IDFAの衰退とプライバシーファースト広告の夜明け
iOS周りのデジタル広告産業の終焉が訪れるというような記事が多く発行されたここ数週間ですが、本当にそのような深刻な事態なのでしょうか。私たちはそのような見方はしておりません。
イントロ
2020年6月22日、アップルがiOS 14に関するアップデートを発表しました。多岐にわたる内容の中でもとりわけ注目を集めたのは業界が大きく依存するプライバシーに関する変更でした。プライバシーについては、IDFAに関してすべてのアプリで自動的にオプトインされるのではなく、ユーザーの明確な同意が必要となるという変更の発表がありました。IDFAはモバイルエコシステムのプレーヤー間(アドネットワーク、DSP、SSP、広告主、媒体、MMP)のデータの取扱に関する共通のコミュニケーションフレームワークとして使用されています。この共有IDを通して、各プレーヤーはアプリを横断してユーザーを追跡し、キャンペーンの成否を確認し、リターゲティングを行なっています。しかし、この手法が現在主流だからといって必ずしも未来志向のものだとは限りません。その上、アップルが求めているプライバシー中心の手法とは食い違いが見られました。
一方で、IDFAはサービスを終えているわけではなく、今後消え去るわけでもありません。どちらかといえば、今回の発表では誰もが予想していたように明確なオプトインを提示するという、よりプライバシーを中心に据えた手法への第一歩を踏み出したともいえます。2017年、2019年にそれぞれ発表されたITPや位置情報許可に関するiOSアップデート、2022年のChromeの第三者クッキーの廃止などの流れからIDFAへの変更は予測可能なものでした。2018年のEUにおけるGDPRといった規制やカリフォルニア州でのCCPAなどといった動きは透明性とプライバシー中心の広告エコシステムへ向かう原動力となったと言えます。
したがって、広告の終焉ではなく、新たな方向に向かって重要なステップを踏んでいると考える方が得策だと私たちは考えています。プライバシー、広告、消費者の選択がより効率的なエコシステムを構築するためにようやく協力して取り組める体制が整ったともいえます。
ユーザー視点
ポップアップメッセージ参考例
ユーザーの視点から考えてみると、どのような選択肢が用意されているのかという点を念頭に置く必要があります。追跡へのオプトインを選択しているユーザー向けにはすでに同意ツールが用意されています。このセグメントの人口比は少ないものの、今後より重要性を増してくると考えられます。現状ではサインインを選択する手法、IABより発行されたTCF 2.0によるCMP(コンセント・マネジメント・プラットフォーム)、追跡に対する同意をOS上で管理する手法などがあります。
実際にアプリを使用する観点から言うと、ユーザーはアプリごとにポップアップ画面が表示され、さらに二次的ポップアップとしてログインやCMPをベースにした同意に関する画面が表示されることになります。他方で、匿名ユーザー向けの新たなサービスとしてはSKAdNetworkなどがあります。弊社でもプライバシーに配慮した、モバイルオーディエンスのセグメント作成を可能にするソリューションを開発中です。
媒体、パフォーマンスまたはブランドの広告主かによって異なる着眼点があると考えられるので、それぞれの視点から考察していきます。
媒体の視点
アプリ媒体にとっては、通知で約50%のオプトイン率・位置情報の許可を得られた研究があることも踏まえ、デフォルトで表示されるポップアップを遅らせ、テストを重ねながらより高いオプトイン率で最適化を目指すことになるでしょう。メッセージと価値の提示が明確であれば、当初オプトイン率が落ちることになってもオプトインが後ほど上昇することが見込まれます。媒体側は同意ポップアップをどのように活用していくのかについて思考を十分に巡らせることが必要になると考えられます。
媒体でパフォーマンス広告主への依存度が高い場合、SKAdNetworkというアップルのソリューションを活用してゲームや、リワードビデオ、インタースティシャル広告へ対応することができます。
