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No.1 ”One Art” - ある技術 : エリザベス・ビショップ

ある技術

エリザベス・ビショップ

失う技術を学ぶのは難しいことじゃない
こんなにも沢山のものたちが
しきりに失くされたがっているみたいだし
そういうものを失くすのは
たいして辛いことじゃない

毎日何かを失くしてみる
玄関の鍵を失くしたり
無為に時間を過ごしてみたり
そんなときの苛々を受け流してみる
失う技術を学ぶのは難しいことじゃない

それからもっと深く
もっと速く失う練習をする
旅するつもりだった場所やその名前とか
どちらも 全然たいしたことじゃない

あたしは母の腕時計を失くした
それにほら!
大好きだった三つの家のうち
最後の…いや、二つ目だっけ?…も失ってしまった
失う技術を学ぶのは難しいことじゃない

二つの素敵な街も失くした
そしてもっと広い私の領土をいくつか
二つの河と
ひとつの大陸を
寂しいけど、ひどい災難ってわけじゃない

あなたを失うことさえも(冗談めかした声や
大好きだった仕草も)
嘘じゃない
失う技術を学ぶのは
やっぱり難しいことじゃない
でもあなたを失ったのは
もしかすると すごく(…書いちゃえ!)すごく
辛いことみたい

One Art
Written by ELIZABETH BISHOP
Translated into Japanese by Keiko
©All right of the translation reserved

【翻訳メモ】

”In Her Shoes"という映画で使われていた詩です。
原題は”One Art”。”The art of losing isn't hard to master..."という一文で始まります。この一文に一瞬で惹きつけられました。

以前は、読み返すたびに最後のどんでん返しにぐっと来ていたものですが、
最近はその前の部分の良さが染みてきます。
私も今までに失ってきたものや国、人、そして物語について考えています。
私は“母の腕時計”を持っていませんが、もし持っていたら“母の腕時計”を失くすって、きっと、絶望的に哀しい。
なんて絶妙なチョイスでしょうか。

ところで、今回の訳はちょっとしたチート(ズル)があることを認めなければなりません。
有名で人気のある詩ですので、この詩にはたくさんの日本語訳が存在します。
今回つけた題名”One Art”を”ある技術”としたのは、多分、昔読んだ
そのいくつかの日本語訳のうちの一つの影響だと思います。
訳し始めたときにふと思い出し、この訳以外ないと感じました。
他にもいろいろと言葉を当ててみましたが、やっぱり、これが一番しっくりきます。
他の行にも、その日本語訳の影響がいくつか出ているかもしれませんが、
どの部分かは自分でもよくわかりません。拝借してしまったことを自覚しているのは題名のみです。
ちくりとした罪悪感と、だってしょうがないじゃない、これが一番なんだから…という開き直りのまざった謝罪をここでしておきます。ごめんなさい。


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