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06_3M. 第六の扉 「VEGA’s 5つの鉄則」 中国古典2


ここからは補足編として、「易経の概要と活用例」を紹介します。補足なので、飛ばしてもかまいません。


易経とは何か

変化の型を64に分けて、「次はこういうことが起こるよ、それにはこういう兆しがあるから」というように、変化の型と兆しについて説明した書物です。兆しを察することができれば、変化への対応も事前に手が打てるので、「変化への対応の指南書」というわけです。

実用面からいうと、「環境変化に対して各人が何をすべきか」を説明した書物で、具体的には環境を64の物語、人を6つの能力・位に分けているので、「64物語 x 6つの能力・位 = 各物語においてそれぞれの人がやるべきことが384例示されている」とも言えます。

私が学ぶ目的は、「時の変化を知り、わざわいの兆しを察し、未然にそれを避ける」こと。そして、「心に響く人生訓を吸収する」ことです。私にとっては、処世の知恵に満ちた実用書でもあります。


易経の誕生と広まった理由

易経は、「四書五経ししょごきょうの筆頭」、「あらゆる事象に通ずる栄枯盛衰の変化の道理を諭してくれる書物」、「天理自然の法則を体系化し、森羅万象の運命を解き明かした学問」、「自然科学、天文学、哲学が一体となった人間関係統計学」など、最上級の修飾語とセットで表現されることが多いです。裏を返せば、それだけのニーズを満たした、ということでしょう。ただそこまで飾り立てると怪しさも残るので、易経の誕生と広まった理由について、現段階の私の解釈を示します。

まず、占いに少し統計的な要素を加えた易経の原型が生まれた頃の時代背景をひも解きます。キーワードは、農耕と封建制。BC500年前後から気候温暖化と鉄製の農機具の普及で農耕が発達し、生活スタイルが狩猟から定住へ変化します。農耕生活は自然の影響を受けるので、それに適応する方法を探す必要があります。一方、周の時代には、一族を中心とする封建制と呼ばれる新たな支配体制ができ上がりました。そうすると為政者は、過去に遡ってデータを集めて、統計的学的な答えを導き、「今年の天候はこうなるだろう」と予言する、今でいう天気予報のニーズが生まれます。農耕の発達と封建制が易経の原型を生み出した、概ねそんな関係です。

次は、64の変化の型。天候などを中心に始めは変化の型も少なくて良かったはずですが、そこそこ当たったのでしょう。また天候だけでなく、政治や人の成長、さらに当時関心が高まっていた宇宙観 (自然界の真理)にも広がったはずです。段々と広まるに連れて、「より細かく分けた方が優れている」、そんなニーズが出てきます。そのニーズに合わせ、陰陽2つの組み合わせを広げてより細分化していくと、5回 (2の5乗)の32では威厳がなく、7回(2の7乗)の128では多すぎて複雑。落ち着いたのは6回 (2の6乗)だった。かっこよく「64卦」と呼んでいるけど、なんとなくの閾値だった、そんなところでしょう。ちなみに64卦を画像検索すると、それぞれのマスに棒が6つ、陰陽2つの組み合わせで並んでいることから、2の6乗 = 2 x 2 x 2 x 2 x 2 x 2 = 64、という意味がよりクリアになるはずです。

64の型ができたら、次は「解釈」。「64卦」とそれぞれの意味を説明した「経文」が作られたものの、その経文では抽象的すぎて何のことか分からない。例えば、「勝って兜の緒をしめよ」の例えにもなる「水火既済すいかきせい」。

仮に、「既済、易経」で検索して実際に書かれている内容を見ると、全体状況「卦」には、「既済。亨。小利貞。初吉。終乱。(きせいはとおる。しょうはていによろし。はじめはきち。おわりはみだる)」と書かれていて、直訳は「水火既済の時、小事は通じる。最初は吉でも終わりは乱れる」。それを「天下安泰の極みなので、今後は衰退に向かわざるをえない。控えめにふるまって、現状を維持できるようにつとめるべき」などと解釈します。このように直訳と解釈のギャップが大きいので、解釈次第でいかようにもなることが分かるでしょう。

一方、宇宙観など既存の儒教ではうまく説明できない儒家にとって、当時人気の高まっていた宇宙観のほか、陰陽説で自然科学領域も網羅する易経は、元々親和性もあったことから、最適な補完関係に映ったはずです。そこで儒教的な注釈を10種類「十翼」、春秋戦国時代から漢の時代にかけて追加して儒教陣営に取り込み、自分達の基盤を厚くした。そのお土産として、「四書五経ししょごきょうの筆頭」という最上級の枕詞を与えた。その後も、様々な賢者によって注釈が加えられ、占い以外にも幅広い側面を持つ古典として現在の形に至った。そんなところが、私の理解です。


易経の2要素 「環境」と「能力・位」

次は、実際にどんなことが書かれているのか? 物語「環境」と各自の「能力・位」の2要素について、説明します。

1. 環境

最初は「環境」で、分かりやすい例は「序卦伝 じょかでん」と「十二消息卦 じゅうにしょうそくか」です。序卦伝の理屈は分かりづらいところも多いので、1年を12の季節で表現した「十二消息卦」が実感しやすいです。

  • 序卦伝 じょかでん: 64の物語「64卦」を1から64まで並べて、その理屈を説明した十翼の一つ

    • 中央を軸に上下反転するパターンが56卦 (下図の3と4、5と6など)

