死にたくなる私が振り絞った助けてくださいの行方
きっかけは、母の電話口での一言だった。
幼少期から散々聞かされている夫婦ケンカの愚痴である。また父に怒鳴られたと母が私を味方に取り込むための揺さぶりをかけてくる。これは共通の敵を作って共依存関係を維持する母のいつもの手法だ。もう離婚すればよいのに、延々と家庭内別居を続けている。母の生活は昼夜逆転に近く、金銭感覚もおかしい。父が自室にこもりきりなのもわかる気がする。父は最近すこぶる老いてきて私を怒鳴ることはやめたようだ。とはいえ、実家にいると、いつ父に怒鳴られるかわからないという恐怖に怯える。
私は鬱病のせいで、人間関係が破綻した。身近な人たちはみんな離れて行った。「助けて」と言った人に裏切られた苦い体験から、「助けて」ということを躊躇うようになっていた。そのくせ、困ってる人の役に立とうと己の力量以上のことを抱え込むから、自滅するのだが。
母の愚痴が決定打となり、孤独感と無力感にうちひしがれて、ずっと我慢していたお酒を缶一本だけ、梅チューハイを飲んだ。
不眠症の私がお酒を飲むとその瞬間はスッと眠りにおちるようで気持ちいいかもしれないが、質の悪い眠りとなるために、寝起きが最悪となる。
早朝目覚めて死にたくなった。ポロポロ涙が止まらない。もうどうしてこんなに私を追い込むのかと、その時は怒りが両親の方向へむかっていた。そこで「ちゃんとして!」という気力はもう私にはない。
父のパソコンに1通のメールを送った。
タイトル
死にます
本文
長い間お世話になりました
たったこれだけ。
私がしんどいということをわかってほしかった。いつも家族の調整役として空気を読んで読み疲れた。
すると母の携帯から何度も着信が入る。私はそれを無視して、手持ちの処方薬をいくらか多目に飲んで、しばらく昏睡状態に入った。いわゆるOD 過剰服薬のことだ。
小一時間すると、ドアを叩く音がする。ドアが壊れるんじゃないかというほど強い音で叩く音で微かに目が覚めた。
私は父に自分の住まいの合鍵は万が一のとき(鍵の紛失等)を思って預けていたのだが、父に怒鳴られたときに縁を切らせてくれと懇願したついでに合鍵は書留で送りかえしてもらった。そんなチグハグの親子関係なのだ。
だから、私はある意味父を試したのだ。
ドアを叩く音が次第に大きくなり、これはどうも管理人なのか他人様の声だと気づいた。ドアを蹴破りそうな勢いに恐れをなして、私は朦朧とする意識でドアを少しだけ開けた。
その他人様の後ろに両親が仲良く立っていた。私が心を病んで起こす行動のことで、両親に共通の乗り越えるべき試練が一時的に課される。これも私が書いたシナリオどおりだった。
薬が回っていて立ち上がれないので、部屋に入ろうとした母を全身を使って倒れこむ形で静止した。
「入るな!出ていけ!帰れ!」
両親が憎かった。何をお二人揃ってぬけぬけとやってくるのかと。
それから私はうずくまって泣き叫んだ。薬がまだ身体を支配しているのですぐにベットに倒れこんだ。
次に目が覚めたときはあたりは真っ暗であった。私が気を失っている間にメールがきていた。自制心を失ってる状態で「もう1人で立ち直ることは無理だと思います。家族とも折り合いがよくありません。」と暗に助けてほしいと返信した。
「心配です」
そんな返事をくれた人は久しぶりだった。私を心配してくれる人がいることに喜ぶと同時に、すぐさま他人様を巻き込んでしまったことへの罪悪感で押し潰されそうになる。私と関わった人はみんな離れていくという恐怖感もあるからだ。
それからしばらく考えてくださったのだろう。まさかそんなお返事を頂けるなんて夢にも思っていなかった。
「環境を変えるために、うちに1週間きてみますか?」
助かったと思った。変われる気がした。私のラストチャンスだと思う。