「ベンチャーの方が偉い」とか「大企業の方が強い」とかもう止めよう、という話
僕がベンチャー企業の採用担当になってからそろそろ一年経ちます。この一年、僕はベンチャー企業がいかに自由で素晴らしく裁量があり新しいか、雄弁に語ってきました。語る回数が多すぎて、もはや夢でも優秀人材を口説いています。
業務の一環で議論力を鍛えるため、人事部の3名で毎日ひとつテーマを決めていろいろな話をするのですが、昨日のテーマが「大企業に入って仕事するメリット、向いている人」でした。
お恥ずかしながら、答えに詰まりました。丸一年ベンチャーにいて、いつの間にか僕の頭は「ベンチャー至上主義」に。毎日毎日ベンチャーの魅力を語っていたあまりに、ベンチャーではない会社の魅力がすっかりわからなくなっていたんです。
世の中の一部の人は、「大企業や大手”なんか”よりベンチャー”の方が良い”!」と声高に叫んでいます。ふと立ち返ると、僕もそうだったんじゃないかと、我に帰りました。
結果頭をひねりいろいろと議論した結果、個人的にはすごく納得のいく結論が得られたので、noteにまとめてみようと思います。
※この記事は、特定の企業を賞賛したり、また卑下する目的はございません。
ベンチャーと大企業のメリットデメリットを再考
議論を進める上で、まずはベンチャー企業のメリットとデメリット、大企業のメリットデメリットを考えてみます。
ベンチャー企業のメリット
・自由な社風(服装、髪型の規定が少ない、働き方に融通がききやすい)
・裁量権があって自分の意見の影響力が大きい
・少数精鋭なのでチームで仕事ができる
・いろいろな領域にまたがった仕事ができる
ベンチャー企業のデメリット
・会社のネームバリューが低い
・責任が大きく、結果主義
・業績や売り上げなどが安定していない
・給与が上がるかどうかは実力次第。
大企業のメリット
・会社のネームバリューがあり、安定している
・経験年数によって昇給する
・資金が潤沢なので大きなプロジェクトに携われる
・福利厚生が充実しており、会社が個人を守ってくれる
・いろいろな領域の人がいる
大企業のデメリット
・自由さが少ない(服装、髪型など規定があるところも多い)
・勤務地や上司を選べない
・個人の裁量は少なく、会社や上司の決定優先
・出世するのに時間がかかる
これはあくまでも一般的な”メリット””デメリット”です。働き方改革によってかなり多くの大企業が裁量労働を取り入れ、徐々にいろいろな会社が自由な働き方にフォーカスするようになってきています。
これらのメリットデメリットから限りなく核の部分だけを取り出すとします。すると大企業とベンチャーの違いは、
安定しているか、していないか
給与が上がる基準は何か
この二つに集約されるのでは?と考えました。
そもそも「安定」って何?
大企業=安定、ベンチャー=不安定というイメージを少なからず持っている人は多いです。じゃあそもそもなんで大企業って安定している(と多くの人は思っているのか)のかも考えてみます。
経営する上でよく耳にする経営資源、特にヒト・モノ・カネ・情報、この四つは全ての企業が気にしているといっても過言ではありません。当たり前ですが、大企業はこの経営資源が潤沢です。
経営資源が潤沢であるということは会社が大きく、”潰れにくい”ということ。ベンチャーは常にこの経営資源の少なさとの戦いの日々です。
資本主義経済の中では、富には富が集まります。すでに多くを持っている大企業は、これからもより多くのものを獲得していく、という刷り込みが私たちの中にはあります。
「お金持ちが10年後お金持ちでいられる確率」と、「貧しい若者が10年後成り上がってお金持ちになる確率」、どちらが高いと思いますか?という話ですね。そう比べた時に、大企業は安心、ベンチャーは不安、という構図が成り立つのはわからなくありません。
しかしながら2008年9月15日、忘れもしないリーマンショックの日。いわゆる超大手企業に勤めていた僕の父はリーマンショックの煽りを強く受けました。どんなにいい会社にいてもダメになるときはダメになると子供ながらに気づき、僕は自分のスキル一本で生きていけるようにならねばと思ったのを今でも思い出します。
この時代、”絶対安心な企業”なんてどこにもないことを、すでに賢い若者たちは気づいています。そう考えた時、もはや大企業なら安定、という考え方は古くて何も意味がないな、と僕は感じています。安定しているか/していないかで優劣をつけるのはそもそも間違っています。
ベンチャー企業では成り上がって成功していくために、大企業の経営資源を上回る結果を出すべく努力するのが当たり前なので、個人が成長しやすい環境とは言えます。
ただ一方、「大企業で上司の言うことを聞いているだけでは成長しない」という世間の論調には疑問を隠せません。結局大企業であれベンチャーであれ、努力をする人はするししない人はしません。それは個人がどうなりたいか(例えばベンチャーで若くして役員になりたいのか、大企業で結果をあげてネームバリューを引っさげて起業したいのか、30年勤めた先に大企業のトップの座を狙うのか、出世しなくても良いから自分の余暇を大事にしたいの……)によるのだと思います。現に僕は、いわゆる旧財閥系、大企業から独立した超優秀な人材を何人も知っています。