    • 陰陽を反転するパターン8卦 (下図の1と2など)

序卦伝
  • 十二消息卦 じゅうにしょうそくか: 1年を12の季節「12卦」で説明した「十二消息卦」

    • 6本線は下から上に順番がつけられているので、下から順に陰陽が置き換わるパターン

Wiki

2. 「能力・位」 龍の成長

次は、各自の「能力・位」。64の物語の中で、最も分かりやすい「乾為天 (6つ全て陽の組み合わせ)」を取り上げます。そこでは、龍の成長を通して6段階の「能力・位」が分かりやすく表現されているので、一般的な会社員「能力・位」に適用したのが下表です。6つの成長を通して得た、私の教訓もその下にまとめています。

乾為天に対する「VEGA's 教訓」

見龍けんりゅう「基礎固め」: 能や歌舞伎でよく言われる「型破り」と「型なし」。基礎も出来ていないのに、あれこれやることが「型なし」。きちんと基礎ができ、型と型以外の境界線を理解した上で、独自性を加えることが「型破り」。見龍のステージでは、土台を固める前に独自性を上乗せしがちなので、焦る気持ちを抑えつつ、基礎が固まるまでみっちり修行すべき。

乾龍かんりゅう「省みる」: 自己成長の公式「自己を客観視 -> 自己否定 -> 自己変革 (客観的に自分が間違ってなかったか省みて、間違いを変革していく、一種のPDCAサイクル)」。その最初のステップが「省みる」こと。逆に大きな失敗の共通点は、この公式から脱線することなので、乾龍のステージでは、私が考える陰の究極、「省」を常に意識すべき。

躍龍やくりゅう「時中」: 機が熟し時が満ちる時期なので、「自分の能力」と 「環境・タイミング」を一致させよ

飛龍ひりゅう「素直な心」: いまが絶頂期で後は下るしかないので、長く維持できるよう周りからの忠告・換言を素直に聞く

亢龍こうりゅう「切り替え」: 院政をしいて晩生を汚すのではなく、引き際の美学を意識して、自ら後進に道を譲る。徳川慶喜のように過去と決別して、違う分野に熱中して人生を楽しむのもあり。


不変の大原則「窮まれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」

「万物は変化する。でも一定の法則があるはず。その法則を知っていれば、変化の兆しを察する洞察力が身につく」。易経では、この点をおさえることが重要です。分かりやすい例が、「夏至」と最も暑い時期「大暑」の関係。体で暑さを感じる前に、日の長さから今後の暑さを予見する、そんな世界です。

その「一定の法則」について易経の答えは、 「窮まれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」。簡単にいうと、全てのものごとは窮 (極) まった瞬間に変化する。冬が極まれば夏へ、夏が極まれば冬へ。その方向を対極へと転化させ、変化が起これば、行き詰まることなく、終わりなく、久しく通じていく。これは、さきほど説明した「陰陽説」と「中庸」を網羅した考え方です。

  • 変易へんえき: 森羅万象、万物は変化する

  • 不易ふえき: 変化には必ず一定不変の法則がある (e.g. 春->夏->秋->冬)

  • 易簡いかん (簡易かんい): 一定不変の法則を理解すれば、先々を予見できるようになる

景気、戦争、死生観、営業も循環

不変の大原則「窮まれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」。身近な例をあげると、景気循環や株価サイクル。繰り返される戦争の歴史も然り。死生観についても、キリスト教などの一神教は、始まりと終わりがあるので直線的なのに対し (世界の始まりは神がつくり、世界の終わりには神が審判を下す)、仏教は生まれ変わる輪廻転生、形でいえば円「循環型」です。

この直線ではなく、循環するパターン。営業のアプローチにもあります。なかなか意思決定者に会えない、そういう壁をこじ開ける際、関連部署を3周ほどします。「いま何周目?」というのが、営業チームの合言葉にもなるほど。何周か回っているうちに、相手の壁も綻ぶほか、自分達のアプローチの仕方の練習にもなります。

戦場でも同様です。漫画キングダム 馬陽ばよう編で、蒙武もうぶ将軍が最初に戦うシーン。戦に不慣れな歩兵を戦場に慣れさせ、恐怖心を少しづつ取り除き、自信をつけさせる戦い方を繰り返した後、自信をつけた歩兵と共に一気に攻め込むスタイルです。

歴史の大きな流れにも当てはまる

1) 紀元前500年前後に世界規模で起きた「知の爆発」

更に領域を広げて、紀元前500年前後に世界規模で起きた「知の爆発」にも当てはめてみます。「知の爆発」とは、ソクラテス、釈迦、孔子などの哲学者、宗教家、思想家が世界的に多く生まれ、人間が考えることのできる殆ど全てのものが、この時代に生まれたといわれる事象のこと。では、なぜこの時代だったのか? 簡単にいえば、人間が食べ物の心配をする必要がなくなり、学術や芸術に目をむけられるようになったから。いわば、「窮まれば変ず」です。

その背景には、紀元前500年前後に地球が温暖化したこと、そして鉄器が普及したことがあります。鍬などの便利な農具が身近になり、農地が次々に開墾され、農業の生産性が飛躍的に高まりました。豊かになれば、人間は学術や芸術にも目が向きます。それが当時、文明が発達していたギリシャ、メソポタミア、インド、中国などで一斉に芽吹きました。不変の大原則から導かれる「知の爆発」は、偶然ではなく必然だったのです。

2) 学術や芸術の領域

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