ソール・ライター*"写真は物の見方を教えてくれる。すべてのものが美しいということも"
渋谷ヒカリエホールで開催されている、写真家ソール・ライターの生誕100年記念展に行きました。
ソール・ライターは日本ではほとんど無名でしたが、2017年と2020年に渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで回顧展が開催され、私は2020年に初めて見て気に入ってしまい、ドキュメンタリーフィルムも映画館に見に行きました。
写真展で図録を買うことはほとんど無いのですが、ソール・ライターのはなぜか買いましたね。しかも図録って、買って満足してあまり見返さないのですが、今でも時々見ています。
ユダヤ教の聖職者である厳格な父のもとに生まれ、神学校で学んでいたけれど、画家を志してニューヨークに移住したソール・ライター。
1950年代終わりから、ファッション誌「ハーパーズ・バザー」のカメラマンとして活動しますが、80年代に入り、まだ50代だったにもかかわらず表舞台から姿を消します。
その後、作品を発表することもなく、隠者のように自分のために写真を撮ってきたそうです。
富にも名声にも興味がなく、成功を収めることを避けるようにすらしてきたのは、父親の望むとおりに生きてこなかったことが理由にあるようです。
でも、才能がある人が撮り続けていれば、やはり世間の注目を集めることになってしまうわけで、ライターが80代になって刊行した初の写真集「Early Color」でふたたび脚光を浴びることになりました。
彼の写真の独特な撮り方、どこか狭いところからのぞき見るような視点とか、ガラス越しに眺めたりとか、上から見下ろしているとか、手前に思いきり別のものを入れてボカすとか・・・
正面切らない撮り方に、とても共感するのです。
世界にしっかり「自分」として存在しながら被写体に対峙し、真正面から撮るというようなやり方ではなく、片隅にそっと存在して(あるいは存在を消して)、まわりで起きている小さなことに気づいて観察しながらシャッターを押す、というような。
でも撮った写真を見ると、彼の視点と存在感がしっかり記録されています。
上の2枚のような構図は、見つけたとき楽しいと思うのです。
というか、私なら楽しい。
自分だけが見つけた世界の見方。
これを見つけることが、写真の醍醐味だと私は思っているのです。
それは、わかりやすい「映え」といったこととは対極にあるものかな、と思います。
ライターは、日本美術が好きで浮世絵のコレクターでもあったそうなので、そのあたりからも構図の影響を受けているのかもしれません。
「ハーパーズ・バザー」のファッション写真
今回の展示で興味深かったもののひとつは、「ハーパーズ・バザー」でライターが撮った写真のページがいっぱい展示されていたこと。
ふだんは、自分とかけ離れた高級なファッション誌はあまり興味がないのだけど、この展示はとても楽しく見ることができました。
ファッションといっても、ライター独特の美意識で撮られていて、かっこよかったのです。
カラースライド
ライターが活躍していた50年代、60年代は写真といえばモノクロで、カラー写真が話題になって表に出てくるのは1970年代と思われていました。
フィルム自体はそれより前からあっても、感度が低かったり、モノクロと比べて保存性などの面でも劣るとされていたそうです。
ライターはカラーのポジフィルム(スライドフィルム)でスナップを撮っていたにもかかわらず作品を世に出していなかったので、2006年に最初の写真集を出版したことではじめて、カラー写真が登場したと思われていた時代よりもずっと前から、カラー作品が存在していたことが知られたのでした。
今回の展示には、ライターのポジフィルムの複製が展示され、目の前で見る事ができて、しかも撮影も可だったことにちょっと興奮。
カラースライドプロジェクション
最後の展示は、ヒカリエホールでの10面のスクリーンに約250点の最新の作品を映し出すスライドショーです。
スクリーンの前にはソファーが設置されて、次々と映し出される大きな画像を見る、というより体感する感覚です。
カシャン、カシャン、という懐かしいスライドの音を聞きながら、いつまででも眺めていたくなる空間でした。
2013年に89歳でライターが亡くなったとき、未整理の作品は数万点にのぼったそうです。
彼の助手をしていたマーギット・アーブという女性が財団を設立し、アーカイブのデータベース化が進められたとのこと。
やりがいのある仕事、羨ましいと思ってしまう。
それにしても、それだけの数の写真を表に出さないでいられるというのが不思議です。
やはり、親との関係はいくつになっても影響してくるものですね。
前回の写真展のときは、カリグラフィーも書いています(似顔絵は模写です)。
まだ書きたいことがある気がしますが、
だいぶ長くなってしまいました。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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