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wawabubu
2021年9月10日 23:29
「ねえ、たかし君」「なんだい?」情事の後のベッドの中でおれたちは天井のシャンデリアを眺めるでもなく眺めていた。「あなたはやっぱりひどい人ね」「いまさら…」「最後の電話、覚えてる?」別れを告げた、最後の電話のことだ。忘れてはいない。「もう会わない方がいいって言ったのよ」「そうだった」「あたしにどこか、いけないところがあって?それとも、ほかに好きな人ができたの?って、あたし問い詰めた
2021年9月10日 23:26
風呂に湯が溜まるあいだ、ソファで口を吸い合った。間近で見ると真由美も五十を超え、目じりに小じわができていた。おれに会うために薄く慣れない化粧をしている。自分も髪が薄くなりかけ、気になりだしていたから、お互い様だ。それでも真由美は結婚していない分、歳より若く見えた。全体に地味なのはあの頃と変わらない。男物のようなワークシャツの裾を出したまま、ひざ下までのデニムのスカート…こういう恰好が昔
2021年9月10日 23:23
土曜日の朝、家内を施設に送り届けたおれはそのまま車を駅前に向け、走らせた。カーステレオにはiPodをつなぎ、お気に入りのビートルズナンバーを仕込んだ。真由美とは駅前のセブンイレブンで待ち合わせることにしていた。おれは、ガラになくときめいていた…それほど、日々の暮らしに閉塞していたのだ。一度は袖にした真由美が会ってくれる…背徳感を感じながらも、期待に胸が膨らむ思いだった。まだ十時にな
2021年9月10日 23:17
真由美からメールが来ないので、会社の昼休みに思い切ってこちらから教えられたメアドに送ってみた。『今度の土曜日に会えないか?上条隆』真由美はあの会社にずっと勤めていると言っていた。お局なんて陰口をたたかれながら、勤めあげて来たのだろう。真由美は会社では、メガネをかけた地味な存在で、男性社員からの誘いも皆無だったと記憶している。そんな真由美とおれが接近したのは、入社二年目の忘年会だった。真
2021年9月10日 21:24
おれは、やましい心を持ちながら、家に帰ると、ガレージから車を出した。施設に家内を迎えに行かねばならないのだ。18時15分に小規模多機能ホーム「かざぐるま」に着いた。夕食の時間らしく、テレビを見ながら利用者たちがテーブルについていた。「こんばんは、上条です」おれは、玄関で呼ばわった。フロア主任の岡本礼子がおれをみとめて、家内に知らせる。「須磨子さん、ご主人がお迎えにこられましたよ」妻
2021年9月10日 21:14
会社の帰りに駅前のスーパーに寄った。晩酌用の缶ビールでも買おうと思って、生鮮食品の前を通り過ぎたとき、見覚えのある顔に視線が釘付けになった。女の方も、おれの顔を見て驚いた表情になった。「真由美…」小さくおれは呼びかけたが、彼女は踵(きびす)を返して立ち去ろうとした。おれは、衝動的に彼女を追いかけ…といっても三歩ほど近づいてその肩に触れた。「待ってくれ」「やめて…」「少し、話さないか