恋に落ちる日〜プーランク
ドイツの歌曲は小娘だった私にとってドイツのロマンティシズムを紹介してくれた先生のような存在だと思う。ドイツ文学なんで読んだことなかった、そんな私はドイツ歌曲からドイツの文学、多分ドイツのロマン主義が一番色濃く込められている芸術分野に出会って、正直驚いた。惚れた腫れたの物語なら知っていたけれど、そこに流れる激流のような濃さと洗練と整然さ。このどう考えても同居したら喧嘩ばっかりしそうなものが、ちゃんとまとまってるわけ。どうなってるんだろう?って思ったもの。
長い文学作品や、文化の知識がないとちょっとわかりにくい詩なんかと違って、歌曲はメロディーが美しくてそれと詩との組み合わせが絶妙で、好きでよく聞いていた。そうすると当然のことながら他の言語でのオペラ作品ではない歌の作品にも興味が出てくる。そうして出会ったフランス歌曲。ピアノ作品も書いてる作曲家もいるからとっつきやすかったのもあると思うけれど。
その中にはプーランクもあって、彼のフルートソナタが先だったのか、歌曲が先だったのか今ではもう思い出せないけれど、お気に入りのソプラノ歌手のアルバムを飽きずに毎日聴いていた時期があって。
濃いロマンにはまだ馴れないひよっこだったせいか、それより洒脱なフランス歌曲はやんわり肌に馴染んだせいか、はたまた同時代の映像作家の作品(映画)が割と身近だったせいか、私がパリへ行き着いたのも、なんとなくそんなあれこれの積み重なりの結果だったのだとおもうけれど。(だけどフランス文学はあんまり好きじゃなくてね…何いってんだかさっぱりわかんないのよ。) そこで一番好きだったサンシュルピス教会。サクレクールは、私の心の墓場なので別格ね。しかもあそこは寺院だから、誰かのお墓になるんだか謎だしね。
旅行で最初に行ったのは単に偶然だったけれど、なぜか心惹かれてその後も何度も訪れたけれど、そこでプーランクの葬儀が執り行われたのはいまの今まで知らなかったので、ちょっと言葉を失ってしまった。
見えないくらいに細い糸が繋がって、急に目の前に全部が現れたような感じ。私が会員のあるアカデミーで、他の会員さんがプーランクのエディットピアフに寄せてを学んでらっしゃるのだけど、初めて聞いた時に「わぁ、綺麗なぁ」と思って、「これ、購入予定の楽譜リストに入れとこう」とマーク済み。先週注文した楽譜を引き取りに行った時にふと思いついて探してみると、楽譜があるじゃないですか!これは買っとかなきゃと持って帰ってきてそのままだったんだけど、それでまた思い出したのは、プーランクの何かの録音を聞いて、これはいつか弾きたいと思って楽譜をオンラインで探してファイルしてあったこと!ホロウィッツだと思ってたんだけどどうしても録音が見つからなくて、曲名で探したらルビンシュタインだった!それでもまだ弾いてみる時間が取れなくって、今日の講義中、「あ、エディットピアフ弾いてる人!」って思ったらもう試してみずにはいられない。そして初めて弾いて見て一目惚れし直した感じ。
もう一度弾かずにはいられなくて、その後他の曲はどんなだろうとすぐ前の曲を弾いて見て、さらに一目惚れ。こうなるともう講義はそっちのけ。やめられないのね、好きすぎて。結局時間が遅くなって、真夜中まで半時!にびっくりして諦めたんだけど。ちなみにこの2曲は、続きの作品としてまとめで弾くようにって注釈がしてあるのね。どうりで!って思ってしまうくらい2曲まとめて弾くといい感じなの。
もうね、あんまりに惚れちゃってて他のもの一旦中止してこれだけ仕上げちゃいたいくらい。初めて会って一目惚れして、また惚れて。2度でも3度でも落ちてしまいそうな感じね。それなのにプーランクは初めて出会ってからはや20年とちょっと。なんでこんなに長い間思い付かなかったんだろうって不思議なくらい。
プーランクはきっと「やっと思い出してくれたね」っていってるくれてる?それとも私の首を引っ掴んでわさわさ揺さぶって、いつまで待たせるんだ〜って叫んでたかな?
どうしても弾きたい作曲家ってもう出てこないかな?なんて思ってた私の浅はかさ。
フランスの作曲家ばかりで、プログラムを組んでみよう。
大トリはエディットピアフに捧げて。
何も知らなかった20代の最初に恋に落ちた20世紀の半分を駆け抜けた人に、もう一度恋に落ちた瞬間。今でも戦火の絶えない世の中だからね…
今度は私が演奏する番だね。
Poulenc plays Poulenc
https://youtu.be/X3IO41WZECM?si=I_L7RgwfLzkkEZWq