吉田の火祭りを神事から見学 2024
8月26日(月)「吉田の火祭り(鎮火大祭)」に行って来た。今年の春に娘家族が富士吉田市に移住したので、訪れる度に周辺の観光地巡りをしており、その時に日本三大奇祭の一つがこの街で行われることを知った。秋田のなまはげや諏訪の御柱は見ていないので、今回が一つ目の奇祭見学となる。
吉田の火祭りは別名鎮火祭とも言われ、富士山の噴火を鎮めるための伝統行事である。、祭りの由来は富士山の女神である木花開耶姫命の火中での出産という神話の他に諸説あるらしい。それにしても450年以上続いているという事実は、富士山を慕いその近くで生活する人々の歴史そのものかもしれない。移住した娘家族とともに富士山の安寧を願う!
神輿がスタートする前の神事から見るため昼過ぎに北口本宮富士浅間神社を訪れた。富士山駅から徒歩で向かうと、吉田口登山道(富士みち)の脇には11尺と言われる巨大な松明が30m?ピッチで道の脇に置かれ、道の真ん中にも1mくらいの高さに薪が組まれている。松明は富士山を模して筍形状になっている。また通りの脇道を覗くと神輿が置かれる御旅所の準備も着々と進んでいるようだった。上吉田地区の街をあげてのお祭りらしく、いろいろな会の名前が入ったハッピを着た人たちが、忙しそうに準備している。
駅から20分ほど歩いてようやく浅間神社に着いた。境内は観光客でごった返しかと思いきや、今年は平日ということもあって思ったより人が少ない。
この日の御朱印は特別なものと聞いたので、早々にいただくことにした。よく見ると、右上の参拝の文字の下に「鎮火祭」という朱印が入っている。この日だけの特別な御朱印をゲット!それにしても達筆だ。
本殿に参拝した後、諏訪神社を覗いてみると何とそこには二つの神輿が置かれていた。正面奥に明神型神輿の「お明神さん」、手前には富士を表す御影と言われる御山神輿「お山さん」、この二つの神輿がこれから神様とともに街を練り歩くのだ。それにしても「お山さん」はかなり重そうだ。聞くところによると明神はベテラン、御影はヤングが担ぐらしい。
ロープで仕切られた高天原を背にして祭りが始まるのを待つことにした。目の前の砂利道を均す人が「このみちを神様が通るので真ん中は歩かないでください!」と言いながら作業している。レーキでガリガリと砂利を均す音を聞いていると神聖な気分になり「ああこれから祭りが始まるんだな」と気持ちが高まってくる。
もうすぐ2時30分だ。本殿を眺めると次から次へと異なるハッピ姿の勢子や氏子の団体が観光客に交じって参拝している。その光景が延々と続くのみで、祭りが始まったかどうかわからない。観光客が本殿の中に携帯を向けて撮影しているので、どうやら祭りの始まりの合図は本殿の中で行われたようだ。
空にいきなり号砲の花火が響き渡った。何かの合図かと時計を見ると15時。そういえばこの日は午前中から1時間毎に花火が打ち上げられている。待機してから既に1時間経過した。しかしいまだに神事らしい動きが伝わってこない。だんだん本殿の中が気になってくる。列を離れるか悩む。
徐々に観光客が増えてきて場所取りが厳しくなってきたが、一度その場を離れて本殿の中を覗きに行くことにした。左手に大勢の来賓が並べられた椅子に座っており、その前で神主さんが神事を進行しているようだ。その様子をずっと撮影して動かない観光客も大勢いる。「なるほど、本殿祭といっても厳かな神事が執り行われるのみで、その儀式に時間を要しているんだな。」と疑問は解けた。
元の場所に戻ると絶好の位置は既に別の人たちが入っていて、悔しいがその後ろに並ぶ。参拝を済ませた勢子や氏子の団体は雑談しながら神輿のそばで神様の移動を待っており、その人数もどんどん膨らんできた。
並びはじめてから2時間以上も立ったままの姿勢で、流石に脚も疲れてきた。16時15分頃ようやく本殿から諏訪神社に神様が遷御されるとの案内があり、前列の人達が後ろに下がるよう指示されている。どのような神事を見ることができるのか楽しみだ。
本殿から来賓たちが移動を始め、続いて神職たちが神様を隠すよう四方を白い幕で囲いながら、ゆっくりと出てきた。音楽隊が先導する。篠笛、しょう、しちりきなどの和楽器を奏で、その後ろから神職たちが「おおーおおー?ひょうーひょうー?」といった声を響かせながら布で覆われ隠された神様をお運びになる。低頭!!
神様は本殿から諏訪神社に遷御され、二つの御神霊を以て諏訪神社祭が始まった。こちらの神事は比較的短く執り行われ、宮司によって浅間神社と諏訪神社の御神霊が明神神輿に移された。そして世話人から出発の合図が発せられるとそれを待ってましたとばかりに、ベテランの勢子たちが明神神輿を担ぎ出し、高天元の大木前に移す。そして次にお山さんの神輿を高天元の大木を挟む一に移した。ここでもう一度短い神事が行われ、それから間もなく、一斉に勢子たちが気合を入れ始め街に繰り出す。まずは明神神輿、そしてそれを追うように御山神輿が参道を下り始めた。「ワッショイ!ヨイヨイ!ワッショイ!ヨイヨイ!」この賑やかさこそお祭りだ。
時計を見ると17時、神輿が御旅所に到着するのは18時30分の予定なので、それまで富士みちあたりで時間をつぶすことにした。それにしても初の神事見学は立ちっぱなしで3時間、どんな神事なのかワクワクしながら待つも、老体の脚には厳しいイベントだった。
18時30分が過ぎた。あたりが薄暗くなって来て富士みちにも多くの人が集まってきた。神輿は既に御旅所に着いているだろう。次から次へと松明が立てられ、そして点火が始まる。
雑踏の中を金鳥居に行ってみると、鳥居の先の富士みちに赤々と燃える多くの松明が並んで見える。「この景観こそ吉田の火祭りだな!」あらかじめ四角に組まれた薪にも火が入り、近くに寄ると火傷しそうなほど熱い。
通りの両脇には切れ目がないくらい屋台が並び、縁日のように子供たちのはしゃぐ姿が眩しい。祭りの規模はイメージしていたものより大きい。平日なのに観光客も多いようだが、思った以上に地元と思われる人も多く、地域に根付いた伝統的な祭りであることが実感できた。
「どうか富士山が噴火しませんように!あの美しく荘厳な富士山を永遠の静寂で包んでください!」と皆の願いが火の粉ととも夜空に舞い上がる。
翌朝賑やかだった富士みちはどうなっているのか、気になって言ってみた。夜には赤々と松明が燃え上がっていた金鳥居からの景色がいつもの道路に変貌し、冨士みちの両脇もまるで何事もなかったように綺麗に片づけられている。「すばらしい!」
今日は「すすき祭り」の日、金鳥居にも明神神輿がやってくる。まさに祭りの後の静けさ、そして寂しさを実感した。 以上