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映画の中のワインを考察します。⑧「突然炎のごとく」

フランソワ・トリュフォーの映画の中でも有名な作品ですが、今更ながら初めて観ました。ワイン以外のディテールも見どころがあったので、自分的には、こんないい年の大人になってから観てよかったと思います。

まあなんと言っても、延々続く三角関係の大人のお話です。
ジュールとジムは親友同士。そこにカトリーヌという女性が現れる。彼女は男2人に負けずに走ったり急に川に飛び込んだりとても奔放です。3人で仲良くなるけどカトリーヌはより積極的だったジュールと結婚。やがて第一次大戦で3人は離れますが戦後再会。夫婦間の愛のピークは終わっていてカトリーヌには愛人までいました。ジュールは知らない男に取られるくらいならジムとカトリーヌが一緒になって欲しいといいます。普通なら「いやそれはちょっと」ってなるところだけど元々カトリーヌが好きだったジムはのってくる。そうして気まぐれなカトリーヌに翻弄されてゆくのです。

カトリーヌとの出会いのシーンでワインが登場します。コンパのような集団見合いのような集いで、ジュールが「友愛のためにお気に入りのワインで乾杯」といいながら注ぐのはロングボトルの白ワイン。ここはフランスなので普通に考えればアルザスのワインなんですけど、ジュールの故郷、オーストリア産という可能性もありそう。特有の品種グリューナー・ヴェルトリーナーをはじめ、オーストリアにもエレガントな味わいの銘醸ワインが多くあります。



ジュールはワインに限らずお酒が好きなのか、後のシーンで家を訪れたジムに「君にもドイツのビールを味わって欲しい」と勧めます。しかしカトリーヌは「フランス人はビールが嫌いよ。フランスは世界一のワインの国なの」と言い放ち、「ボルドー産だけでも、シャトーラフィット、シャトーマルゴー、イケム、サンテミリオン……」ワインの産地を延々列挙します。ワイン好きとしては思わず「うんうんそうねそうね」と見入ってしまいました。


自由奔放なカトリーヌは愛人も平気で家に招きます。ジュールとジムがモヤモヤしていることなどおかまいなしに、愛人のギター伴奏で楽しげに歌うのは、「つむじ風」という曲。男が恋に振り回されるという歌詞は、まさにここにいる皆さんの事ですね。軽快で耳に残るメロディなので、もっとこの曲知りたいなあとググってみたら、この歌詞を名前にしたワインがあるんですね。「Le Tourbillon de la Vie (ル・トゥルビヨン・ド・ラ・ヴィ(人生の渦)」。作り手はジャン・フィリップ・パディエさん。フランス南部ルーション地方のものです。

このボトルは赤ワインですが白ワインもありました。


日本でもオンラインショップで買えるようです。主要品種がタンニンの少ないグルナッシュなので、フルーティーで親しみやすい味わいだと思います。

さて小悪魔仕草で男たちを虜にしてるカトリーヌ。舞い上がってる頂点で男をどん底に突き落とすし、悲しんでいるかと思ったらケロっとしてるし、周りを振り回す、まさに猫科の女。でも実はこの人がいちばんイライラしてるんじゃないかという気がする。

結婚前、3人で歩いている時、突然川に飛び込みジュールとジムを驚かせるのだけど、それは彼らが女性蔑視的発言をした直後のことで、抗議の行為に見えました。でも別に彼らだけじゃなく当時の世間全体が、女性は男より下の存在、って風潮です。未だ参政権もないし、自立の手段だってそんなにない時代でした。

カトリーヌはジムと不倫中、「私が40代になったら、あなたは25歳の女と付き合うんでしょ」と当たり散らしたり、ジムの子供を作ることに躍起になったりします。それは女の本能というだけじゃなく、他の人生の選択肢がなかったから、じゃないでしょうか。主婦になって子を産み育てる。それ以外の女の生き方って何かあるの?って。

ジュールはカトリーヌを持て余しながらも別れられない。「彼女は特に美しくもなく、聡明でも誠実でもない。だが女そのものだ。全ての男が求める女だ」とジムに言います。なんかかっこいい、それってモテの絶対神?てうっかり思ったけど、「君には何も良いところはないけど、男の気を引くことだけはうまいね」って言ってるのと同じな訳で全然嬉しくないわ。「夫は私のことよくわかんないみたいだし、世の中は息苦しいし、どうしたらいいの?」って女が自由にできることって恋愛くらいかなって、浮気も自己主張のひとつだったのかもしれない。

まあでもそれは私の勝手な深読みで、トリュフォー監督は単に魔性の女を描きたかっただけなのかもしれないですけどね。

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