自己啓発本のススメ②―効用
前の記事では、自己啓発本がどのようなものであるか、どのように読んでいけばよいのかということについて書きました。
今回はタイトル通り、自己啓発本のセールスポイントについて考えていきたいと思います。
〇自己啓発本のススメ
私はふだん大学院で文学研究に従事する身ですが、アカデミアの世界では、自己啓発本はバカにされる傾向にあります(例外的に哲学者の千葉雅也さんが堀江さんの『多動力』を誉めていたような気がしますが)。
理由はたぶん2つ。
・基本的に自己啓発本は「稼げるやつが正義」なので、その資本主義全肯定の態度が学究の世界とは相性が悪い。稼げる=結果が出せることが大切だという態度は、反知性主義にもつながりやすい。
・自己啓発本には自分語りが多いので、出来る限り主観を排することを目指す研究者から見ると、「なんか怪しい本/バカらしい本」に分類される。
自己啓発本が資本主義礼賛で自分が語りが多いことは事実なので、こうした部分について擁護するつもりは特にありません。そうした欠点も踏まえて、「使える」ところを考えていくことにしましょう。
①モチベーションを上げる
そのまんま自己啓発本で自己を啓発します。
多くの自己啓発本はラディカルなことを断言調で書いてます。それは大抵、こちらもなんとなく分かっていることだったりしますが、改めて意識化すると日ごろの行動も変わってきます。
例えば、「スキマ時間を大事にしろ!」とかは色んな自己啓発本に書いていますね。細かい時間の使い方が大事なことは分かり切ってるんですが、実際Twitterとか見てたりもするので、案外ぐさっときます。
あるいは、「ちょっとずつでも継続することが大切」とか。研究はもちろん毎日継続してやっているんですけど、それ以外のスキルアップに継続して挑戦できているかというと怪しくなってきますので、改めて突きつけられると「やらなきゃな」という気になってきます。
僕が素直すぎるだけかもしれませんが、けっこうモチベーション向上につながるので、やる気が出ないときに自己啓発本を読むのはオススメです。
②ビジネス界の論潮を知る
前述したように、研究者には資本主義礼賛で稼げたら勝ちみたいな文章はウケが悪いです。僕もそうした論理を全面的に肯定するつもりはありませんが、現実問題として自己啓発本の読者は多いわけです。
大学生や社会人がどんな本を読み、どんな影響を受けているか探るうえで、こうした自己啓発本は有効なツールになります。
例えばキングコングの西野さんとか、「論壇の人じゃなくてお笑い芸人でしょ」なんてもう言えなくて、日本最大のオンラインサロンを運営してたりします(「エンタメ研究所」)。サロン代が月1000円で、会員が6万人とかいるというウワサです。西野さんに年1万円以上払ってもいい人が6万人はいるってことですね。
もちろんその影響力は6万人分じゃききません。西野さんの「エンタメ研究所」は最大のオンラインサロンですから、オンラインサロンというシステムの今後のあり方それ自体を規定していくでしょう。
西野さんとか中田さん(YouTube大学)はお笑い芸人ゆえか、研究者から下に見られてる感じがしますけど、影響力や実行力で言えば無視できないものを感じますね。間違った知識を広めていいとまでは言いませんけど。
こういう「YouTube自己啓発動画」についてはいま漁っている途中なのでまた別の記事でゆっくり考えたいと思います。
話を戻します。
自己啓発本は、どういうタイプの言説が私たちの間で流通/流行しているのか、それを知る上で有効なツールになります。その中には、普段気にしないような界隈のジャーゴンや暗黙知がなんやかんやと詰め込まれていることでしょう。
このようにしてビジネス界の論潮を知ることは、世の中の流れを把握する一助になるはずです。
③方法論を真似る
自己啓発本というのは、要するに人間関係やメンタルの持ち方、仕事の仕方に関するハウツー本です。そこには色々な”How”が詰まっています。
その中には知らないものもたくさんあって、けっこう勉強になります。
例えばポモドーロ法という時間管理の仕方があります。タイマーで25分はかり、その間は集中して作業、その後は5分休憩。そしてまた25分作業……それを何セットか繰り返します。
このテクニックの要点は、集中力が切れる前にリセットを挟んで効率を上げていくというところにあります。僕は知らなかったのですが、「ハウツー界隈」では有名なテクニックみたいです。
こういう方法論的な部分は応用が効きますし、すぐ試せます。合わなかったらやめたらいいですし。
また、主にビジネスの分野で重視されやすい時間節約系のノウハウも、研究にも活かせる部分が多いです。メール処理を効率的に、とかそういう話ですね。
もちろん実際にサラリーマン/OLなどをしている人なら、自己啓発本に書いてあることをそのまま活かせる機会も多いでしょう。例え著者の独りよがりな意見であっても、とにかくこちらの役に立てばいいわけです。
とりあえず読んでみて、試してみる。それだけでもけっこう仕事効率/研究効率は変わってくるかもしれません。
ちなみに、僕が一番感心した自己啓発本はスティーブン・R・コヴィー 『7つの習慣』です。この本のよさは「7つの習慣」の内実云々というよりも、思考のパラダイムチェンジが目論まれている点にあります。いろんな自己啓発本を読んできましたが、この本は頭一つ抜けていると言っていいでしょう。
ずいぶん前に読んで内容をあまり覚えていないので、曖昧な紹介しかできず申し訳ないのですが、完読する価値のある本だと申し上げておきます。
○まとめ
本記事では、自己啓発本に焦点を当ててその特徴と利点について考えてきました。
自己啓発本は速読が効く分、数を読めます。そうすると、その中で自分に合った考え方や方法論と出会える可能性も上がり、仕事や研究に活かせる部分も出てきます。
速読&多読と方法論の摂取。意識して取り組んでみれば、けっこうバカにならない効果を生むのではないでしょうか。
もう少し冊数を読んだら、思想史あるいは批評史の中で自己啓発本をどのように位置づけられそうなのか、自己啓発本とは何なのかについて考察することを予定しています。少々お待ちください。