オプトインがなくても、SKAdNetworkは匿名化された集計情報を提供できます。エコシステムでもこの部分への影響は小さいのですが、影響は無視されるべきではありません。同レベルのターゲティング抜きでは、広告主とネットワークは新たな状況に適応するのに時間を要します。VerveはSKAdNetworkに属しています。
媒体でもブランド広告主への依存度が高い場合、スポーツや天気、ツール、メッセージング・ソーシャルメディア等は、プライバシーに配慮した形で、デバイス上でユーザー行動に特化したオーディエンスを開発しているパートナーを探すことが重要になります。これに弊社が注力しているようなコンテキストオーディエンスデータを掛け合わせることもできます。
広告主の視点 二つのエコシステムについて
広告主がどのように影響を受けるのかというトピックに関する議論が業界内で活発に行われています。開かれたウェブの進展をサポートすることが目標であり、広告を利用したビジネスに対して将来を保証し、ある一定の規模で無料のコンテンツが引き続き提供されており、ユーザーの選択とプライバシーの選好が中心に据え置かれることが重要です。
デマンドサイドはパフォーマンス広告とブランド広告の二つの側面に分けて考えることができます。
パフォーマンス広告主(アプリ内でユーザーを獲得することを目指す広告主)
SKAdNetworkの効果と業界へのインパクトについて議論が活発に行われています。アップルのSKAdNetworkのAPIは広告クリックからデータを収集し、アドネットワーク にアプリインストールとパフォーマンスキャンペーンのポストバックを送る仕様になっています。新たなパラメータの導入により、媒体とコンバージョンイベントに関する情報も盛り込まれています。SKAdNetworkが必要とされるKPIを提供している以上、MMP(モバイル計測ツール)は新たな変更に適応した対応をとった上で、バリュープロポジションをどのように再構築していくのか注目必至です。
引用元:アップルWWDC (2020年)
ここで、いくつか参考資料を以下にご紹介致します。
さらばIDFA、IDFA後をiOS 14とどのように生きていくのか
IDFAの変更に関してEric Seufert氏よりコメント
Maor Sadra氏とのポッドキャスト
ほとんどのセルフアトリビューションネットワークや、デマンド、テクノロジー、サプライを備えているアドネットワーク への影響は少なく、より安全な位置にいると考えられます。
ブランド広告主
引用元:Luma Partnersより
ディスプレイ広告の基幹であり、広告代理店の原動力でもあり、オープンウェブへ積極的に広告費を投入しているブランディング広告(コカ・コーラ、P&G、小売業、通販事業)についてお話しします。モバイル環境においてブランド広告が展開されたのは比較的遅く、アップルが彼らのニーズに応えるために割いた時間はIDFAの廃止に割かれたリソースよりも少なかったのではないかと思われます。
彼らがターゲットとするオーディエンスはウェブ(Safari、Chrome)のみならず、iOS 14の変更でも大きな打撃を受けています。DMPが批判を受けていたことは確かです。クッキーが近い将来廃止され、MAIDSが消えたのち誰が主導権を握るのでしょうか?
まとめ
私たちはグループとしてこのチャレンジに立ち向かえると考えています。これにはいくつかの根拠があると考えています。一つ目は、大手のDSP、SSPをエクスチェンジやPMPのキュレーションを通じてサポートしてきた実績です。二つ目は、自社内のDMPを活用しつつ、プライバシーを中心に据え、コンテキスト、行動、位置情報などのオーディエンスデータをデバイスから直接活用することが可能なユニークな立場にあるという点です。
また、このトピックに関しては今後引き続き、媒体、広告主、DSPやSSPのパートナー向けに指針や資料を提供していく方針です。
iOS 14の変更に際して弊社がどのような準備をしているのか、ご関心がある場合は弊社にご連絡ください。
PubNative 代表取締役社長 兼 Verve Group チーフプロダクトオフィサー
イオヌット・チョボタル