動物病院での犬と猫の病気:下痢(13) 蛋白漏出性腸症
千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。
前回のnoteでは
慢性膵炎
についてお話をしました。
今回は血液検査でわかる下痢につながる病気の「蛋白漏出性腸症」についてお話をします。
3⃣蛋白漏出性腸症
以前にもお話ししましたが、大部分の下痢がここまでの問診、身体検査、便検査により原因の推測ができ、その原因に合わせた治療をすることで下痢は治ってくれます。
そしてここまでの治療で治らなかった下痢に関しての次のステップとしては血液検査を実施することになります。
蛋白漏出性腸症は血液中の蛋白質であるアルブミンが腸から漏れ出てしまうことで、下痢はもちろんですが、腹水や胸水の貯留、浮腫(むくみ)など全身にさまざまな悪影響が出てくるとても怖い病気です。
蛋白漏出性腸症は、下痢が続いている子で行った血液検査において「アルブミン」という項目が正常値よりもとても低くなっているとき、この病気の可能性を疑います。
ただ注意しなければいけないのが
下痢をしていて血液検査でアルブミンが低い子のすべてが蛋白漏出性腸症ではないということです!
この蛋白漏出性腸症について皆さんによりよく理解してもらうために、まずはこの「アルブミン」についてお話ししたいと思います。
「アルブミン」とは血液中の蛋白質のことです。
アルブミンの血液中の役割は主に
① 浸透圧の維持
と
② 栄養素の運搬
になります。
浸透圧の維持とは血液中にアルブミンが一定量存在することによって血液の濃さを保ち、水分を血管内にとどまらせています。
そのアルブミンが血管内で少なくなってしまうと血管内の必要な濃度が保てなくなり、血管内から血液中の液体成分が漏れ出てしまい、腹水や胸水として溜まってしまったり、全身の浮腫に発展することもあります。
その血液中のアルブミンが低い状態のことを「低アルブミン血症」といいます。
低アルブミン血症になる原因は、腸だけではなく主に以下のような原因が考えられます。
◎低アルブミン血症の主な原因
・長期にわたる栄養不良・飢餓状態
・慢性的な肝機能不全
・腎臓病
・膵臓の問題(膵外分泌不全)
・寄生虫
・出血
・火傷などの外傷
・副腎皮質機能低下症
・蛋白漏出性腸症
難しい病気名も書かれていますが、私が良く下痢の診察時の血液検査で「低アルブミン血症」の説明をする際にご家族にお伝えしているのが、
アルブミンが肝臓で作られていないか?
アルブミンを作る材料が少ないか?
腸から逃げているか?
腎臓から逃げているか?
このような感じでお伝えをしています。
ちなみに診察時に明らかに外傷や出血がある場合にもアルブミンが激しく消費されているので、低アルブミン血症が見つかることもあります。ただその際は外傷や出血の治療をしていくことでアルブミンは回復してきます。
今回は下痢が主訴で来院したときのお話ですので、上記の表現の中にはアルブミンを消費している例は入っていません。ご了承ください。
アルブミンは肝臓で作られます。
アルブミンを作るためにはワンちゃんネコちゃんはごはんをしっかり食べて栄養を取ってもらう必要があります。
肝臓が悪ければ(肝機能不全)アルブミンを作ることが出来ませんし、栄養を取っていなければ(栄養不良、飢餓)そもそもアルブミンを作る材料がありません。
また肝臓でアルブミンが作られていても体のどこか(腸や腎臓)で逃げていては血液中に必要なアルブミンを確保することはできません。
ただ実際、下痢の際の低アルブミン血症のときは、その多くは蛋白漏出性腸症と診断されます。
しかし、まれに肝不全や腎臓病からアルブミンが少なくなり、低アルブミン血症が直接的な下痢の原因ではなく二次的に下痢をしている場合があります。
このような稀なケースもあるため、血液検査の時に低アルブミン血症が見つかった際は、必ず上記のようなさまざまな他の原因を疑い、鑑別診断のために必要に応じた画像診断や尿検査などの検査を行い、低アルブミン血症の原因を探っていかないといけないのです。
鑑別診断の結果、やはり蛋白漏出性腸症が一番疑わしい。
そうなった場合は、ご家族と次の段階へのお話をするようになります。
この蛋白漏出性腸症の話はとても複雑なため今回はいつもより難解なNOTEになってしまったかもしれません。
分かりづらい方がいましたら改めて深堀してお話もしますのでコメントなどいただければ幸いです。
話が長くなってきたので、この続き次回お話ししたいと思います。
つづく
参考文献
・犬の内科診療Part3
・鑑別診断と治療