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2年越しのピアノのレッスン ラフマニノフの協奏曲第二番

#未来のためにできること
去年から今年にかけてピアニストの生徒とラフマニノフのピアノ協奏曲第二番ハ短調のレッスンをしてきた。2年間にわたる大きなプロジェクトとなった。去年の3月に一回レッスンをして、今年の1月に一楽章を一緒に演奏して、三楽章は今年の3月にレッスンをつけた。今は来年の3月にオーケストラと一緒に演奏するための準備をしている。

ラフマニノフの二番目の協奏曲は、難曲中の難曲と言われる曲。

この選曲は彼のものでYoutubeで誰かの演奏を見て感動したから、自分も弾きたいとおもったからと言うことだった。それ自体はいい反応で尊重すべきだと思うのだが、コーチ?先生なのかな?の立場として躊躇している自分がいた。ちょっとこの気持ちについて掘り下げたい。

僕がピアノ科や大学院で指揮科にいた頃は2000年前半だったから、Youtubeが存在しなかった。ラフマニノフなんてよっぽどうまい人でも弾けなかったので、誰も演奏することも考えてなかった。協奏曲を弾くと言うのはある程度ソロの難しく長い曲を弾けた上で少しずつモーツアルトの協奏曲やベートーヴェンの一番辺りから少しずつ入っていくものだった。

さて、この25年の間にクラシック音楽はCDの世界からスマホに移行して、アクセスがとても簡単になり、アクセス数やいいねの数が指標になり、そのアルゴリズムの一番上の方ににあったのがラフマニノフの二番と言うことになる。僕らの時代にはそんな指標が存在していなかった。近所の図書館やCD屋さんから買ったり借りてきたりしたヨボヨボのお爺さんがピアノを弾く白黒のCDジャケットを見て、とても興奮していた。僕はそういう時代に育った。

今の話に戻ると、スマホのお陰で、ラフマニノフについて色々調べることもできた。ラフマニノフの二番はニューヨークの精神科医に献呈されたもので、それは彼を作曲活動のスランプから助けた医者の名前だった。ラプソディインブルーの初演にいたとか、ハリウッドにうちがあったとかは、全部スマホから情報を得た。これもこれで、僕らの時代は(僕が音楽院で勉強してた頃という意味だが)音楽院の図書館の伝記を英語やドイツ語で読むしかなかった。彼女との待ち合わせも電話。回想。

去年の3月、この生徒がラフマニノフの一楽章をレッスンに持ってきた時は、音は全部弾けているが、正直、パワーが足りなく、ルバートもできていないので、もう少し簡単なものから始めたらどうかと思い、それをラフマニノフをやりたい気持ちを壊さないようにやんわりといった。そうしたらいや、これがやりたいんだと言う。この前に演奏したのはショスタコーヴィッチのピアノ協奏曲第二番(ハノンが出てくる作品)だったから、じゃあせめて難しいけどチャイコフスキーはどう?というと、僕はラフマニノフをできるようにするんだという。練習するべきことは伝えて、しばらく放置していた。

僕のその時のアドバイスは以下。
最初の八小節。
出だしは鐘。ファとドが鐘の音。内声が自分。
下のファはトラウマから這い出てくるかのように。
ラフマニノフ作曲の合唱曲を聴くこと。
五声のバッハと思うこと。全声歌う。
あとはテクニカルなことをみっちり。秘密^_^

今年。あれから10ヶ月経った。今年の1月に会ってレッスンをした。演奏を聴いたらコンサートで充分弾けるまでになっていた。2台のピアノの演奏会をしようということになり、二つのクラビノーバで公民館のようなところで演奏をした。(写真) 近所の子供たちがとても静かにジーと見て聴いてくれていた。自分はピアノ伴奏をしたが、立派になったラフマニノフを弾けるピアニストを伴奏するほど楽しいことはなかった。その前座にモーツアルトの21番を演奏したが、それもそれで本当に楽しかった。

コンサートをジーーと観る聴衆

そこでおもった。

今の人には今の人のペースがあり、そこに僕らおじさんは乗って行くべき。とにかく一回は身を任せるべき。それでエンジョイしている自分がいた。それを肌で感じた瞬間だった。

多分、僕らの時代は基礎や応用を少しずつ積み上げて、これができるようになったら、この次、という時代だった。それまでは次の曲を見ても聴いてもダメよという時代だった。それがこの25年間で演奏技術、録音技術、音響機器が進歩した。僕の時代でいうところの図書館のCD聴き放題、午後5時に閉館しない状況で、色々な環境が変わり価値観もだいぶ変わったのだろう。少なからず僕もスマホを使ってスマホで学んだこともあり、それがうまく伝わって、ちゃんと彼はラフマニノフが弾けているのだ。僕らの時代のやり方ではないいいやり方が今の時代にはあり、それを尊重していこうじゃないか。

最後に。
レッスンをつけていた時に彼が僕を見上げて言った。「マエストロの指揮で演奏したい」と。恥ずかしかったが嬉しかった。

終わり。

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