最初に手がかりになるのは、エチケットのデザインです。
飲む前のワインをエチケットだけで判断する、ということです。
 
ボトルに貼られたエチケットは、どんな色や形状なのか。絵柄はなにを意味しているのだろうか。ワイナリーやワインの名称を記した書体に、どんな思いをたくそうとしているのか。
エチケットには、実に多くの「意味」がふくまれています。
 
ワイン造りは、ブドウの栽培からはじまって、収穫、醸造、熟成、瓶詰めへと進行します。ワインのボトルがコンベアに乗って、流れ着いた最後のところでエチケットが貼られる。1本のワインが完成します。
 
ブドウが育った天候、醸造における奇跡、熟成でもたらされる恵みもふくんだものが、ワインの味わいです。化学に則った製造のプロセス以外にも、そんな偶然の賜物が驚くべき味に変わることがあります。
だからこそ、ワインは面白い。
 
ボトルに張ったエチケットは、いわばワイナリーのオーナーが、ワイン造りにかける哲学を可視化させた図像です。年号(ヴィンテージ)には、ワイン造りのすべての機微が詰めこまれている、と主は考えています。
 
だからこそ、ヴィーノサローネは、「イタリアワインの“本質”にであう」ために、エチケットの意味や物語も大事にします。現在、ヴィーノサローネで販売中のワイン3本のエチケットには、造り手の志が見事に宿っています。
過日、インスタグラムで紹介していますが、各ワインのエチケットにこめられたエピソードを、インポーターをとおして取材しました。
 
白ワインの革命を起こした、スキオペットのエチケット。

ヴィンテージ2019年

紋章を見てください。
左半分は、ウーディネの市章。右半分は、ゴリツィアの市章です。
ワイナリーは、ウーディネとゴリツィアの街に挟まれた場所にあります。
その位置のイメージから、重要なブドウ畑の地域
「コッリオ」と「コッリ・オリエンターリ」を結び付け、
両側にブドウの図柄をデザイン。厳格なエチケットに仕上がっています。
ワイナリーの玄関にも、この紋章が埋めこまれているそうです。
地色のイエローは、1918年まで当地を支配していたオーストリア、
ハプスブルク家のインペリアルカラーへのオマージュとして、
この“ハプスブルク・イエロー”を選んだそうです。
さりげなく気品があふれていますね。

「VinoSalone」インスタグラムより(若干修正)

②土着品種が育つテロワールの風景も見えてくる、カンテのエチケット。

ヴィンテージ2019年 

シンプルで洗練された白地のデザインは、透き通るワインのようです。
ワイナリーの名称の「KANTE」と、ヴィンテージ、ブドウ品種、
そしてワイナリーの所在地“プレポット-イタリア”を記しています。
エチケットの一番上にデザインしたのが、「カンテ」の発祥であり、
現在の本拠地でもあるカルソで受け継がれた伝統的な紋章です。
中央に花を置き、カルソの石灰岩大地を表したかのような、
らせん状に広がる図柄が、実に綺麗ですね。
カンテ一族は、1840年ごろからカルソでワインを造り続ける名門。
ミニマルなエチケットに、“寡黙な矜持”が漂っています。

「VinoSalone」インスタグラムより

③芸術的な絵柄にワインの複雑な味わいを表す、パラスコスのエチケット。

ヴィンテージ2015年 

ワイナリーは、ゴリツィアの街にほど近い、
サン・フロリアーノ村にあります。そのゴリツィア出身のアーティスト、
セルジオ・パウジさんが描いた絵でエチケットを飾ります。
アンフォラのなかに描いたテーマは、“自然と神秘”です。
ワインから感じられる“自然”と、想像を超えた発酵がもたらす “神秘”を
表現。大きくデザインした「π(パイ)」は、ギリシア語の「P」を意味し、パラスコスの頭文字を堂々と掲げています。
元々、オーナーのエヴァンジェロス・パラスコスさんは、ギリシアの出身。自然のサイクルとワイン造りを円に見立て、
自身もその一部にあるという思いをこめています。
なかなかドラマチックですね。

「VinoSalone」インスタグラムより

 気に入ったエチケットでワインを手に入れるのは、“ジャケ買い”の感覚かもしれません。第一印象にかけ、後日、情報の宝庫のエチケットをじっくりと読み解く。ワイン選びがいっそう楽しくなります。

次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。

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