ベンチャーと大企業は、それぞれ〇〇に給料を払っている
僕は時々こんなことを聞かれます。
「なんで安定した不動産やめてベンチャー行ったんですか?」
「あのまま不動産屋で良い成績キープしてたら出世早かったのに」
「自分もベンチャー向いてるかな?」
「大企業とベンチャーって何が違うの?」
大企業=安定、ベンチャー=不安定の公式を刷り込まれた上での質問なので複雑ですが、僕はその時こう答えることにしています。
「あなたは”自分の実力”に対して給料を払って欲しい? それとも、”自分の経験”に対して給料を払って欲しい?」
僕はこれがベンチャーと大企業の大きな違いだと思っています。ベンチャーはその人の実力にお金を払う。そして、大企業はその人の経験にお金を払う。
実力にお金を払う、とは
・定量的な結果を出すことで給料が上がる。
・それまでの経験や学歴は不問。
・徹底的に結果主義。結果が出なければどれだけ長く勤めても給料は上がらない。
・実力が給与に見合わないと判断された場合、下がることもある
経験にお金を払う、とは
・勤めた期間の長さ、それによる横や縦のつながりなども含めて給与が上がる。
・経験が少ないと判断された場合は給与は低い
・どんな勉強をして、どの学校を出て、どの部署で何をしてきたかの積み重ねが重要。
・結果を出すと給与が割り増しになるイメージ。
・基本的に給与は右肩上がり。急成長はないが急落もない。
「実力」と「経験」は、比例する場合もありますがそれは必ずではありません。経験はなくとも勉強や努力で実力をカバーしているケースもあれば、実力は高くなくても経験はあり、一朝一夕には育たない”現場の勘”のようなものが必要とされるケースもあります。
当たり前ですが、「実力」も「経験」もあったほうがいいものであってここにも優劣はありません。新卒の場合は、「実力には自信はないけど、いつか積んだ経験を生かしていきたい」と思えば大企業へ、「経験はないけど、実力をつけて一発逆転してやる」と思えばベンチャーへ進めば良いのです。これも結局個人の価値観です。
これは僕の話ですが、僕は新卒でそれなりに大きな不動産会社に勤め営業職につきました。おかげさまで周りの協力もあり営業成績はトップ、しかしいわゆる”年功序列”の状態に疑問を感じてベンチャーへ移りました。僕は実力で評価される道を選びました。
一方当時の同期は順調に出世し、経験に対して保証された給与を受け取って十分な生活を送っています。どちらが良い、悪いではなく、これも全て個人の選択です。
ベンチャーVS大企業戦争を終わらせよう。
今僕がベンチャー企業にいるのは、「たまたま」ベンチャーが性に合っていたからです。
ベンチャーから大企業に転職して、「初めて体系だった指導を受けて、すごく成長した。ベンチャーの”勝手に育つ”感じ、社内制度がきっちりしてない感じはしんどかった」という人もいれば、大企業からベンチャーに転職して、「こんなに自分の意見が通るんだ!一から作り上げて行く楽しさを知った! がちがちに決まった規則は自分にあっていなかった」という人もいます。
ベンチャーは時間に縛られずに働ける。大企業は今も旧時代の固定時間勤務。
ベンチャーは服装も髪型も自由。大企業は髪色やスーツにうるさい。
ベンチャーは仲間意識があって楽しい。大企業は上下関係にうるさい。
大企業は安定していて給与が上がって行く。ベンチャーはいつ潰れるかわからない。
大企業は大きいプロジェクトが動かせる。ベンチャーは当たるかわからない仕事をやらなきゃいけない。
大企業は体系だったルールある組織。ベンチャーは馴れ合いの無法地帯。
どちらの言い分も、もしかしたら正しいのかもしれません。ただ、結局は個人の選択です。冒頭でも述べましたが、働き方改革によって、残業時間の是正やフレックスタイムの整備、服装や髪型、働く場所の自由は確実に広がっていきます。
そして「大企業=安定」の構図は崩れ、いつ・どこで・何が起こるかわからない時代がやってきているのにも多くの人は気づいています。だから「ベンチャーの方が良い、大企業はつまらない」とか「大企業の方がいい、ベンチャーは危ない」とか、もうやめませんか。そういう議論はただ誰かの職業選択の幅を狭めているだけな気がします。
働きたい人が働きたい場所で気持ちよく働けることが健全な状態だと僕は一人の人事に関わるものとして信じています。僕の所属する会社が誰かにとって心地いい会社であるのは嬉しいですが、万人にとって心地いい環境でないことも知っています。
ベンチャーVS大企業の戦争の構図を見つけたら、ぜひこの言葉を思い出してください。
「あなたは”自分の実力”に対して給料を払って欲しい? それとも、”自分の経験”に対して給料を払って欲しい?」
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